一昨年、昨年とリーグ連覇を果たしたものの、日本シリーズでソフトバンク相手に2年連続の4連敗を喫した巨人。だが、5月30日の交流戦で"因縁の相手"に勝利。2019年から続いた連敗(オープン戦、日本シリーズ含む)を「14」で止めた。
選手、監督、フロントなどさまざまな視点から、「21世紀の巨人軍」を分析・考察した『巨人軍解体新書』の著者であるゴジキ氏は、9年ぶりの日本一を目指す今季の巨人軍について、どう見ているのか?
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――『巨人軍解体新書』は今季開幕前に発売され、巨人ファンを中心に話題を呼びましたよね。
ゴジキ この本を書き上げる上で過去のプロ野球本をひととおり研究してみたんですが、意外にも巨人軍自体を分析した本はほぼなくて。そこで、令和の現在に至るまでの巨人軍の歴史やチーム状況、選手、監督について、総合的に考察していこうと決めました。
第2章では歴代監督について細かく言及していますが、そういう視点の考察もこれまであまりされていなかったので意識して書きましたね。巨人軍を前面に押し出したオレンジ色の表紙ですが(笑)、他球団との比較もかなりしているので、巨人ファンではないプロ野球ファンの方にも面白く読んでいただけると思います。
――ゴジキさんは「好きな選手は松井秀喜と坂本勇人(はやと)」と公言していますが、書籍でもふたりを深掘りしています。
ゴジキ 第4章の「巨人軍21世紀スター選手論」で掘り下げていますが、ここは書いていて楽しかったですね。「優勝に貢献し、個人タイトルを獲(と)るレベルの生え抜き」という基準で松井や上原浩治、阿部慎之助、菅野(すがの)智之といった面々を並べていますが、特に坂本のパートが多くなっちゃいました。8000字ほど密度濃く書きましたが、まだ書き足りないです(笑)。
――もう坂本選手で一冊書けそうですね(笑)。
ゴジキ 実は坂本を掘り下げた本って一冊も世に出ていないんですよ。本人が語っている本も、第三者が論じている本もなくて。坂本は今年プロ15年目。節目のタイミングで"坂本本"を書きたいなという気持ちが湧いてきました。
――ちなみに、坂本選手のどんなところに惹(ひ)かれるんですか?
ゴジキ まず何よりもそのスター性ですね。高卒1年目から1軍の試合に出場して、プロの洗礼を浴びながらも、それを乗り越えてレベルアップしていき、15年近くトップレベルを維持している。そのストーリーが最高なんです。
あと、「ここぞ」という場面でとにかく打つ勝負強さ。得点圏打率も高いんですけど、それ以上に記憶に残る場面での決勝打が多くて、そこも魅力的です。
――ただ、坂本選手は5月10日に右手親指骨折で戦線離脱。かなりの痛手ですよね。
ゴジキ 1ヵ月以上の離脱は3、4年ぶりでしょうか。坂本がいるといないとではチーム力に大きな差が出ますね。打線もそうですけど、特に守備の影響が大きいんですよ。
ただ、ケガは心配ですが、僕は意外とポジティブに考えていて。実はケガをする前は少し調子を落としていたんです。坂本は疲れてくると打撃の波が大きくなりがちなので、今回うまく休養できるのであれば、むしろプラスの要素が大きいかもしれません。
2018年も1ヵ月ほど離脱した後に復帰すると絶好調で、打率に関してはキャリアハイの成績を残しましたから。東京五輪も控えているので、しっかり治して、万全の状態で復帰してほしいです。
――坂本選手は21世紀の巨人軍を語る上で外せない選手ですからね。もうひとり絶対に外せない人といえば、やはり原辰徳監督。2019年から3度目の指揮を執り、一昨年、昨年とリーグ連覇を達成していますが、巨人ファンとしていかがですか?
ゴジキ 今年は坂本だけでなく菅野も開幕後にケガで離脱しました。投打の大黒柱を相次いで失っても、5月末時点で首位・阪神と4.5ゲーム差は上々です。正直、原監督じゃなかったら、阪神にもっとゲーム差をつけられていたはず。ほかの球団の監督と比べても、マネジメント力はずばぬけていると思います。
昨季、3番・坂本、4番・岡本和真、5番・丸佳浩にしたこともありましたが、今年は2番・坂本、3番・丸、4番・岡本に戻したのはいい判断でした。第3次原政権の特徴はなんといっても2番・坂本なので。坂本が復帰して定位置に戻ったら、チームも乗ってくると思います。
――5月30日には、因縁の相手、ソフトバンクに勝利。明るい兆しもあります。
ゴジキ 「ようやく勝ったんだ」というのが率直な気持ちですね。しかも、相手の本拠地での勝利ですし、その価値は大きいですよ。ソフトバンクからしたらただの1敗かもしれませんが、巨人からしたら優勝したかのような大きな1勝です。巨人という球団の歴史を考えると、そういう感想はあまりよくないですけど......。
パ・リーグで首位を争う楽天、ソフトバンクと交流戦序盤に連続で対戦しましたが、2勝1敗と1勝2敗のイーブンで終われたのはよかったです。できれば楽天には3連勝してほしかったですが、勝ちきれない試合が多いのは今季の課題ですね。
――リーグ3連覇を目指す上で最大のライバルはやはり阪神。今年は開幕から好調ですが、焦りはないですか?
ゴジキ 大山悠輔やガンケルの離脱はあるといえ、阪神はここまでほぼフルメンバーで戦っています。巨人はケガやコロナで離脱する選手が多いなか、よく踏みとどまっていますよ。
僕がもし巨人首脳陣だったら、髙橋優貴やメルセデスなど阪神が苦手とするピッチャーを直接対決でつぎ込みますね。阪神に最大13ゲーム差をつけられながらも大逆転優勝を果たした2008年も、内海哲也とグライシンガーを当てまくったんですよ。
内海が8試合投げて4勝1敗、グライシンガーが5試合投げて4勝1敗、ふたりとも防御率1点台と大活躍したことで阪神との差を詰めることができました。
阪神も最近は巨人に負け越しているので、いやな存在ではあると思うんですよ。坂本や菅野が復帰して、チームが調子を上げていき、阪神との直接対決でしっかり勝ち切れれば、逆転優勝も十分に可能だと思います。
●ゴジキ
試合全体からワンプレーに至るまで、徹底分析を重ねたツイートで、巨人軍の選手を含めて1万4000人以上にフォローされる人気アカウント【@godziki_55】。各種メディアで巨人軍や高校野球を中心に執筆。2020年9月から光文社新書の公式noteにて、『ゴジキの巨人軍解体新書』を連載開始。デビュー作の本書が大好評で2冊目も年内刊行予定。好きな選手は松井秀喜と坂本勇人。
■『巨人軍解体新書』
(光文社新書 924円)
2020年、原辰徳監督の下でリーグ連覇を成し遂げたものの、日本シリーズでは福岡ソフトバンクホークスに2年連続の4連敗を喫した読売ジャイアンツ。ファンもアンチも日本一多い球団の哲学を、21世紀を中心にひもときながら徹底考察! 松井秀喜、上原浩治といった偉大なOB、菅野智之、坂本勇人、岡本和真など今をときめくスターたちのプレー分析はもちろん、原采配の魅力や近年の移籍戦略まで深掘りする。