リーチに代わり、新キャプテンとなったラブスカフニ(左から2人目)を先頭にロッカールームに戻る日本代表

残り5分で4点差。歴史的快挙まであと一歩まで迫ったが、1万7000人のファンの前で金星は得られなかった。

10月23日、ラグビー日本代表(世界ランキング10位)が2019年のW杯以来となる国内でのテストマッチを大分で行なった。相手は世界ランキング3位の"ワラビーズ"ことオーストラリア代表。この試合までに公式戦4連勝、過去の対戦成績は日本の0勝5敗だった。

16年にジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が就任して以来、「ティア1」と呼ばれる世界の強豪と秋に対戦した試合は大敗続き。日本代表は準備期間が短く、逆に南半球の強豪は何試合かこなしてから来日するケースが多いため、4年前に横浜でワラビーズと対戦したときも30-63で一蹴された。

ただ、日本も19年W杯で史上初のベスト8入りを果たし、今年7月には敵地でアイルランド代表と接戦を演じるなど力をつけてきた。今回の試合は、2年後のフランスW杯に向けて、世界トップクラスのチームにどこまで肉薄できるかに耳目(じもく)を集めた。

そんななか、指揮官はひとつの決断をする。14年からキャプテンを務めてきたFL(フランカー)リーチマイケルを「100パーセントプレーに集中してほしい」と任から外し、南アフリカ出身の"ラピース"こと、FLピーター・ラブスカフニを「スキッパー(キャプテン)」に指名したのだ。リーチは度重なるケガもあり、先発で出続けることはできないという判断があったのだろう。

ラピースはジャッカル、ボールキャリーに長(た)けており、19年W杯では2試合でゲームキャプテンを務めるなどリーダーシップも高く評価されている。さらにキャプテンは、タックル後の接点(攻撃側と守備側がぶつかり合う点)の解釈などでレフリーと英語で話せることが必須なため、彼に白羽の矢が立ったことも頷(うなず)ける。今回の試合でも、接点で体を張り続けてチームを鼓舞した。

19年W杯のスタメン田村を差し置き、豪州戦で司令塔として起用された松田(右)。新戦力のSH齋藤らも含め、スタメン争いが激化している

もうひとつ、この試合で注目されたのは、司令塔のSO(スタンドオフ)に松田力也を起用したことだ。長らくSOにはベテラン田村優が重用され、松田は控えに甘んじてきた。だが、ジョセフHCは「過酷な試合になるが、力也はいい準備をしていた」と10番に抜擢(ばってき)した。

昨季のトップリーグでパナソニックを優勝に導いた松田は落ち着いてゲームメイクし、得意のランでも何度となく仕掛けた。

前半28分には、キックパスでWTBウイングレメキ ロマノ ラヴァのトライを演出。松田は「自分のスキル、(外からの)コールを信じて蹴った。トライに結びついてよかったです」と胸を張った。4年前のオーストラリア戦も10番として先発した松田が、成長した姿を見せた。

「ジャッカル」という技でも名を広めた姫野(左から2人目)や稲垣啓太など、19年W杯で体を張り続けたFW陣もさらにパワーアップ

試合は後半、レメキが危険なタックルでシンビン(10分間の一時的退場)となり、2トライを献上。13-27とされて「万事休すか......」と思われた。だが、新たに副キャプテンとなったCTB(センター)中村亮土が相手の外への攻撃を読み切り、インターセプトからトライを挙げて7点差。

さらに残り5分で、途中出場の田村がPG(ペナルティゴール)を決めて4点差まで追い詰めるも、自陣からの攻撃で判断ミスから反則を犯すなど攻めきれず、23-32でノーサイドを迎えた。

過去のワラビーズ戦よりも接点で互角に戦えるシーンが多く、テンポのいいアタックで相手にプレッシャーをかけ、勝つ流れをつくったことは大きな収穫だった。ただ、スクラム、ラインアウトでプレッシャーを受け、接点で反則を繰り返したことが響いた。

ラピースは、「戦い方は誇りに思う。全員が同じ画(え)を見て、まとまりのあるプレーができている部分もあった。だが、最終的にはミスでチャンスを逃してしまった」と唇を噛んだ。試合勘という意味では、この前に1試合やっておきたかったところだろう。

ただ、コロナ禍で合宿の日程が短縮されたなかで、9月末の合宿集合時にはほぼ全員が設定されたフィットネスの数値をクリア。19年W杯前の合宿では10日に1日程度しか休みがなかったところを、今回は練習の質を上げて「2勤1休」でハードにトレーニングしたことも功を奏した。

また、ジョセフHCが「私は『勝つ』『先を見る』というマインドを持っている。若い選手にとっては大きなチャンス」と話すように、先発15人中4人(控えを含めると8人)が、19年W杯後に代表入りした新戦力だった。

この試合で初めて桜のジャージに袖を通したFLベン・ガンターは、フィジカルの強さを遺憾なく発揮。「(母国の)オーストラリアと戦ったことは特別な思い出になりました。トップリーグのレベルが上がっていること、日本代表が合宿でハードなトレーニングをしているので、接点が機能した」と破顔した。

昨年度、天理大の初優勝に大きく貢献し、"ポスト福岡堅樹"の期待がかかるWTBシオサイア・フィフィタは、持ち味であるフィジカルを武器にタックルで魅せた。

さらに19年度、早稲田大を優勝に導いたSH(スクラムハーフ)齋藤直人は、途中から出場して素早いパスさばきで攻撃をリードした。こうした新戦力の台頭は、19年W杯で一番の課題だった「選手層の薄さ」の改善につながる。

いずれにせよ、日本ラグビーのレベルが世界の強豪と十分に戦えるまで上がっていることを証明できたことは間違いない。これから日本は渡欧し、11月にアイルランド代表、スコットランド代表などと激突する。オーストラリア戦の惜敗は、アウェーでの強豪撃破だけでなく、23年フランスW杯に向けても大きな期待を抱かせるに十分だった。