川崎フロンターレについて語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第229回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、川崎フロンターレについて。見事にJ1リーグで2年連続4度目の優勝を遂げた川崎F。その戦いぶりを宮澤ミシェルも称賛した。

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J1リーグ最終戦の川崎フロンターレvs横浜F.マリノスの一戦は、実に見応えのある試合だったね。

川崎Fのレアンドロ・ダミアンが先制点を奪えば、横浜F.Mの前田大然が同点ゴールを決める。すでにリーグ優勝は川崎Fに決まっていたけれど、優勝を争った横浜F.Mの意地を見ることができたし、優勝チームの誇りも感じられた。2強の直接対決の試合濃度がほかでは味わえないものだったよ。

今シーズンもこれで全日程が終了し、J1は川崎Fが2年連続4度目の優勝を遂げた。2019シーズン以来の覇権奪還を狙った横浜F.Mをシーズン終盤に振り切った戦いぶりは、見事というしかないものだったね。

28勝8分け2敗で勝ち点は92。得失点差も総得点81、総失点28でプラス53。数字だけを見れば危なげなく優勝したように見えるけど、実際はギリギリだったよ。一時は横浜F.Mに勝ち点1差にまで詰められたからね。

ただ、そこからの戦いが明暗を分けた。2強の勝ち点差が縮まって迎えた9月下旬、川崎Fは鹿島アントラーズ戦からの3試合は先制点を奪われながらも逆転勝利。一方の横浜FMは最下位の横浜FCと引き分けるなどした。

ここの差だよな。川崎Fは勝ち点を取りこぼさずに、横浜FMは取りこぼした。言葉にすると簡単。でも、両チームとも同じような攻撃的な戦い方だけど、相手ゴールに迫るまでのスタイルやプロセスの違いなどが影響したんだろうね。

川崎Fはここ5シーズンで4度のリーグ優勝。その強さの源泉は『継続は力なり』を体現しているところだろうな。選手が入れ替わっても、基本的なボールの動かし方や立ち位置をしっかり教え込んでいく。フィットできるかは選手の能力や技量にもよるけれど、それが可能だと思う選手をフロントもしっかり獲得しているよね。

だから、シーズン途中に三笘薫や田中碧の主力2選手が海外移籍で抜け、大島僚太も故障で満足に試合に出られないにもかかわらず、チームとしての戦い方はブレずに貫き通せた。そして、そんなチームをつくった鬼木(達)監督の手腕は際立つよな。

これは日本代表が目指すべきことでもあると思うよ。森保ジャパンがというのではなく、これから先々の長期視点に立ってという意味でだよ。日本代表はこれまで代表監督が代わるたびに戦い方も変えながらチームをつくってきた。

だけど、これだけ海外組が増えると、活動時間の限られた代表では戦い方を浸透させてチームを成熟させていくのは容易ではない。それならいっそ、川崎Fのように戦い方の"基本的な核"を日本代表にもつくって、それを遂行できる選手たちでブレずに戦っていくのがいいんじゃないかと思うんだよ。

逆を言えば、そう思わせるほど、川崎Fのサッカーはよくできているってこと。如実に現れたのが、後半戦のスタメンだよな。4-3-3の中盤はアンカーに大卒ルーキーの橘田健人、インサイドハーフに旗手怜央と脇坂泰斗が起用されていた。正直に言えば、この3選手でチームがあそこまで機能するとは想像だにしていなかったな。

脇坂の成長は凄いし、旗手は両ウイングや左SBに加えて、インサイドハーフでもプレーできるのかと驚かされた。橘田も去年から強化指定で川崎Fに在籍していたとはいえ、攻守の肝になるポジションがつとまるほどチームにフィットするとは思わなかったよな。

あとはFWレアンドロ・ダミアンとGKチョン・ソンリョンに、CBの谷口彰悟とジェジエウを加えたセンターラインがしっかりしていることだよな。ここが安定してさえいれば3連覇も狙えるよね。

なかでも、やっぱりダミアンだよな。今季は前田と得点王を分け合ったけど、攻撃オンリーの選手ではないのがいい。偏見かもしれないけど、ブラジル代表歴があるのに、あれほど攻守で高い献身性を見せることに驚くよ。そういう選手を獲得したフロントの仕事ぶりも評価されるべきだよな。

その川崎Fには来シーズンこそアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)のタイトルを手にしてもらいたいね。ACLのタイトルだけを目指すなら、局面を打開できる強力な点取り屋を置けば優勝の確率は高まると思うんだ。

でも、川崎Fはそうじゃないスタイルで勝ち抜こうとしている。今年は戦力が夏場に引き抜かれた苦しさがあったとはいえ、結果としてはベスト16で敗退。いい選手が揃っているクラブだからこその難しさがあるけれど、それでも来季こそはアジアでもあのスタイルが通用することを証明してもらいたい。来シーズンの川崎Fがどんなチームになっているのか、いまから楽しみだよ。

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