サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第205回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、久保建英について。シーズンを終え、その去就に注目が集まる久保建英だが、宮澤ミシェルも「今夏の去就がサッカー人生を左右するかもしれない」と語った。
*****
久保建英にとってこの夏は、サッカー人生の先行きを左右するものになるんじゃないかな。
無冠に終わったレアル・マドリードがチーム立て直しのための新監督をカルロ・アンチェロッティに決めた。監督としての実績はこれ以上ないほど申し分ないよな。
ミラン監督時代の02-03、06-07にチャンピオンズリーグ制覇。チェルシー監督時代の09-10シーズンはプレミア優勝。パリ・サンジェルマン監督時代は12-13シーズンに19年ぶりのリーグ優勝に導いた。レアル・マドリードの監督を最初に務めたときは、13-14シーズンにチャンピオンズリーグ優勝を果たしたし、その次に就いたバイエルン・ミュンヘンでもリーグ優勝を手にした。
5大リーグすべてで実績を残してきた監督が再登板することになって、レアル・マドリードは新シーズンでのタイトル奪還に向けて大幅に戦力刷新を行なおうとしている。
守備の大黒柱のセルヒオ・ラモスとの契約は更新しなかったし、セルヒオとCBコンビを組んだラファエル・ヴァランも放出予定。ほかにもルカ・ヨヴィッチ、ダニ・セバージョス、イスコなどの選手たちも構想外になっているようだ。
こうなると気になるのが、久保建英は新シーズンをどのクラブで戦うのか、になるよな。
久保は20-21シーズンの前半をビジャレアルでプレーしたけど出番を勝ち取れなくて、後半戦はレンタル移籍先をヘタフェに変えた。シーズン終盤の37節に決勝点となるシーズン初ゴールをあげてチームの残留を決めたけど、久保の今季はどうなるのかは不透明なまま。
久保がヘタフェでもっと多くのゴールを決めていたら、新シーズンの状況は違ったものになっていただろうし、それができる可能性はあったよな。
バルセロナからヘタフェにレンタル加入していたカルレス・アレニャと、元バルサ組として共闘できていたら、それも実現したはず。でも、アレニャは独自の勝負に出ちゃって、久保にパスが戻ってこないことが何度もあった。アレニャにしても次に向けてアピールしなきゃいけないから必死だったことはわかるけどね。
久保は新シーズンに、どういう決断をするんだろうね。新監督はやり方をガラッと変えて独自色を出そうとするもの。ジダン前監督の手垢がついておらず、アンチェロッティのお眼鏡に叶えば使ってもらえるけど、それも実績と実力があってのことだからね。
いつ訪れるかわからないチャンスのために、ベンチで出番を待つだけのシーズンを送る覚悟があるなら残留するのも手だけど、ようやく20歳になったばかりの久保にとっては、まだまだ試合を経験することが大事。試合をしながら成長をとげていくことを最優先にしてもらいたいよな。
久保が持ち味を出すには、チームのスタイルが攻撃的な方がいいよね。そういうクラブはラ・リーガだとレアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリード、セビージャ、レアル・ソシエダ、ベティスあたり。どこのクラブに行こうとも試合に出るためにはレベルの高い選手を相手にしてポジション争いをしなきゃいけない。
久保の特性が最大限に生きる移籍先はどこだろうと考えると、バルセロナになっちゃう。でも、それは禁断の手だからね。そうなると個人的に行ってもらいたいのがベティスだよ。
昨季はリーグ戦6位でELへの出場権があるから、選手層は必要になるんだけど、久保が持ち前の攻撃力を発揮してゴールを決めようものなら、あのアンダルシア地方のクラブならではの熱狂に包まれることになる。それをやっぱり見たいね。
ただ、ラ・リーガにこだわる必要はないよな。イングランドでもドイツでもイタリアでも、久保を必要だと言ってくれるクラブがあれば、そこでプレーするのもいいんじゃないか。
久保はバルセロナ下部組織で育ったからスペイン語が堪能で、その利点を生かすにはラ・リーガがいいんだけど、久保くらい賢くて、コミュニケーションがちゃんと取れれば、多少言葉が不自由でもやれちゃうはずだよ。
いずれにしろ、久保は東京五輪でしっかりアピールする必要があるよ。それが新シーズンの自分の立ち位置を決めることになるから。それに久保が活躍すればするほど、U-24日本代表もメダルへと近づくことになるのは間違いない。久保から目が離せない夏になりそうだね。