観客が選手に及ぼす影響は本当に大きいと語るセルジオ越後氏

プロスポーツの観客は多ければ多いほどいい。選手はアドレナリンが出て、いいパフォーマンスができる。見られることで成長する。アスリートに限らず、俳優やミュージシャンも同じだろうね。

緊急事態宣言の解除に伴い、Jリーグの観客数の制限が上限5000人から1万人へと緩和された。さらにそれとは別に、新型コロナウイルスのワクチン接種などを条件とした専用座席を設置する実証実験も始まっている。

観客はまだ声を出せず、拍手しかできない。以前と同じに戻ったわけではない。また、個人的には杓子(しゃくし)定規に上限1万人とするのではなく、収容人数の多いスタジアムは、席数の50%くらいまで緩和してもいいのではと思っている。でも、それでも5000人が1万人に増えるだけで、ずいぶん印象が違う。選手たちもあらためて観客の存在をありがたく思っているだろう。

今年9月に開幕したカタールW杯アジア最終予選でも、観客の影響力を感じている。10月7日のアウェーのサウジアラビア戦(●0-1)では、約6万人収容のスタジアムがほぼ満員。コロナ前と同様の大歓声が送られていた。

自国の選手を後押しするのはもちろん、日本の選手にも圧力がかかったはず。いつも冷静な吉田が、試合直後に現地の観客から差別的なジェスチャーを受けて激怒していたのが印象的だ。

逆に言うと、いまだスタジアムを満員にできない日本はハンデを背負っているともいえる。6万人が入った埼玉スタジアムは素晴らしい雰囲気で、どんな相手もやりづらさを感じるはず。実際、埼スタでの日本代表の勝率は高いし、過去のW杯予選では何度も劇的なゴールが生まれている。

たらればを言っても仕方ないけど、9月のオマーン戦(●0-1)、10月12日のオーストラリア戦(〇2-1)が満員の埼スタで行なわれていたら、違う展開になっていたかもしれないなと考えてしまうよ。

ちなみに、僕が今までで一番印象に残っている大観衆といえば、1993年のJリーグ開幕戦、V川崎vs横浜Mの一戦だ。素晴らしい演出でお客さんが盛り上がり、選手たちも好プレーを見せた。

いつも閑古鳥の鳴いていた日本リーグ時代とは何もかもが違う。現場で見ていて「これが本当に日本なのか」と鳥肌を立てたものだよ。プロ化による観客数の増加がその後の日本サッカーのレベルアップを後押ししたのは言うまでもない。

日本以外でいえば、やっぱり僕の母国ブラジルの観客は熱くて激しいね。自分の応援するチームでも、悪いプレーをすれば容赦なくブーイングするし、ホームでふがいない試合をすれば、途中で席を立つ。あれは選手としてはつらいんだ。

また、アウェーの洗礼も強烈。僕の現役時代には、観客席のネットの隙間からピッチに向かって火のついた花火を突き出し、威嚇してくる相手ファンがいた。距離が近いから本当に怖いんだ。監督から「もっとサイドに開け」と指示が出てもなかなか対応できなかった。副審も怖がってタッチラインの内側を走っていたくらいだからね。

話がそれたけど、観客が選手に及ぼす影響は本当に大きい。すでにヨーロッパにはマスク着用義務なし、人数制限なしのリーグもある。日本でいきなり同じようにするのは難しいと思うけど、少しずつでも元の日常を取り戻していけるといいね。

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