現在、RIZINのリングでデビューから3戦連続1ラウンド勝利中のスダリオ剛(つよし)にとって、6月13日(日)『RIZIN.28』(東京ドーム)でのシビサイ頌真(しょうま)戦は、MMAファイターとしての真価を問われる一戦になる。
かつて、貴乃花部屋で将来を嘱望されていたにもかかわらず、不祥事により22歳の若さにして廃業の道を選んだスダリオ。それからわずか1年後の2020年9月に総合格闘家としてデビューすると、驚異的な身体能力と適応力を見せつけ、ディラン・ジェイムス、ミノワマン、宮本和志とプロレスラー相手に3連勝中だ。
しかし、スダリオは現状に満足していない。3月の宮本戦後、リング上でRIZINの榊原信行社長にこうマイクアピールした。
「ちゃんとしたファイターとやらせてください」
今度の対戦相手のシビサイ頌真は、日本を代表する柔術ベースの総合格闘技ジム・パラエストラ東京所属。Krush、DEEP、ZSTと様々なプロのリングに上がり、現在はRIZINで2連勝中のヘビー級ファイターだ。
はたして、スダリオ剛の潜在能力は"本物"なのか? 6・13東京ドーム大会直前のスダリオを直撃した。
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――格闘家としてデビューして8ヶ月。3戦全勝の今までを振り返り、どうですか?
スダリオ 思ったより順調に来ているなと思っています。
――昨年9月、さいたまスーパーアリーナでのデビュー戦は覚えていますか?
スダリオ やっとここまで来たか、という感じでした。大相撲時代から、さいたまスーパーアリーナで闘うことに憧れていたんです。自分の好きな曲で入場するのも新鮮だったし、うれしかったですね。
――試合は、1R終了後にドクターストップがかかってディラン・ジェイムスにTKO勝利。思ったより動けた感じですか?
スダリオ 今考えると、「悪くはなかったのかな」くらいですね。点数で言えば40点くらいだったと思います。
――なかなか厳しい点数をつけますね。そして2戦目は、昨年大晦日のミノワマン戦でした。
スダリオ 最初に話を聞いたときは、階級が違うから「なんで?」って思いました。でも(ミノワマンは)、無差別級のスーパーハルクトーナメント(2009年)で優勝しているし、ジャイアントキラーとしては凄い戦績を残しているから、「いい経験をさせてもらおう」、そんな気持ちで挑みましたね。
――試合を決めたのはカーフキックでしたね。
スダリオ あれは作戦にはなかったんです。確かに打撃で行こうとは考えていたんですけど、相手はおそらくタックルに来るだろうと。タックルに来ると前重心になるから、それをさせないようにカーフキックを蹴っていたんです。自分としては、まさかあれで決まるとは思いませんでした。
――その後、カーフキックが格闘技界の流行語にもなるほど注目されていきます。
スダリオ それは自分よりも、堀口恭司選手が朝倉海選手にそれで勝ったからでしょう(笑)。堀口選手は以前から使っていましたけどね。でも、自分は力士上がりだから、そんなことをするなんてファンも思ってなかったと思います。自分でも思ってませんでしたし(笑)。
――そして今年3月の宮本和志戦は、開始8秒での秒殺でした。
スダリオ 試合結果よりも、その後(レフェリーのストップ後に攻撃を加える暴走行為)が問題になってしまって。今は、いけないことをしてしまったと真摯に受け止めて、次からは、いい意味で話題を集めようと切り替えてます。
――その試合後に「ちゃんとしたファイターとやらせて」とマイクアピールした結果、『RIZIN.28』での相手はシビサイ頌真選手になりました。印象は?
スダリオ 会見の時に会ったんですけど、身長がデカかった。プロレスラーのように煽ってくるタイプではない。そのくらいですかね。
――これまでのプロレスラーとは毛色の違うファイターです。
スダリオ やっとだなと思いますね。場所が東京ドームなのに、今までのようなプロレスラーが相手だと格闘技ファンも納得しない。その点はよかったなと思います。
――それと今回から、MMAルールの全試合がヒジありになりました。スダリオ選手にとっては有利でしょうか? それとも不利になりますか?
スダリオ 有利ですね。もちろん自分がやられる可能性もあるんですけど、こっちもやれますから。中途半端にやられるなら、バンバンやられたほうが燃えますよ。リングの上なら怖くないし、覚悟も決まっています。やるなら激しいほうがいいですね。
■貴乃花親方に勧められた「初っ切り」
――大相撲時代の話を聞きたいのですが、「初っ切り(しょっきり)」をやっていたそうですね。
スダリオ はい。「初っ切り」っていうのは、相撲の禁じ手を面白おかしく伝える見世物で、巡業とかでやるんですよ。もともとは、貴乃花親方が巡業部長で、僕と弟(双子の弟、貴源治)に度胸を付けさせるためにやらせたんです。
――お芝居みたいで面白いですよね。
スダリオ 初っ切りで大事なのは、どうやったらお客さんに笑ってもらえるかなんです。例えば大きい声を出したりとか。でも普段からそんな性格でもないし、恥ずかしかったですね。
初っ切りには台本や流れがあって、いわば"演技"をするんですけど、最初は頭が真っ白になって覚えたことが全部飛んでしまったりして大変でした。
――そんな苦労があったとは。
スダリオ でも、そのおかげで度胸がついたというか、あんまり緊張しなくなったんです。
――ちなみに大相撲時代、体重は何kgだったんですか?
スダリオ 160kgとちょっとくらいです。そこまで大きくはなかったです。
――そこまで大きくない、と。
スダリオ はい。周りはだいたい170kg以上ですからね。
――入門時は何kgだったんですか?
