サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第226回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、先日行われたW杯アジア最終予選のベトナム戦について。がけっぷちの状態が続く中、アウェーでのベトナム戦に1-0と辛くも勝利も掴んだ日本代表。しかし、その試合内容に関しては思うところがあると宮澤ミシェルは語った。
*****
なにはともあれ、まずは勝ち点3を手にできてよかったよ。
ベトナム戦は試合前に欧州組の乗ったチャーター機が遅れるトラブルがあったし、試合でも伊東純也のゴールが取り消される事態があった。予期せぬ結果になっても不思議じゃない状況で、しっかり勝利したことは評価したいね。
ただ、W杯アジア最終予選は結果がすべてではあるんだけど、それでも試合内容に目を向ければ物足りなさは残ったよな。
最大の要因はゴールが決まらないこと。いくらアウェーでの試合で、ベトナム代表が急成長していて、攻撃陣にスピードのある選手がいるといっても、グループ最下位の相手だからね。本来なら3-0の結果でよかったくらいだよ。
伊東純也のゴールが取り消されなければ2-0になっていて、展開も変わっていたから追加点も奪えたかもという意見はあるだろうね。でも、あと2点くらいは決めてくれないとだよな。
フォーメーションはオーストラリア戦でハマった4-3-3を使ったけど、中盤3人の田中碧、守田英正、遠藤航のところで、もっとリズムに変化をつけられるようにしたいね。
日本代表のトランジション(攻守の切り替え)の速さは見事だった。そこから右サイドの伊東純也のスピードを生かした攻撃もよかった。
だけど、印象としてはスピード頼みの攻撃ばかりになったね。ボールを奪ったら中盤から素早くサイドに預けて、縦に速く攻撃していく展開ばかりだから、中盤の選手がゴール前に詰められなかった。
素早く縦を突くのが無理な場合は、中盤でしっかりボールを保持しながら、機を見てインサイドハーフの誰かが1トップを追い越してDFラインの裏に飛び出す。そういう攻撃もできていたら、相手の守備は混乱したんじゃないかと思うよ。
まあ、ベトナム戦はピッチ状態が悪かったからパスで崩すよりも、スピードで勝負した方がいいという判断があったのかもしれないんだけどさ。
選手交代のところは、森保(一)監督らしいなと思ったし、新しい選手を招集しても非常事態にならないと、きっと使わないんだろうね。
今回は三笘薫や前田大然を招集していたから、起用するかなと期待していたんだ。だけど、蓋を開けてみたら浅野拓磨だもの。浅野が悪いということではないんだけど、三笘にしろ前田にしろ、それぞれがチームで結果を残しているから呼んだわけでしょ。
なにも新戦力は全員使えと言いたいんじゃないよ。相手はグループ最下位のベトナムだから、攻撃的なポジションでならひとりくらいはピッチに送り出してもらいたかったよ。
まあ、森保監の気持ちも理解できるよ。1-0で勝っている状況で、"万が一"が絶対に起こさないためには、石橋を叩いても渡らないくらいの方がいいからね。
ただ、ベンチで代表の空気をいくら吸ったところで、ピッチに立たないことには戦力になるかどうかは見えてこないわけだからさ。普通に考えたらベトナム戦で新戦力を試せないんだから、この先も試合展開がよほど楽な状況にならないと使わないんじゃないかな。
次のオマーン戦は守田英正が出場停止。きっと森保監督のことだから代役は柴崎岳なんだろうね。ベトナム戦で守田に代えて柴崎を途中出場させたのは、その布石なんだと思うよ。
柴崎はリズムに変化をつけられる選手だから期待したい。ただ、個人的にはベトナム戦の途中から旗手怜央をインサイドハーフで試して、フィットするようなら大胆に先発させるくらいの采配が見たかったよ。ベトナム戦はベンチ外だったから、その芽はほぼないだろうけどな。
オマーン代表は11月11日の中国戦に引き分けて、日本代表に逆転されてグループ4位に落ちたから、日本戦は勝ちを狙って前に出てくるんじゃないかと予想できる。
この試合もきっとスピードがキーワードになるんだろうね。ただ、三笘薫というアクセントをつけられるカードを持っているんだから、手持ちの札を最大限に有効活用して活路を開いてほしいと思うよ。
日本代表はオマーン戦に引き分けてもグループ3位は維持できる状況だけど、ここでオマーン代表を蹴落とさないとダメ。理想を言えば、早い時間帯に先制点を奪い、追加点をポンポンとあげてほしいね。そうなれば森保監督でもさすがに新戦力をピッチに送り出せるだろうからさ。
ただ、いまは高望みしてもキリがないからね。W杯出場権を自動で手にできるグループ2位以内を狙うためにも、前回9月の対戦で負けた借りをオマーン代表にキッチリ返してくれることを期待しているよ。