不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本のサッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史さん。

そんな福西さんに東京五輪の印象や、これから行われるW杯アジア最終予選について伺うインタビュー第4回。最後となる今回は、アジア最終予選の戦い方、そしてその先のW杯カタール大会に向けたチーム作りについて語った

――W杯アジア最終予選は来年3月までに10試合を行います。序盤で勝ち点3をきっちり積み上げないと苦しくなりますね。

福西 そのとおりです。いかに取りこぼしせずに勝ち点を積み上げるかが大事です。初戦のオマーンは実力的には高くないのですが、日本代表が足元をすくわれるとすればオマーンのような相手なので、気を引き締めないといけません。中国代表はブラジルやイギリスからの帰化選手が増えているので怖さがありますよ。

――9月シリーズの後の日程は、10月にアウェイでサウジアラビア戦、ホームでオーストラリア戦。11月はベトナム戦、オマーン戦がともにアウェイであり、年が明けると1月27日と2月1日にホームでの中国戦、サウジアラビア戦。3月はアウェイでのオーストラリア戦、ホームでのベトナム戦になります。

福西 2月1日のサウジアラビア戦でW杯出場権を決められれば、理想的ですね。その後の試合は来年11月のW杯カタール大会に向けた強化に使えますから。

――安定して勝ち点を積み上げるには、守備の安定は欠かせないと思うのですが。

福西 そのとおりですよ。勝てなくても引き分けなら勝ち点1ですから。

――ボランチは前回教えていただいた遠藤と柴崎。DFラインはどうですか?

福西 右SBの酒井宏樹、CBの吉田麻也、冨安健洋(たけひろ)は鉄板ですよね。左SBが長友佑都なのか、東京五輪代表だった中山雄太が食い込めるのか。

ボクの勝手な意見ですが、33歳の(吉田)麻也がベンチに追いやられる状況になれば日本代表は一段強くなるのだと思います。麻也がダメだということではないですよ。彼のリーダーシップや経験は代えがたいものがあるし、技術も体力もまだまだ大丈夫。その麻也をベンチに追いやるくらいの選手が出てきてもらいたいということです。レギュラーCBに緊急事態が発生したら麻也が控えている安心感はとてつもなく大きい。逆に言うと、麻也になにか起きた場合のバックアッパーにその安心感はまだないんですよね。

――東京五輪では板倉滉(こう)がCBでもいいプレーを見せました。

福西 評価を高めましたよね。ただ、まだ麻也の領域には達していない。東京五輪U-24代表ではCBとボランチの両方でプレーして、マルチロールとしてチームを助けました。ただ、彼がW杯出場を狙うなら単に複数ポジションができるだけではなく、CBでもボランチでもスペシャルな存在にならないといけない。日本代表で求められるのは各ポジションでの突出した力なので。

――東京五輪で左SBと攻撃的MFを担った旗手怜央(はたて・れお)にも通じそうですね。

福西 そうです。登録選手枠の少なく、試合間隔の短い東京五輪では彼らのようなマルチロールがチーム編成を助けたのは間違いないこと。彼らが各ポジションのスペシャリストを超えるマルチロールになれれば、日本代表に欠かせない選手になりますよね。

――GKはどうでしょうか? 東京五輪で正GKをつとめた谷晃生(たに・こうせい)がW杯アジア最終予選で日本代表に初招集されました。

福西 すぐ試合に使われるわけではないでしょうが、期待したいですよね。東京五輪でも試合をするごとに成長していきましたからね。飛び出す判断ひとつとっても、東京五輪で海外選手のクロスの速さや精度を体験できた。国際大会でしか経験できないものはあるので、それを生かして今後も成長を続けてもらいたいですね。

――谷は東京五輪が1年延期になったことでチャンスをつかんだ選手とも言えますね。

福西 そうですよ。出番を求めてG大阪から湘南に移籍して試合のなかでたくさんの経験をしながら成長を遂げてきましたよね。レベルの高いクラブにいれば、試合に出られなくても練習で成長することもあります。でも、選手がなんのために練習するかと言えば、試合に出るため。試合のなかで経験しないと高まらないものも間違いなくある。その点で谷はいい決断をしたと思います。

――その一方で、1年前まで東京五輪世代の守護神だった大迫敬介はベンチでした。

福西 おもしろくないと思いますよ。ただ、その悔しい経験をどうやって糧にしていけるかも選手の力量のひとつですからね。身長で劣っている分、違うところを突出させないといけないし、それができれば大迫が日本代表に選ばれる日だって来ると思いますよ。鈴木彩艶(ざいおん)だって伸びしろを考えたら、来年のW杯カタール大会で守護神になっていても不思議はないですからね。

――W杯での戦いと、アジアでの戦いは相手国のレベルが違うため、日本代表は"ダブルスタンダード"で臨まないといけない難しさがあるとよく言われます。具体的な難しさを教えてもらえますか?

福西 ざっくり言ってしまえば、アジアでの戦いは攻撃の練習、W杯での戦いは守備の練習の成果が試されるということ。ボク自身も経験しましたけど、アジアでの戦い方からW杯に向けた戦い方に切り替えるのは、頭で考える以上に難しいんですね。

――観戦する側は、日本代表の戦い方が180度変わることを想定して、W杯アジア最終予選を観なければいけないですね。

福西 そうです。たとえば、W杯アジア最終予選ですごいスルーパスをバンバン出した選手がいたとしても、W杯では守備に追われる時間が長いので、その選手をW杯メンバーに選んでも宝の持ち腐れになってしまう。だから、そこ以外の部分もW杯で対戦する強豪国を想定して通じる部分があるかを探す。そういう目線で見ることも大事なんですよね。

――出場権を獲得後からW杯に向けたチームづくりを始めるのは遅いんですか?

福西 来年のW杯開催時期は11月。最終予選が終わってから半年空きますが、新型コロナ禍で先行き不透明の状況下では、力のある相手との強化試合が組めない可能性もある。そうした事態を想定すれば、W杯アジア最終予選でW杯本番に向けた戦い方を試したい。それを実現させるには序盤戦から勝ち点3を積み重ねていって、数試合を残したタイミングで出場権獲得を決めることです。

――そうなると9月、10月シリーズのW杯アジア最終予選はなおさら重要ですね。

福西 そうです。日本代表は98年フランス大会から6大会連続でW杯に出ていますが、7大会連続出場の確約があるわけではないので、選手たちはしっかり戦ってくれると思いますよ。W杯アジア最終予選は上限5000人とはいえ、今年3月の日韓戦以来となる久しぶりの有観客試合。東京五輪は無観客でホーム感ゼロでしたからね。スタジアムに来られる方も、そうでない方も、"声なき熱い声援"で日本代表たちを後押ししてくださいね。

■福西崇史(ふくにし・たかし)
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm
1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している。