スダリオ 81kgでした。
――ということは、15歳から22歳までの7年間で、体重が倍に!
スダリオ 最初の2、3年で体重の増やし方というか、増えるリズムがわかったんです。
――リズム?
スダリオ カラダに悪い物というか、高カロリーのものを、悪いタイミングで食べる。吐かない程度に。例えば寝る前、寝起きとか(笑)。
――だけど、動けないカラダにしても意味がないわけですよね?
スダリオ 「お前はまだ小さいから」って貴乃花親方に言われていたので、トレーニングも必死でやりましたよ。だから無駄なものというより必要なものを食べていましたね。
――すごい量を食べたエピソードで覚えていることはありますか?
スダリオ 中学を卒業して入ったばかりの時の話なんですけど、近くにひと皿380円の中華料理のチェーン店があったんです。(元大関の貴ノ浪)親方に僕と弟が呼ばれて、「お前ら、(カラダが)細いから1万円分食って来い。お釣りは100円までなら許してやる」って1万円を渡されて。
――ひと皿380円の店で、ふたりで1万円分!
スダリオ 兄弟子ふたりに監視されながら、3、4時間かけて食べましたよ。バレないようにトイレで吐いたりしながら。だけど、店の外に出た途端にまた吐いちゃって。3歩歩いたら吐いて、3歩歩いたらまた吐いて(苦笑)。
■エンセンに言われた「死にはしない」
――今、スダリオさんのコーチをやっているエンセン井上さんは、KONISHIKIさんに紹介してもらったそうですね。
スダリオ そうですね。でも、最初にKONISHIKIさんに連絡したのは、別の話だったんです。
――別の話?
スダリオ KONISHIKIさんは、アメリカで相撲の巡業みたいなツアーをやっていたんです。僕は相撲を辞めてお金を稼がないといけないから、その件で電話を入れたら「お台場でバーベキューをやっているからおいで。エンセンも来るから」って。
結局、その日、エンセンさんは来なかったんですけどね(笑)。でも翌日には、KONISHIKIさんに「エンセンに電話番号を教えたから、すぐかかってくるよ」って言われて。それで次の週の月曜日にエンセンさんの家に行かせてもらいました。
――エンセンさんには何を教わりましたか? 技術はもちろん、心構えみたいなものを教わったんじゃないかと。
スダリオ エンセンさんからは、「殺し合いをしに行く気持ちがないとやられてしまう。でも、例えばグランドで腕を折られることがあるかもしれないし、足を折られることがあるかもしれない。そしたら確かに少し不自由な生活をしなければならない時期があるかもしれないけど、死にはしない。首を絞められて気絶はするけど、格闘技にはルールがあってレフェリーが止めてくれるから死なないよ。そう思ったら何も怖いことはないでしょ」って言われました。
――格闘技に対する恐怖心を克服する、エンセンさんなりの心構えですね。
スダリオ そうですね。「だから、相手にやられることは、そんなに大したことじゃないでしょ」って。エンセンさんには、リングに上がるための考え方とかマインドを作ってもらって、そこから始まりましたね。
――今回の試合、まずは勝つことが大前提ですけど、その次のことは考えていますか?
スダリオ みんなには早いとか無理だと言われるかもしれないですけど、K-1、PRIDE、UFCで活躍したアリスター・オーフレイムとやりたいです。正直、やられるかもしれないですけど、そんなのは当たり前。だからといってやらないのは逃げだし、もし僕に挑戦する権利をもらえるなら絶対に対戦したいですね。
常に、イチかバチかみたいな生き方なので、別に今さら怖いとも思わないし、僕の中ではそれが近い将来の目標です。
■スダリオ剛 Tsuyoshi Sudario
1997年5月13日生まれ、栃木県出身。身長190cm、体重115.0kg、所属フリー。
〇父が日本人、母がフィリピン人の双子として生まれ、幼少の頃はサッカー、空手、バスケットボール、ボクシングと、様々なスポーツを経験。なかでもバスケットボールは、現在NBAのウィザーズで活躍する八村塁のライバルとして鎬を削り、抜群の運動神経を見せていた。13年に弟(貴源治)とともに貴乃花部屋に入門。同年3月場所で初土俵、19年に引退。通算成績は165勝112敗28休。廃業後は、格闘家に転身。RIZINのリングで3戦連続で1R勝利中。
Twitter: @TSUYOSHIKAMIYA3
Instagram: tsuyoshi__13
Yogibo presents「RIZIN.28」
2021年6月13日(日)13:30開場/15:30開始 会場:東京ドーム ※開場・開始時間は予定。決定次第RIZIN FFオフィシャルサイトにて。
<対戦カード>
・バンタム級トーナメント1回戦/朝倉海vs渡部修斗、石渡伸太郎vs井上直樹、元谷友貴vs岡田遼、扇久保博正vs春日井“寒天”たけし
・ライト級タイトルマッチ/トフィック・ムサエフvsホベルト・サトシ・ソウザ
・スペシャルワンマッチ/斎藤裕vsヴガール・ケラモフ、朝倉未来vsクレベル・コイケ、弥益ドミネーター聡志vs“ブラックパンサー”ベイノア、シビサイ頌真vsスダリオ剛
<放送、配信・PPV情報>
・6/13(日)20:00~21:54 フジテレビ系列全国放送 ※一部生中継 ※延長対応あり
・スカパー!にて生放送PPV、配信プラットフォーム「Exciting RIZIN」、「RIZIN LIVE」でも配信