"NPB現役最強打者"との呼び声も高い広島・鈴木誠也がポスティングでのメジャー挑戦を表明した。27歳での渡米、打撃のコンディション、各球団の現状など、さまざまな観点から"理想の移籍先"を探してみた!
■脂が乗りきる全盛期、「27歳」で米挑戦
大谷翔平(エンゼルス)が打者として輝いた2021年。だからこそ、期待したくなるのは、次に続く日本人メジャー"野手"の活躍だ。
その意味で、大谷と同学年であり、東京五輪で「日本の4番」として活躍した鈴木誠也(広島)のポスティング移籍でのメジャー挑戦は、これ以上ないタイミングといえる。広島球団側も、「チーム的には痛くても、彼にとって今がベストなタイミング」と快く送り出してくれる形だ。
本塁打は6年連続で25本以上、打率も6年連続で3割以上。これで通用しなければ、次なる日本人野手は当分見当たらない。そんな鈴木は実際に活躍できるのか? 日米の試合を細かく分析し、ダルビッシュ有(パドレス)をはじめ、日米の現役選手たちと情報交換をする野球評論家、お股ニキ氏に見解を求めよう。
かねて自著で「鈴木誠也はNPB現役最強打者」と評価していた識者は、今季の鈴木をどう評価するのか?
「今までで一番いいシーズンでした。序盤は新しい打撃フォームに苦労しましたが、リスクを恐れず挑戦する思い切りや割り切りのよさが彼のいいところ。また、東京五輪の前後でバットを変えたことも功を奏し、後半戦の爆発につながったのだと思います」
実際、鈴木は7、8月、9月と月間MVPを連続受賞。6試合連続弾など手がつけられない状態で、2度目の首位打者、最高出塁率のタイトル獲得だけでなく、キャリアハイの38本塁打、出塁率と長打率を足したOPSでは強打者の証(あかし)といえる"1.000超え"の1.072とこちらもキャリアハイ。この充実ぶりこそ、メジャー挑戦の光明だという。
「野手にとって『27歳』は一番脂が乗る年齢ですし、成績的にも鈴木は今がまさに全盛期。このタイミングでメジャー移籍ができる点は、近年メジャー挑戦したものの苦戦している秋山翔吾(レッズ)と違うところ。
全盛期でメジャーに行けた野手といえば、27歳だったイチロー(元マリナーズほか)と28歳だった松井秀喜(元ヤンキースほか)が代表例。19~27歳の成績で比較すれば、鈴木はイチローと松井を少し上回っているほどです」
実際、この3選手の19~27歳シーズンの通算成績を比較すると、鈴木の成績は出塁率.414(イチロー.421、松井.407)、長打率.570(イチロー.522、松井.569)、OPS.985(イチロー.943、松井.976)と、ほぼ互角か若干上回っているのだ。
さらに、鈴木の打者特性がメジャーの野球に適合しやすいと分析する。
「メジャーの最近の主流は、速いストレートを高めに投げること。この球に対応できるかどうかが鍵といえますが、鈴木はストレートに強く、高めの球にも対応力があります。
そもそも、最近は日本球界の投手レベルも上がってきていて、MAX160キロで阪神時代からメジャー級の球質を誇っていたスアレス(パドレス)らとすでに対戦経験があります。この点はメジャー球団も獲得するかどうかの判断材料にしているはずです」
とはいえ、一部では「足を高く上げる打撃フォームはメジャーの速球に対応できないのでは」という声もある。
「『足を上げたら打てない』『大谷はノーステップにして成功した』といった話はすべて誤解です。トラウト(エンゼルス)やドナルドソン(ツインズ)らも足を高く上げるし、大谷も小さくステップしています。
大事なのは、投手のモーションスピードやタイミングが日米で違うので、そこにアジャストできるか。その点、鈴木は五輪やプレミア12といった国際大会でも、海外勢の独特な投球を苦にしなかった。メジャーの一線級とはレベルが違うとはいえ、しっかり対応してくれそうな期待感はあります」
適応できるとすれば、実際にどんな数字を残せそうか。
「いきなり3割30本を打て、というのはさすがに酷。最初は2割7分、本塁打18~20本を目指してほしい。その意味でモデルケースは、城島健司のマリナーズ1年目(打率.291、18本)、井口資仁(ただひと)のホワイトソックス1年目(打率.278、15本)あたり。
共にメジャー挑戦前の数年、日本では打率.330、本塁打30本前後を打っていた点も共通しています。逆に言えば、彼らぐらいは打ってほしいです」
■幸せになれる移籍先はあの世界一球団!?
そんな鈴木の市場価値はいかほどか? 今オフの移籍市場では有力外野手が少なく、その点は鈴木にとって有利ともいわれているが......。
「4年4000万ドル(46億円)が妥当ですが、4年6000万ドル(69億円)くらいいく可能性も。ネックは守備位置がライトメインなこと。肩はめっぽう強く、センターもできなくはないでしょうが、脚力的にはここ数年、体も重く、センターの実績が少ない点はマイナス評価といえます」
では実際、どの球団がハマりそうか? お股ニキ氏のオススメは今年の世界一球団だ。
「ワールドシリーズを制したブレーブスは面白い。FAの関係で外野が空きそうです。懸念点はナ・リーグ東地区であること。シャーザーの加入で、デグロムとの『サイ・ヤング賞投手2枚看板』が実現するメッツと同地区で、ほかにもこの地区にはサイ・ヤング賞級投手が多く、彼らのような怪物との対戦が増えるのは厳しいです」
ほかに、出番が期待できる点でオススメはレンジャーズ。有原航平が在籍し、今オフはすでにメジャー史上最高の補強費を投じている。
「今季地区最下位で外野陣は手薄。日本人選手への理解もあって出番は見込めそう。ほかにメッツ、ロッキーズ、フィリーズ、パイレーツ、レイズといった球団はどこも外野に空きが出そうで、実際に興味を示していると報じられています。
ただ、パイレーツは筒香嘉智(つつごう・よしとも)が残留するので微妙。マリナーズも日本人選手が好きですし、センターも守れれば可能性はある。個人的には、ジャイアンツで活躍する日本人野手が出てきてほしいので、そこに期待しています」
現時点で接触しているのは8~15球団と報じられているポスティング交渉。期限は日本時間12月23日午前7時までのはずだったが、ここにきてオーナー側と選手会が話し合いを続けていた新労使協定がまとまらず、オーナー側がロックアウトを選択。この結果、鈴木の移籍交渉も中断し、期限も後ろにズレることに。
果たして、新天地はどこになるのか。"神ってる"でブレイクした男の行き先は、まさに神のみぞ知る、だ。