サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第228回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、槙野智章について。今季限りで浦和レッズを退団することが決まった槙野智章に「もうひと花咲かせてもらいたい」と宮澤ミシェルがエールを送った。
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Jリーグの長かったシーズンも最終盤を迎え、クラブのひとつの歴史が終わりを告げる時期になっているね。
J1リーグのホーム最終戦の清水エスパルス戦後に、浦和レッズを今シーズン限りで退団する槙野智章をはじめとする選手たちがレッズサポーターに最後の挨拶をした姿はグッと来るものがあったよ。
引退する阿部については別の機会で触れるけど、槙野の涙ながらの挨拶は印象的だったな。清水戦はベンチ入りしたけれど出番がなくて、試合後の挨拶では「サッカーを続けるか、引退するか、それもまだ決めていません」とコメントした。
心情は想像できるよ。槙野は契約満了でチームを去るけど、言葉を変えれば来季のチーム構想から外れたっていうこと。プロ選手にとって戦力外になることは本当に堪えるんだ。それが愛着のあるクラブから告げられたとなれば、辞めようかなという気にもなるってものだよな。
槙野は2012年から10シーズンも浦和の主力としてチームを支えた選手で、数々のタイトルをもたらした功績もある。ショックの大きさは想像できるよ。
槙野は2006年にサンフレッチェ広島のユースからトップチームに昇格し、現在はコンサドーレ札幌を率いるミハイロ・ペトロヴィッチ監督の薫陶(くんとう)を受けると、2011年は前年まで浦和の監督をしていたフォルカー・フィンケがスポーツダイレクターをつとめた1FCケルン(ドイツ)に移籍した。でも、あまり出番に恵まれなくて、2012年に広島時代の監督だったペトロヴィッチが指揮していた浦和に加入した。
浦和での槙野は水を得た魚のように躍動したね。Jリーグの年間優勝はできなかったけど、2015年、2016年はステージ制覇に貢献した。2016年はナビスコカップで優勝し、2017年はACL制覇、2018年は天皇杯優勝とタイトル獲得の原動力になった。在籍10年で312試合に出場して32ゴールは立派だよな。
日本代表として2018年W杯ロシア大会も経験している豊富な経験値があるし、体はまだまだ元気なようだから、来季もピッチに立ってもらいたいよ。本人は引退も考えているような言葉を発していたけど、槙野を必要とするJクラブはたくさんあるはずだからね。
引退はいつでもできるんだよ。私は現役を続けたくても体がボロボロで、ムチを打っても言うことを利いてくれなくなったから辞めた。でも、槙野は体がまだ動くんだから、ここから現役キャリアの最終章を始めればいいじゃないかと思うよ。
それこそコンサドーレ札幌ならペトロヴィッチ監督が率いているから、師弟でまた躍動できるよね。ほかのクラブで新しいチャレンジを求めるのもいいと思うな。経験のあるDFを欲しているクラブはいくらでもあるはずだよ。来年で35歳、もうひと花咲かせてもらいたいよ。
11月はサッカー選手にとっては、残酷な時期なんだよ。J1降格があって、選手の契約更改があってさ。ほとんどの選手はクラブのホームページに挨拶文が載るだけで、サポーターに直接別れを告げてチームを去ることは多くはない。それが今回の浦和は、退団していく選手が、ちゃんとサポーターに挨拶できる場を用意した。これはよかったよね。
槙野が10シーズン、宇賀神友弥が12シーズン、引退の阿部勇樹が14シーズン。チームが生まれ変わるためには必要なことだけれど、功労者が去ることはクラブのひとつの歴史が終わりを迎えことだからね。この決断に見合う結果を来シーズンの浦和は残せるのか。彼らが浦和と対峙したときに、どんな活躍を見せてくれるのか。いまから楽しみだよ。