なでしこジャパンについて語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第215回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、なでしこジャパンについて。東京五輪では、ベスト8という結果だったなでしこジャパン。そんな彼女たちの今大会の印象を宮澤ミシェルが振り返る。

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なでしこジャパンを率いた高倉麻子監督の退任が決まったね。東京五輪ではグループリーグをなんとか突破して、決勝トーナメントでは銀メダルになるスウェーデンに1‐3で敗れてベスト8。日本女子サッカーの現状を踏まえれば、よくやったよ。

ただ、この結果を不甲斐なく感じた人もいたようだね。日本の女子サッカーの危機だという声もあるようだけど、もしそうだとしても原因は東京五輪の結果だけじゃないと思うよ。

2011年の女子W杯で優勝して大フィーバーを起こした"なでしこジャパン"だけど、その後は世界各国がレベルアップを遂げるなか、日本女子サッカーは伸び悩んだよな。

W杯優勝したメンバーがいた2012年ロンドン五輪は銀メダル、2015年の女子W杯は準優勝した。だけど、その後は世代交代もうまく進まなくて、前回の2016年リオデジャネイロ五輪では、世界ランキング4位だったのに、まさかのアジア予選での敗退。オリンピックに出場さえできなかったんだよな。

どん底の状態で監督を引き受けたのが高倉監督。2016年4月に日本女子サッカー代表監督になって、初めての女性監督ということで注目を集めたなかで、世代交代を推し進めてきた。そこに対していろんな考えが交錯したんだろうけど、どんなサッカーをして、メンバーに誰を選ぶかっていうのは監督の権限だからね。

2019年の女子W杯はベスト16で、東京五輪はベスト8。ここ数年のなでしこジャパンの世界ランキングは10位前後だったことを思えば、実力通りの結果だったと思うな。

東京五輪のグループリーグでは、なでしこジャパンのインテンシティの低さも目についたけど、「気持ちでカバーしろ」なんて時代遅れの根性論を振り回す気はないよ。やっぱり積み上げてきたものしか出せない舞台が、オリンピックであり、ワールドカップだからね。

だからこそ、これから大切になってくるのは、オリンピックで見つかった足りない部分をどうやって伸ばしていくかってこと。

2016年リオ五輪の後は世代交代が足りないとなって、高倉監督がそこに大きく手を入れた。じゃあ、東京五輪ではどんな課題が見つかったのか。それをしっかり分析しないとダメだよな。今回は高倉監督が若い選手たちを大胆に登用したからこそ、これから日本女子サッカーが課題としっかり向き合えば、ふたたび世界ランク上位に返り咲けるポテンシャルはあると思うんだ。

そのために重要なのは、なでしこジャパンがこれからどういうスタイルを突き詰めるかだよ。パスをつないでポゼッションを高めるスタイルで世界のトップクラスに駆け上がった。だけど、このスタイルは各国に研究されているし、他国も実力をどんどん伸ばしてきたなかでは通用しなくなっている。

選択肢は2つあると思うよ。ひとつは今の男子サッカーのトレンドでもある縦に速いスタイルを取り入れることだよな。ただ、これを実際に取り入れるには、体格や運動能力で世界各国の女子選手と互角にわたりあえる人材がいることが前提になってくる。そうした選手を育てる土壌があればいいけど、難しい気がするよ。

そうなると今のスタイルを継続するのはひとつの手。男子のスペイン代表のようにひとつのスタイルを極めれば、常に世界の頂点を狙える位置につけることはできる。それになでしこジャパンはパスのスピードとクオリティーは高められる余地がたくさんあるからね。

ゆるいパスを足元から少し離れたところに出しながら繋いでいっても相手は対応できちゃう。パススピードをもっと速くして、足元にスパーンと入れて、それをダイレクトやワンタッチで繋いでいき、相手を振り回したところでズバッと縦パスを入れる。トレンドを追いかけて中途半端になるくらいなら、ひとつを極めたほうがいいよな。

日本女子サッカーは新たな局面を迎えて、9月12日からWEリーグというプロリーグがスタートする。東京五輪でメダルを獲れていたらもっと注目度は高まったと思うけど、そこに頼り切っていても仕方ないからね。

残念ながら認知度がほとんどない状況から始まるプロリーグのWEリーグを、選手たちが魅力的なサッカーをすることで盛り上げていければ、それがなでしこジャパンの強化にも繋がるわけだからね。新たなステージに突入する日本女子サッカーとなでしこジャパン。私もみなさんが日常からもう少し興味を持てるように、しっかり伝えていきたいなと思っていますよ!

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