コロナ禍で1年延期されたEURO2020が6月11日に開幕。W杯よりもハイレベルで面白い、強豪各国によるバチバチの戦いを制するのは? コロナ対策は? 意外な伏兵は? スター候補は? 大会の注目ポイントを解説します。
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■フランス、ドイツ、ポルトガルが同組に!
新型コロナウイルス感染拡大の影響で1年延期となっていたEURO2020(サッカー欧州選手権、以下EURO)が現地時間6月11日に開幕(決勝は7月11日)。予選を勝ち抜いた24ヵ国が欧州王者の座をかけて争う。
●コロナ対策
東京五輪に先んじて開催されるビッグスポーツイベントだけにコロナ対策も気になるところだが、UEFA(欧州サッカー連盟)が求めた条件、「最低25%の動員(基本)」を保証した10ヵ国11都市で「有観客」で行なわれる。
とりわけ注目はブダペスト(ハンガリー)。会場のプスカシュ・アレーナは6万人を超える収容人数を誇るが、上限を設けずに100%動員予定だ。
背景にはハンガリーの高いワクチン接種率があり、国外からの観戦希望者も事前のPCR検査で陰性を証明するなどの特別入国ルールを守れば、最長72時間の滞在が認められている。陸続きとはいえ、いまだ国境を越える移動が簡単ではない状況で、大会がどのように運営されるのか。勝負の行方とともに興味深いところだ。
●"死の組"&優勝候補
組分けを見て、真っ先に目がいくのはF組。14年ブラジルW杯優勝のドイツ、16年の前回大会優勝のポルトガル、18年ロシアW杯を制したフランスの3ヵ国が同居する"死の組"である。WOWOWの大会中継で解説を務める安永聡太郎氏(サッカー指導者・解説者)もこう語る。
「どうしたってF組が気になりますよね(笑)。個人的にはベテランのクリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)が健在で、ブルーノ・フェルナンデス(マンチェスター・ユナイテッド)やジョタ(リバプール)、ジョアン・フェリックス(アトレティコ・マドリード)といった若手が出てきたポルトガルに期待していますが、いったいどこが抜け出るのか。
ただ、"1弱"とみられているハンガリーも、前回大会でベスト16に進出するなど決して弱くない。2戦目までは地元で戦えますし、格上相手にひと泡吹かせようと気合いを入れて臨んでくるでしょう。ほかの3ヵ国はやりづらいと思います」
英ブックメーカー大手「ウィリアム・ヒル」の6月1日時点の優勝オッズではフランスが4.5倍で1番人気。欧州の主要メディアでも、3年前のロシアW杯での活躍で世界に名を轟(とどろ)かせたムバッペ(パリ・サンジェルマン)擁するフランスが、有力な優勝候補とする見方は多い。
ただ、安永氏はフランスの不安要素にベンゼマ(レアル・マドリード)の存在を挙げる。チームメイトを恐喝した疑いで代表追放状態になって以来、5年半ぶりの電撃復帰を果たした元エースだ。
「ベンゼマは33歳となった今季もスペインリーグで得点ランキング2位の23得点を挙げているなど、計算できる戦力であることは確か。ただ、22歳のムバッペらとは一緒にプレーしたことはないでしょうし、起用法を誤れば不満分子にもなりかねない。フランスが優勝候補の一角なのは間違いないですが、へたをすれば大コケのリスクもある」
同じくWOWOWで解説を務める野口幸司氏(元日本代表、現サッカー指導者・解説者)は、F組も優勝候補も"ポルトガル推し"だ。
「ドイツはいつもより前評判が低いとはいえ、もともとポテンシャルのある怖い存在。フランスも、ムバッペはもちろん、グリーズマン(バルセロナ)、ポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)、カンテ(チェルシー)らタレントが豊富で、有力なのは間違いない。ムバッペの桁違いのスピードとテクニックは他国にとって脅威でしょう。
