東京五輪で10番を託された男・堂安 律(どうあん・りつ)は『週刊プレイボーイ』本誌で3年前から続く連載コラム『堂安 律の最深部』でこんなことを熱く語っていた。

「『大事なときに結局、あいつが点を取る』とみんなが思う、チームの中心の真のリーダーはピッチ上での立ち姿が全然違う」

15歳から憧れ続けた夢舞台、東京五輪の主役は彼しかいない。

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■常に自然体で試合に臨めるようになった

1年前、ビーレフェルトで戦うと決めたとき、「ここでダメなら、もうサッカー選手として終わり」という覚悟でした。それだけリスクを冒して戦った分、リターンも大きくて。すべてに満足はしてないけど、本来あるべき自分の姿を取り戻せたと思います。

行く前は「どこ?」という声が多かったけど、「ドイツに行って正解だった」と大半の人が言う環境をつくり出せたのはよかったですね。

この1年で90分を通したマインドセットがうまくなりました。今までは「試合を通して仕事をしてなくても、ひと振りでゴールを決められたらいい」と思っていたけど、「自分のプレーができれば、必ずチャンスは来る」ということを身をもって体感しました。

調子がよくても、何試合もゴールできなかったことがあったけど、そういうときに「このプレーを続ければ自然と点は入るよ」といろんな人から声をかけてもらえて。常に自然体で試合に臨めるようになりました。

「何かできる」という感覚がずっとある

シーズン序盤のバイエルン戦、ヴォルフスブルク戦、マインツ戦ではゴールやアシストをしたけど、この頃はまだ勢いだけでやってました。

でも、その勢いを自分なりに整理できるようになったんです。「調子いいときはこういう感覚やな」って。その感覚を脳や体で覚えて、うまく体現できるようになったのがシュツットガルト戦。バイエルン戦ではギャンブル的に成功した縦への突破も、すべてを把握した上でできました。

シーズン後半のドルトムント戦あたりで少しコンディションを落としたけど、うまく持ちこたえられました。その後、監督交代から2戦目のブレーメン戦で、もう一度、ハングリー精神を取り戻したというか、前半戦のようなプレーができたんです。

そこからは「ボールを持てば何かできる」という感覚がずっとあります。調子のいい悪いは関係なく、脳がすっきりとクリアになっているから、練習でもボールが来たらいろんなアイデアが浮かぶようになりました。

■アジア杯から2年半。今は心に余裕を持てている

日本代表として臨む大きな大会という意味では、このオリンピックは、2019年のアジア杯以来です。当時は心と体をうまくコントロールできていなくて、それを「空回り」というシンプルな言葉で収めようとしていましたね。

でも、この2年半で心と体の勉強をたくさんしてきたので、確実に自分をコントロールできるようになりました。

2019年のU-22コロンビア戦では「4人目のOAという意識を持ちたい」と言っていたけど、当時は悪い意味で責任感が強くて自分のプレーに身が入らず、クオリティが落ちてしまってました。

ただ、今は違います。ブンデスでやってきた自信なのかわからないけど、心に余裕を持ってプレーできています。

最近よくスタッフやトレーナーから、「うまい選手というより、いい選手になったな」「観客を楽しませるプレーはもちろんだけど、安心感のある選手になったな」って言ってもらうことが多くなりました。それこそ、まさに自分が追い求める理想の選手像です。人としても、選手としても、大きくなれているという実感はありますね。

■肝が据わってないと戦える舞台じゃない

「みんな、俺が楽しんでプレーしているのを見たいんだ」ってことにこの1年で気づきました。それがオリンピックだろうと、近所の公園だろうと、関係ないんですよね

それから、この1年でサッカーに対する考え方も変わりました。

両親をはじめ、僕を支えてくれている人たちがいっぱいいますけど、結局、「みんな、俺が楽しんでプレーしてるところを見たいんだ」ってことにこの1年で気づきました。それがどこのクラブだろうと、オリンピックだろうと、近所の公園だろうと、関係ないんですよね。

僕が小さい頃、公園で楽しそうにプレーしてるのを見るのが両親は楽しかったわけで。その頃から比べたら、舞台はステップアップしてますけど、オリンピックという大舞台でも自分が楽しんでプレーしている姿を見せてあげることが、僕を応援してくれる人たちへの一番の恩返しになると思います。

いろんな紆余(うよ)曲折を経て、いろんな人たちの協力のおかげで、オリンピック開催までたどり着きましたけど、その分、アスリートには責任や重圧があります。それをすべてパワーに変えて、日本の皆さんに感動と勇気を与えられるように、最高の結果を出したいです。

もちろん緊張はすると思います。「重圧を楽しむ」というときれいごとみたいだけど、本当にそれくらい肝が据わってないと戦える舞台じゃないと思っているので。今回、日本代表の10番を背負わせてもらえたことで期待と重圧は大きいけど、その分、自分に跳ね返ってくるリターンは計り知れないものがあると思う。

いろんな人たちの思いを背負ってプレーしないとなって。もちろん、優勝しか狙ってません。オリンピック、楽しんできます!

●堂安 律(どうあん・りつ) 
1998年6月16日生まれ、兵庫県尼崎市出身。ガンバ大阪、FCフローニンゲン、PSVアイントホーフェン(ともにエールディビジ)を経て、昨季、アルミニア・ビーレフェルト(ブンデスリーガ)へ期限付き移籍(6月退団)。2018年9月に満を持して日本代表デビュー。

●書道アーティスト原 愛梨さん「堂安 律×東京五輪」作品 
堂安選手の躍動感と東京五輪への思いが込められた一枚。シルエットの背中や脚には「堂安律」の文字が。サッカー日本代表のユニフォームをイメージしたカラーリングの東京タワーに、日の丸を連想させる右上の余白&赤色のサッカーボールも。添え文字は金色で「唯一無二」。