サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第210回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、日本人選手の欧州移籍について。今夏は多くの日本人選手が欧州のサッカーリーグに移籍するが、彼らは通用するのか? 宮澤ミシェルが解説する。
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東京五輪が始まった。キックオフの時間が考慮されているとはいえ、やっぱりこの暑さのなかでサッカーをするのは常軌を逸していると思う。すべての出場国の選手たちには身体をおかしくしないで、最後まで戦い切ってくれることを願っているよ。
日本U-24代表も頑張っている。それゆえ心配になるのが、海外クラブでプレーする選手たちの東京五輪後のコンディション。ヨーロッパでは新シーズンに向けて各クラブが始動しているけれど、五輪後には束の間でも、休息期間を取ってからチームに合流してほしいね。
ただ、遠藤航(シュツットガルト)のようにクラブでの地位が明確な選手はメンタル的に休みを取りやすいだろうけど、そうじゃない選手は難しい面もあると思うよ。
堂安律(PSV)にしろ、久保建英(レアル・マドリード)にしろ、新シーズンをどのクラブでプレーするかも決まっていないけど、新たなチームへの合流が遅れるほどポジション争いに加われないまま、シーズン序盤のほとんどをベンチで過ごす羽目になるリスクもあるんだよね。
U-24日本代表から新たに海外移籍するふたりも心配だよな。MF田中碧(川崎→)はドイツ2部のデュッセルドルフ移籍が正式発表された。MF三笘薫(川崎→)もプレミアリーグのブライトンに移籍して、1年目はベルギーのロイヤル・ユニオンに移籍すると言われている。三苫の場合は公式発表はないけれど、ほぼ決定事項だろうね。
ただ、碧はブンデス2部だから、早々に存在感を発揮するんじゃないかな。「奪ってよし」「組み立ててよし」「走ってよし」「シュートよし」。視野も広いし、パスを受けてターンする技術も際立っているし、サッカーセンスの塊みたいな選手だからね。ブンデス2部で当たりの強さや間合いの違いに慣れたら、川崎で見せていたようなプレーをすると思う。
対照的に苦労するかもしれないのが三苫だね。相手との間合いのなかで縦へ抜け出したり、内側に切れ込んだりする彼のドリブルはすごい武器。だけど、外国選手の脚の長さや純粋な足の速さ、当たりの強さに慣れるには時間がかかる気がするよ。
しかも、三苫が加わるのは今季から1部昇格のチーム。普通に考えれば相手に攻められる時間帯が多くて、ボールを奪ったらカウンターという攻撃になるだろうから、三苫の持ち味もなかなか発揮できない可能性はあるよ。
それはそうと、ベルギーリーグには昨季も10ゴール12アシストを記録した伊東純也(ヘンク)がいる。伊東の評価はどういうものなのかな。あれだけのスピードがあって、ヘンクでも抜群の活躍を見せたのに移籍の話が伝わってこない。彼のスピードは5大リーグに移籍しても計算できる武器だと思うんだよね。
28歳は若くないし、新型コロナ禍で経営が苦しいクラブは多いんだけど、伊東にはステップアップをしてもらいたいんだ。そうじゃないとヨーロッパで「結果を残しても夢がない」ってなっちゃうからね。
ほかにも、この夏にJリーグから海外移籍する選手には、スコットランドのセルティック入りする古橋亨梧(ヴィッセル神戸→)、横浜F・マリノスからフランス2部のトゥールーズへの移籍が決まったオナイウ阿道がいる。
古橋はすぐにでも活躍すると思うよ。監督は横浜FMを率いたアンジェ・ポステコグルーさんで、古橋の良さを理解しているし、古橋も神戸時代にポステコグルー監督のサッカーを対戦相手として見ている。フィットするのに時間は要さないと思うし、古橋のようなゴールにアグレッシブな選手はチャンスをモノにしやすいと思うんだ。
オナイウ阿道は高校卒業後にジェフでプレーした選手だから、海外移籍するほどの成長を遂げたことが素直にうれしいんだよね。日本代表での1トップとしての存在感は大迫勇也に次ぐまでになったけど、そこで満足してもらいたくないし、本人もそんな気はないからこその移籍だろうね。
フランスリーグはフィジカルコンタクトが激しいけど、あのレベルでオナイウがポストプレーの技術と精度を高めていければ、来年中に大迫を超えている可能性だってあるよ。どこまで成長を遂げるのか、これからもしっかり見守っていくよ。
このほかシュツットガルトに移籍した伊藤洋輝(磐田→)もいるし、今年2月にFC東京からクロアチアのイストラに移籍した原大智は、今夏にスペイン1部のアラベスへ加わった。2選手とも完全なトップ契約ではないけれど、爪痕を残してトップチームに食い込んでいってもらいたいね。
東京五輪は自国開催だから重要ではあるけれど、サッカー界にとっては通過点で、やっぱり最大の目標は来年のワールドカップ。そこに向けたアジア最終予選は9月から始まるし、日本代表がさらに強くなっていくには、選手たちが所属クラブで試合に出ながらレベルアップすることだからね。
開幕が間近に迫っている2021-22シーズンは、各国リーグに散らばる日本選手たちから、明るいニュースがひっきりなしに聞こえてくることを期待しているよ。