菊池、大谷らを輩出した花巻東に現れた「怪物」佐々木。1年春から一塁手でレギュラーになり、すでに高校通算50本塁打を放っている 菊池、大谷らを輩出した花巻東に現れた「怪物」佐々木。1年春から一塁手でレギュラーになり、すでに高校通算50本塁打を放っている

「東の佐々木麟太郎、西の前田悠伍」

高校1年生に対してこんなキャッチフレーズをつけるのはいささか気が早いが、そう言いたくなるような存在感がこのふたりにはある。

今秋に開催された第52回明治神宮野球大会・高校の部は、大阪桐蔭の初優勝で幕を下ろした。今大会で観衆の度肝を抜いたのはふたりの1年生、佐々木麟太郎(花巻東)と前田悠伍(大阪桐蔭)である。

高校1年秋の時点で高校通算50本塁打という、とてつもないペースでホームランを量産する佐々木。練習試合を含め、高校に入ってから自分が投げた試合は負けたことがない、と豪語する前田。今後2年、高校球界で動向を見逃せない逸材を紹介していこう。

佐々木は身長183cm、体重117kgの巨漢スラッガーで、花巻東野球部監督の洋を父に持つ。菊池雄星(マリナーズFA)、大谷翔平(エンゼルス)を指導した父の影響を受けていることもあってか、常識にとらわれない心身のスケール感がある。その豪快な打撃フォームは、MLB歴代1位の通算762本塁打を放ったバリー・ボンズ(元ジャイアンツほか)を参考にしている。

中学時代は大谷の父・徹が監督を務める金ケ崎リトルシニアでプレー。高校入学直後からスラッガーとして台頭し、1年夏の岩手大会では、過去に菊池や大谷も背負った花巻東の出世番号・17をつけている。

今秋は、東北大会期間中に左脛疲労骨折を負うアクシデントがあった。だが、明治神宮大会では初戦の國學院久我山戦の第1打席に、ライトスタンドへ名刺代わりの一発をお見舞い。準決勝の広陵戦では、痛む左すねに近い左足甲に死球を受けて悶絶(もんぜつ)し、チームも一時7点差をつけられる苦しい展開に。

ところが、佐々木は反撃の2点タイムリー二塁打に、起死回生の同点3ランと大暴れ。試合は敗れたが、大会3試合で打率.600、2本塁打、9打点と衝撃的な活躍だった。そのシルエットと打撃スタイルは、もはや現実の選手に重なる者はおらず、マンガ『ドカベン』の主人公・山田太郎くらいしかいないだろう。

佐々木の魅力はただ打つだけではない。明治神宮大会初戦で速球を本塁打にしたことから、「次は変化球中心の配球になるはず」と読み、次戦の高知戦では変化球を2安打。クレバーさに加え、常に「チームの勝利に貢献したい」という謙虚さも併せ持つ。

今後について佐々木は「まだまだ足りないことが多い」と、自身の課題を口にした。

「スイング力をつけること、変化球への対応。レベルアップできることはたくさんあります」

忘れてはいけないのは、あくまでも佐々木はまだ1年生ということ。今後、上級生になって「金属バットでは得るものがないので、木製バットで試合に出ます」と言うくらいの存在になってもらいたい。

佐々木の魅力がスケールなら、一方の前田は勝負強さだ。明治神宮大会では初戦の敦賀気比戦でリリーフ登板し、6回10奪三振。強力打線を手玉に取った。なお、大会前の近畿大会では、17回を投げて自責点0の無双ぶりだった。

身長179cm、体重75kgと細身な体形で、現時点で最高球速は145キロと超人的な馬力があるわけではない。前田が突出しているのは、「勝てる投手」としての資質だ。

スピードガンの数字以上に速く見える、捕手のミットを突き上げるような球質。どの変化球も決め球に使えるほどの精度。さらに重要な局面でも飄々(ひょうひょう)と投げ続ける勝負師としてのメンタリティ。高校1年生にして、ここまで完成度の高い左腕は記憶にない。

大阪桐蔭は全国トップクラスの逸材が集うエリート集団だ。2年生投手にも大阪出身の川原嗣貴、岐阜出身の別所孝亮、群馬出身の川井泰志とハイレベルな有望投手がひしめく。そんな先輩を差し置いて、実質エース格になっているのが滋賀出身の前田なのだ。

監督の西谷浩一によれば、「入学した頃からよかったので、夏もいけるコだった」という。それでも、1年夏はあえてベンチ入りメンバーから外し、半年間かけて華々しい公式戦デビューにつなげた。

一方で、西谷監督は「まだ1年生なので、伸び伸び投げてくれればそれでいい」と多くは求めていない。秋の公式戦が終わり次第、将来を見据えた本格的なトレーニングや技術指導を始めるためだ。

「変化球もいろいろ投げられるんですけど、器用貧乏にならないように、と思っています。真っすぐあっての変化球なので磨いてほしいですね」

前田本人はというと、「西谷先生から『伸び伸び』と言われている段階じゃダメだと思っています」と強気に語る。練習も意欲的に取り組むため、故障を心配した指導陣がストップをかけるほどだという。

明治神宮大会では、前田の勝ち気ぶりを物語るシーンがあった。九州国際大付との準決勝。先発した前田は、立ち上がりに九州国際大付の1年生スラッガー・佐倉侠史朗に甘いストレートをライトスタンドに運ばれた。前田にとって、これが公式戦初の被本塁打。プライドを傷つけられた前田は、「やり返してやろう」と佐倉に敵意むき出しで次の打席から2打席連続三振を奪っている。

なお、佐々木について報道陣から聞かれた前田は、こんなふうに答えている。

「実際に生で見たことがないのでどういう選手かはっきりしてないですけど、同じ1年生なので対戦したら負けていられないです」

今秋の明治神宮大会では、両雄の対決はお預けになった。今後、ふたりが名勝負を繰り広げる瞬間は訪れるのか。その未来が今から待ち遠しい。