それでも、前回大会でグループリーグを3位でギリギリ通過しながらも、最終的に優勝したポルトガルの経験値を買いたいです。大黒柱のロナウドはいまだ元気。若手の台頭で選手層も分厚くなった。波に乗れば連覇を達成しても不思議じゃない」
コロナ禍で行なわれる今大会は登録メンバーが23人→26人に、1試合の交代枠も3人→5人に増えた。こうした変化が、結果に与える影響も少なくなさそう。
「交代枠の増加は、一般的に選手層の厚いチームに有利に働く傾向にありますが、使い方次第で流れは良いほうにも悪いほうにも変わる。そういう意味で、監督の手腕がより顕著になるのでは。もちろん、11もの都市での分散開催ということで、移動の負担や気候の変化への対応など、これまでになく調整が難しい大会になるでしょう」(野口氏)
また、コロナ禍で代表チームの活動が制限されていた期間もあった。その上、今季は各国リーグや欧州のカップ戦の日程もタイトだったため、各国ともコンディション調整には苦労している様子。
「(準備の試合が少なく)戦術を確立する時間がなかったとすれば、長い時間プレーしてきて、お互いをわかり合った選手たちがいるベルギーが有利では。最近のエデン・アザール(レアル・マドリード)は体が重そうですが、エースのルカク(インテル)は所属クラブでもリーグ優勝を経験するなど好調です。
5月末のチャンピオンズリーグ決勝で顔面を骨折したデ・ブルイネ(マンチェスター・シティ)も出場は問題なさそう。左サイドにはドリブル突破が得意なカラスコ(アトレティコ・マドリード)もいる。ヴィッセル神戸のフェルマーレンが招集されていることを考えると守備に不安がありそうな気もしますが、FIFAランキング1位の力を発揮すれば優勝のチャンスは十分」(安永氏)
■1年延期で登場した注目のスター候補
●ダークホース
過去の大会を振り返ると1992年にデンマーク、04年にギリシャといった伏兵が優勝するなど、有力国がすんなりと勝てないところもEUROの魅力。今大会、旋風を巻き起こすのはどこか。
「(16年EUROと18年W杯は予選敗退したため)久しぶりに国際舞台に帰ってきたオランダに注目したいですね。個人的に『EUROといえばオランダ』みたいなイメージもあるので。個人技を生かした攻撃的なサッカーは魅力的だし、世界最高のDFと評判のファン・ダイク(リバプール)がケガで欠場するのは痛いですが、デ・ヨング(バルセロナ)という楽しみなMFも出てきました。爆発に期待します」(野口氏)
「ユース世代から若手が出てきたイングランドが躍進すれば、大会全体が面白くなりそうだし、その可能性は十分あると思います」(安永氏)
18年W杯でベスト4に進出し、さらに若手の逸材が頭角を現しているイングランド。くしくも今大会は準決勝、決勝の舞台がロンドンのウェンブリー・スタジアムということで初優勝の期待もかかる。
●注目の若手スター
優勝争い以外では、スター選手の競演も楽しみだが、チェックすべき若手は?
「イングランドの21歳のMFフォーデンですね。背筋がピンと伸びたドリブルの姿勢もいいし、ゴールを決める勝負強さもある。今季マンチェスター・シティで急成長した選手で、EUROが昨年に開催されていたら見られなかったというところにドラマ性も感じます。攻撃的な位置ならどこでもこなすユーティリティ性があり、サッカーIQも高い。EUROの大舞台でどれくらいやれるか楽しみです」(野口氏)
「192cmの長身ながらスピードもあるスウェーデンのFWイサクは面白いですよ。まだ21歳ですが、今季はレアル・ソシエダで16ゴールをマーク。(ケガで欠場の)イブラヒモビッチとの2トップが見られないのは残念ですけど、今大会で一気にブレイクする可能性も」(安永氏)
コロナのせいで1年遅れでの開催となったが、そのぶんワクワクも増す大会になりそうだ。