サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第203回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、浦和レッズに加入した新外国選手、キャスパー・ユンカー(27)について。今年5月にJリーグデビューするや、抜群の存在感を放っているデンマーク出身のFW・ユンカー。2020年シーズンには、ノルウェープロサッカーリーグで得点王も獲得したユンカーの日本でのプレーを宮澤ミシェルも高く評価する。
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W杯アジア2次予選を戦う日本代表や、東京五輪に向けて最終段階にある東京五輪U-24代表の動向に目が向いているけれど、それと同じくらい興味深いのが、代表活動によってJ1リーグが中断している期間を各クラブがどう活かすのかということ。
ルヴァンカップは行なわれているから完全に停止してはいないんだけど、J1クラブにとって、この期間に取り組んだことがリーグ戦の再開後に成果として表れてくると思うんだよね。
そのなかで注目しているのが、外国人選手がこの時期でどれだけチームにフィットできるのか。彼らの個性や持ち味をチームに還元できるのかということ。
今シーズンは新型コロナ禍の影響もあって開幕に間に合わなかった外国人選手は少なくなかった。合流の遅れを取り戻すためにシーズンを戦いながら突貫工事的にチームにフィットさせていたけれど、そこで浮き彫りになった課題にしっかり取り組めるのがこの期間なんだよね。
外国人選手がしっかりフィットした時、各クラブのチーム力はどこまで上書きされるかは楽しみなんだけど、なかでも注目しているのが、浦和のFWキャスパー・ユンカーだよ。
4月に契約して、5月にJリーグデビューすると、J1リーグでは第13節の仙台戦から4試合連続ゴールを決めるなど5試合で5得点。
身長187cmの高さがあって、左利きでテクニックもしっかりある。ボールがおさまるし、スピードだってないわけじゃない。187cmと長身だから歩幅も大きいから、めちゃめちゃ速くは見えないだけでさ。
そのユンカーがゴールを量産できている理由は、ポジショニングが抜群にいいからだよね。
ゴール前でDFの嫌がるところに抜群のタイミングで入ってくる。DFと駆け引きしながら味方の状況に合わせて何度も動き直す姿を見ていると、単にフィジカル任せのFWではなく、サッカーIQの高さを感じるんだよね。
シュートを打てるポイントに入れても、シュート技術がともなわなくてゴールを決められないFWも意外といるけど、ユンカーはキックが上手いから落ち着いてボールをネットに蹴り込んでる。このあたりも決定力の高さにつながっているよね。
なにより自分の仕事を理解しているよ。あれだけのテクニックがあったらボールを持ちたがっても不思議ではないんだけど、ユンカーは違うね。相手陣の低い位置でボールを受けても、良い状況の味方に簡単にパスをさばいて、ゴール前へと入っていく。
得点が自分の仕事だってわかっているからだし、そのためには自分ひとりで何でもやろうとするのではなく、組織だったプレーのなかで味方に使ってもらって生きる意識があるんだろうね。
浦和の泣き所だった決定力の部分を救ったし、浦和にとっては久しぶりの明るい話題となっているユンカーだけど、その彼がこの中断期間でさらにチームにフィットしたら、どこまでゴール数を伸ばすのかは気になるよ。
中断前の時点で得点ランキングのトップはレアンドロ・ダミアン(川崎)と、アンデルソン・ロペス(札幌)の12得点。次いで日本代表に選出されたオナイウ・阿道(横浜FM)が10得点。9得点で小林悠(川崎)、前田大然(横浜FM)、古橋亨梧(神戸)がいる。
ユンカーがここに追いつく可能性はないとは言い切れないよね。チームメートとの呼吸がもっと合ってくれば、ゴールパターンは増えていくだろうし、ゴール量産のペースもさらに加速する可能性はあるよね。
ただ、再開後に浦和と対戦するチームは当然ながらユンカー対策は講じるてくるはず。ユンカーを止めるためにマン・マークをつけるのか、ボールの出どころを抑えるのかは、各クラブによって違ってくるだろうけど、そこをどうユンカーが上回るのか。
ユンカーが現れたからこそ、浦和戦でこうした見どころが生まれたわけだからね。それに他クラブのサポーターからしたら、久しぶりに怖さのある浦和が戻ってきた気がするんじゃないかな。
6月20日の湘南戦から再開されるJ1リーグで、ユンカーと浦和の勢いが今後はどうなっていくのかは、しっかり追っかけていきますよ。