EURO(欧州選手権)はイタリア、コパ・アメリカ(南米選手権)はアルゼンチンの優勝で幕を閉じた。
イタリアは準決勝のスペイン戦も、決勝のイングランド戦もPK戦の末に勝利。2018年ロシアW杯では60年ぶりに本大会出場を逃したけど、伝統国らしい勝負強さを取り戻したね。見事な復活劇だった。
一方、アルゼンチンも久しぶりのビッグタイトル獲得だ。永遠のライバル、ブラジルとの決勝は見応えがあった。お互いに相手のエースであるメッシとネイマールを自由にさせたくないと、中盤で激しい攻防が繰り広げられた。
内容的にはどちらが勝ってもおかしくなかったけど、代表では無冠だったメッシらアルゼンチンのベテラン勢の執念が上回ったね。
ブラジルはホームで負けたのは大きなダメージ。ただ、僕からすれば、よく決勝まで残ったなとも思う。大会を通してあまりいいサッカーができず、準々決勝のチリ戦、準決勝のペルー戦とギリギリで勝ち上がってきた。
特に攻撃はネイマール頼み。彼がドリブルで持ち上がるか、キープするかしないと攻められない。ジェズス、フィルミーノ、ヴィニシウスとスター候補に挙げられる選手はいるけど、結局、ひとりで局面を打開できるのはネイマールだけ。だから、彼を休ませられない。気の毒なほどボロボロになる。選手層の薄さがとにかく気になったね。
例えば2002年日韓W杯のときは、ロナウド、ロナウジーニョ、リバウドの3人のエースに加えて、カフー、ロベルト・カルロスと強烈なサイドバックもいて、どこからでも攻められた。逆に相手の守備は誰を潰(つぶ)せばいいのかわからなかった。
一方、今の選手は技術があり、運動量も豊富で、フィジカルも強いアスリートだけど、戦術ありきの型にはまったプレーしかできない。
ただ、それはブラジルに限った話ではない。世界を見てもメッシ、クリスティアーノ・ロナウドに代わるスーパースターがいつまでたっても出てこない。今回期待されたフランスのムバッペもパッとしなかった。個性的な選手が減るとともに、どの国も似たようなサッカーをするようになった。
そうなった理由は、たまにブラジルに帰ったときに実感する。昔に比べて、草サッカーをしている子供が全然いないんだ。都市部では空き地がなくなり、土の道路がアスファルトに変わった。また、若い人はゲームばかりやっている。そういった事情もあって、田舎を除けば、サッカーはスクールで年齢別に教わる習い事になっているんだ。環境的には日本と近いよ。
昔はデコボコのピッチで子供が大人に交じって、日が暮れるまでボールを蹴っていた。通用しなければ自分で工夫して技術を磨く。ちゃんとした審判がいないからけんかにもなることもある。そうしたなかで相手を出し抜くプレーを考える。ネイマールもそうした環境で育った。彼のプレーは誰かに教わったものではないんだ。
ブラジルですらそうなのだから、ほかのサッカー強豪国でも同じような状況だろう。道路で遊んではいけない。空き地で遊んではいけない。ほかにも娯楽はたくさんある。世界が変われば、サッカーも変わる。キレイな芝のグラウンドが増えたりしてプレー環境は整ったかもしれないけど、ファンタジスタは生まれにくくなった。時代の流れとはいえ、難しい問題だね。