東京五輪で日本バスケ史上初の銀メダルを獲得した女子バスケチーム。ホーバスHC(後列左端)の強化が実を結んだ 東京五輪で日本バスケ史上初の銀メダルを獲得した女子バスケチーム。ホーバスHC(後列左端)の強化が実を結んだ

東京五輪で日本は史上最多となる58個のメダルを獲得。そのうち32個に女性アスリートが絡んでいた(うち3つは男女混合種目)が、最も驚きをもってとらえられた種目のひとつが、銀メダルを獲得した女子バスケットボール代表の活躍だった。

チームは「金メダル」を目標としていたものの下馬評は低かった。2016年のリオデジャネイロ五輪ではベスト8に進出したが、吉田亜沙美ら同大会の主力選手たちが引退し、昨年12月には身長193cmのエース、渡嘉敷来夢(ENEOS)が右膝の前十字靱帯を断裂。19年のアジアカップでMVPに輝いたPG(ポイントガード)の本橋菜子(東京羽田)も同じ箇所を損傷し、暗雲が立ち込めた。

本橋が奇跡的に代表入りを果たした一方で、渡嘉敷は懸命のリハビリも間に合わず。コロナ禍の影響によって海外チームとの強化試合が組めない状況も期待値を下げていた。しかし結果は銀メダル。スター選手不在で、平均身長176cmと参加12ヵ国で2番目に低かった日本が、なぜ快挙を達成できたのか。

サイズがない日本がスピードを生かして戦わねばならないのは今に始まった話ではないが、アメリカ人HC(ヘッドコーチ)のトム・ホーバス氏は"小さい者の戦うすべ"を徹底した。

突き詰めたのは、攻守のトランジション(切り替え)を速くすることで攻撃の回数を相手よりも増やすこと。かつ3Pシュートを多用し、その長距離シュートの確率を上げて得点の効率をよくすることだった。

今大会の数字が日本のスタイルを物語っており、3Pの試投数は参加12ヵ国中1位の31.7本で、成功率は同1位の38.4%。平均得点は優勝のアメリカに次ぐ82.2点を記録した。圧巻は準決勝で、厳しいスケジュールで疲れが見えるフランスをスピードで圧倒。3Pは5割の高確率で決め、87-71と完勝した。

ホーバスHCは五輪に向けた合宿が始まった今春、渡嘉敷らの故障によって、さらにサイズの不利を埋める形にする必要があるかもしれないと頭を抱えた。だが、攻守とも全員でハードにプレーする、他国がやらないスタイルで史上初のメダルを勝ち取った。

17年のHC就任当初には、五輪の1年延期や、主力選手たちの故障や引退などはとうてい予測できなかっただろう。だが、かつて日本の実業団(トヨタ自動車、東芝)でプレーし、引退後は長く日本の女子バスケットボールに関わってきたホーバス氏が「世界で勝つため」に構築してきたスタイルがついに花開いた。

リオ五輪で18.7本だった3Pの平均試投数は、18年のW杯で28.8本になり、東京五輪でさらに上昇。インサイドの選手を含めた全員が3Pを打てる日本に対し、相手はディフェンスで的を絞りにくくなる。それにより、3Pを多く放ちながら、成功率を向上させることができたのだ。

個々に目をやると、PG町田瑠唯(富士通)の巧みなパス能力に脚光が集まった。アシスト平均12.5本は全選手中で群を抜いてのトップ。準決勝では五輪での新記録となる18アシストを挙げるなど、司令塔の彼女がチームに安定感をもたらした。

そんな町田や、キャプテンの髙田真希(デンソー)を含めた5選手がリオ五輪を経験しているが、いずれも5年前は控え。それが今大会でいずれも主力選手として躍動したことは、チームバスケが成就したひとつの証左といえるのではないか。

ホーバスHCも「このチームにはスーパースターはいないが、スーパーチームだ」と話している。男女問わず、スター選手の個の力に頼るチームが多いなかで、頭脳とチームの力を結集しての偉業を果たした意義は、メダル獲得以上のものがあった。

五輪新記録を樹立したアシスト、スピードで注目された身長162cmのPG町田。FIBAが発表した「オールスター・ファイブ」にも選ばれた 五輪新記録を樹立したアシスト、スピードで注目された身長162cmのPG町田。FIBAが発表した「オールスター・ファイブ」にも選ばれた

ここまで「スター不在」と記してきたが、彼女たちは今やスターだ。五輪で活躍した選手たちは、それぞれの所属先に戻り、10月から国内のWリーグを戦う。

これまで人気や盛り上がりの点で男子のBリーグの後塵(こうじん)を拝してきたが、東京五輪公式記録映画の監督を務める河瀨直美氏が今年6月に同リーグ新会長に就任するなど体制を刷新。五輪での快挙も追い風に、新シーズンに臨む。

昨季はトヨタ自動車が、ENEOSの12連覇を阻み初優勝を果たした。リベンジを期すENEOSは、五輪の準々決勝ベルギー戦で終了間際の逆転3Pを決めた林 咲希が所属し、渡嘉敷がケガから復帰する予定。

しかし、東京五輪でポイントゲッターとして活躍した宮澤夕貴が、ENEOSに次ぐ昨季の東地区2位で、町田やオコエ桃仁花らが所属する富士通に移籍。戦力の均衡化で"一強時代"は終わりを告げつつある。

西地区も、代表4選手を抱えるトヨタ自動車が2連覇を狙うなかで、代表キャプテンの髙田や赤穂ひまわりを擁(よう)するデンソーも強力なライバルになる。ここまでに挙げた4チームが優勝争いに絡んできそうだ。

日本のバスケファンの中には「女子のほうが世界ではレベルが高いのに、なぜ男子ばかり注目されるのか」という声もある(五輪後に更新された世界ランキングでは男子が35位、女子が8位)。だが、これからは日本の女子バスケの盛り上がりも期待できる。

東京五輪で日本が土をつけられたのは、決勝戦を含めたアメリカとの2戦のみ。リオ五輪では110-64と50点差近く離されていたのが、今回は17点、15点と差を縮めた。

24年パリ五輪など、今後の世界大会で金メダルを手にするには「打倒・アメリカ」が必須となるが、Wリーグのレベルアップと切磋琢磨(せっさたくま)も要求されてくるだろう。