身長191cmの大型左腕として注目される八王子の羽田。2年時秋からエースとしてチームを牽引する。昨秋に痛めた左肘の状態は気になるところだが、夏の大会で実力を存分に発揮できるか 身長191cmの大型左腕として注目される八王子の羽田。2年時秋からエースとしてチームを牽引する。昨秋に痛めた左肘の状態は気になるところだが、夏の大会で実力を存分に発揮できるか

この夏、プロ野球のスカウトたちは"怪物"のにおいを放つ高校球児を追って全国各地に散らばるだろう。何しろ、甲子園出場経験のない高校3年生の中に、少なくとも4人の大物ドラフト候補がいるのだ。

筆頭格は、秋田で腕を磨く風間球打(ノースアジア大明桜)だ。現時点で最速153キロを計測する速球派右腕で、強く叩きつける腕の振りと、爆発力のあるリリースにはロマンがある。

ある球団スカウト幹部は「佐々木朗希(ロッテ)を彷彿(ほうふつ)とさせる」と語る。2年前に最速163キロを計測し、4球団の1位指名を受けた大器が引き合いに出されるところに風間の非凡さが表れている。

リリースポイントが高く、腕を縦に強く振るため、フォークのような縦に落ちる変化球を得意にする。身長182cmと上背もあることから、普通のストレートでもボールに角度がつき、打者にとってとらえづらい軌道になる。

風間を擁するノースアジア大明桜は昨夏の秋田独自大会を制したが、昨年はコロナ禍の影響で甲子園大会が中止に終わったため全国舞台に進めなかった。風間が甲子園にコマを進め、満天下に実力をアピールできれば、今秋のドラフト会議で"目玉"に浮上する可能性すらある。ノースアジア大明桜の秋田大会初戦は7月11日、能代戦の予定だ。

なお、風間は出身の山梨から秋田へ越境入学し、寮生活を送っている。4人兄弟の三男であり、兄弟の名前は長男の球道から球星、球打、球志良と全員「球」の字がついている。風間が活躍するにつれ、その独特な名前もクローズアップされていくに違いない。

東の剛球右腕が風間なら、西の剛球右腕は森木大智(高知)である。本来であれば今年の高校3年生は「森木世代」とくくられても不思議ではないほど森木は突出していた。何しろ、中学3年時点で最速150キロをマークしたほど前代未聞の存在だったのだ。それも、硬式球よりもスピードが出にくいとされる軟式球で計測している。

高知中3年時の夏には、中学軟式の全国制覇を成し遂げている。快速球だけでなく鋭く曲がるスライダーなど、変化球の精度も中学生離れしていた。肉体的にも成長の余地を残しており、高校野球でも華々しい活躍が期待された。

ところが、高校野球では1年時から登板機会を得たものの、小さな故障もあって甲子園には進めずにいる。県内のライバル校・明徳義塾の後塵(こうじん)を拝する状況が続いており、今夏は最初で最後の甲子園を狙うしかない。

ストレートは最速154キロを計測するが、速球で空振りを奪うというより変化球を交えた総合力で勝負するタイプだろう。好調時は手のつけられない投球を見せるだけに、体調万全で今夏に臨みたい。高知の初戦は7月21日(高知高専と宿毛工の勝者との対戦)。宿敵・明徳義塾とは、お互いに順当に勝ち上がれば決勝で激突する。

今年は左投手にもスケールの大きな大器がいる。八王子の羽田慎之介。身長191cm、体重86kgの超大型サウスポーで、やや横振りに近いスリークオーターから「和製ランディ・ジョンソン」の異名を持つ。

本家はかつて身長208cmの巨体から「ビッグユニット」と呼ばれ、MLB通算303勝を挙げた大投手。偉大な先人を彷彿とさせる羽田が、凡才のはずがない。

しかし、今春の羽田は公式戦でわずか2試合、2イニングの登板にとどまった。肉体的に成熟しきっておらず、昨秋に痛めた左肘の回復と調整を優先させたためだ。安藤徳明監督は羽田の成長の見通しについて「あと3年はかかるでしょう」と語っている。

それでも、いざマウンドに立てば、しなやかな腕の振りから繰り出される最速149キロの快速球に目を奪われる。大きく横滑りするスライダーや、右打者への決め球に使うチェンジアップもウイニングショットになる。

本人は「甲子園で勝つことが目標」と強気の姿勢を崩していない。長いイニングを投げられる状態まで調整を進められれば、八王子の5年ぶりの甲子園は見えてくる。今夏の西東京大会初戦は7月17日、シード校のため3回戦からの登場になる。

高校生野手で貴重なドラフト候補、岐阜第一の阪口。投手でも活躍しているが、打者としてのパワーが高く評価されている。予選で不振を脱出し、迫力ある打撃を取り戻せるか 高校生野手で貴重なドラフト候補、岐阜第一の阪口。投手でも活躍しているが、打者としてのパワーが高く評価されている。予選で不振を脱出し、迫力ある打撃を取り戻せるか

スカウトが「野手で頭ひとつ抜けた存在」と評価するのは、阪口 樂(岐阜第一)。昨夏の岐阜独自大会で帝京大可児の本格派右腕・加藤 翼(現・中日)から特大本塁打を放つなど、強烈なインパクトを残した長距離打者である。

その構えや雄大なフォロースルーは、大谷翔平(エンゼルス)の姿と重なる。高校通算本塁打数は20本台と突出してはいないものの、ライトからレフトまで広角に大きな打球を運べるのが魅力だ。身長186cm、体重87kgの恵まれた体からは"大物オーラ"が放たれている。

ただし昨秋以降の阪口は、昨秋と今春の東海大会で15打数でヒットがないなどバットが湿っている。大勢のスカウトの前で結果を残せておらず、今夏は停滞感を拭い去る大爆発が求められる。

今年の高校生野手は現時点でドラフト指名候補が乏しいだけに、阪口の覚醒はドラフト戦線を大きく左右するだろう。今夏の岐阜大会初戦は7月10日、加茂戦だ。

今春の甲子園でスカウト陣から「ドラフト1位候補」と高く評価された小園健太(市和歌山)や達 孝太(天理)にスポットが当たるなか、今回紹介した4選手はドラフトの主役へと出世する可能性を秘めている。彼らが大化けする瞬間は訪れるのか、灼熱(しゃくねつ)の太陽が降り注ぐ夏の地方大会からチェックしよう。