オマーン戦後、森保監督(右から3人目)を中心に輪を作る日本代表。疲労で膝に手を置きうつむいたままの選手も オマーン戦後、森保監督(右から3人目)を中心に輪を作る日本代表。疲労で膝に手を置きうつむいたままの選手も

「苦しい一年でした。最終予選が苦しくなることはわかっていましたが、思った以上に厳しい戦いが続いている。(中略)ただ、このまま結果を出していけば、自力でW杯行きをつかめるところまで来た。まだまだ油断はできないし、ひとつのミスで状況は変わる。気を引き締めていきたい」

日本時間11月17日、W杯アジア最終予選のオマーン戦で1-0の勝利を収めた後、日本代表の主将、吉田麻也は2021年の戦いをそう振り返った。偽らざる心境だろう。

同予選のグループBで、日本は現在2位。この順位を維持できれば、来年11~12月にカタールで開催予定のW杯にすんなりと出場できる(3位になった場合はプレーオフへ)。だが少し前までは、森保一監督の解任論が浮上するほど苦境に立たされていた。

毎度のことではあるが、W杯のアジア予選は、最終予選に入ってから難度が急激に高まる。今年6月まで行なわれていた2次予選では、日本はほとんどの試合で大量得点を挙げ、全勝の首位で悠々と駆け抜けた。だが、最終予選ではいきなりつまずいた。

大阪にオマーンを迎えた初戦で、あろうことか0-1の黒星スタート。ほとんどの選手が国外でプレーしている日本は、コロナ禍の影響もあって満足に練習時間を取れず、選手の状態は総じて悪かった。逆にほぼ国内組で構成され、長くキャンプを張って日本を研究し尽くしてきた"伏兵"に足をすくわれた。

続く中国戦を1-0でなんとかモノにするも、グループ最大のライバルのひとつ、サウジアラビアに0-1で敗れた。このときは、1点を追う最終盤に左サイドバックの選手同士を交代させるなど、不可解な采配を下した指揮官に批判が集まった。

ただそこには、過去20年以上にわたってアジアの盟主として君臨してきた日本の慢心もあっただろう。「僕らには、どこか気の緩みがあったかもしれない」と、歴戦のSB長友佑都は振り返り、「自分たちで自分たちの首を絞めてしまった」と吉田も同調した。

第3節を終えて1勝2敗の3位と後がなくなった日本は、アジアの宿敵のひとつ、オーストラリアを埼玉に迎えた。試合前の国歌斉唱時に目に涙をためた森保監督は、ここで変化に踏み切った。

それまではかたくなに維持していた4-2-3-1のシステムを、4-3-3に変更。新布陣の中盤の一角に抜擢(ばってき)した"東京五輪世代"の田中 碧が先制点を挙げ、同点とされた後の終盤に投入した浅野拓磨が、相手のオウンゴールにつながるシュートで決勝点を導くなど采配も的中した。

最大の難関を乗り切った日本は続くベトナムとのアウェー戦を1-0で勝利(追加点と思われた伊東純也のすさまじいシュートはVARでオフサイドと判定)。さらに冒頭のオマーン戦も同じスコアで連勝し、他会場でオーストラリアが中国と引き分けたため、2位に浮上した。

最終予選の全試合が1点差に終わり、得点数はグループで下から2番目の5点(中国やオマーンよりも低い)。こうした低調な内容と、かつての代表にいたようなスター選手が少ない現代表に対する世間の関心は、以前に比べると薄いのかもしれない。

だがW杯予選は結果がすべてだ。その意味で慎重な森保監督のここまでの歩みは間違っていないといえる。また、この実直な好人物は、学習能力と人々の意見を聞く耳を持っているように見える。

サウジアラビア戦後に窮地に立たされてからは、選手交代に意図が見えるようになったし、形にも固執しなくなった。そして何より、待望のスター候補をついに起用し始めた。

三笘 薫、24歳――。昨年、筑波大学を経て川崎フロンターレに入団。デビューシーズンにJリーグのベストイレブンに選ばれ、今夏にイングランド・プレミアリーグのブライトンへ移ったアタッカーだ。

代表経験がなかったために英国の労働ビザが下りず、今季はベルギーのユニオン・サン=ジロワーズに期限付きで加入。Jリーグで相手を翻弄(ほんろう)し続けたドリブルは欧州でさらに磨かれ、敵地でのオマーン戦の後半に満を持して代表デビューを果たすと、いきなり相手守備陣を切り裂いて流れを引き寄せた。そして終盤に左サイドからクロスを上げ、伊東の決勝点をお膳立てしている。

何かを起こしてくれそうな雰囲気と、ルックスにもプレーにも華があるウイングは、初の代表戦で、しかも途中からの出場にもかかわらず「いつもどおり」試合に入っていったという。アシストについては「いいボールを上げられた」とさらっと振り返り、大物の雰囲気を醸し出す。

Jリーグ、東京五輪、ベルギーリーグ、そして代表でも早々に結果を残せた要因には、このどっしりとしたメンタルと実力に裏打ちされた自信がありそうだ。

「(田中)碧の活躍は刺激になっています」と三笘。「僕ら東京(五輪)世代がもっとやらなきゃとは、常々言っています。これから、どんどんスタメンを担えるように頑張りたい」

主将の吉田も、「こんな選手が出てこないと」と三笘の台頭を喜ぶ。右に2戦連発の伊東、左に三笘。この両翼が、日本代表の希望となりそうだ。

コロナ禍のW杯予選は誰にとっても初めての経験で、移動や状態維持など、大きな困難がつきまとう。「言い訳ではないですけど、せめて解説しているOBの人にはわかってほしい」と吉田は苦笑する。難しい一年をなんとか前向きに終えた日本代表を、今は温かく見守るべきだろう。