選手の個性を伸ばす指導者になってくれるといいと語るセルジオ越後氏 選手の個性を伸ばす指導者になってくれるといいと語るセルジオ越後氏

今の日本でああいう個性を持った選手はなかなか出てこない。それだけに寂しい気持ちもあるけど、これも時代の流れ。長い間、日本サッカーのために頑張ってくれて、本当にお疲れさまと言いたい。

C大阪の元日本代表FW大久保嘉人(39歳)が現役を引退した。Jリーグ通算最多得点(191点)、史上初の3年連続得点王に加え、あまりいい結果は出せなかったけど、2度の海外移籍(マジョルカ、ヴォルフスブルク)も経験した。

特に、2013年に加入して以降、約4年半在籍した川崎でのプレーは圧巻だった。彼自身は優勝を経験できなかったけど、間違いなく今の強い川崎のベースをつくったひとりだね。目に見える結果(=得点)を求められるFWという厳しいポジションで、長く輝かしいキャリアを歩んできた。

また、日本代表でも2010年南アフリカ、14年ブラジルと2度のW杯出場。南アでは本来のFWではない左ウイングで起用され、献身的な守備で決勝トーナメント進出に大きく貢献してくれた。

体は小さいけど(身長170cm)、技術も強さもセンスも瞬間的なスピードもあって、シュートがうまい。ワンタッチでもミドルでもヘディングでも、どんな形でもゴールを狙える。タイプ的にはテベスとかアグエロに似ているかな。そして何より負けず嫌い。気持ちを前面に出して戦う。それが彼の最大の魅力だ。

確かに、その闘争心が裏目に出ることもあった。本人も引退会見の場で「ヤンチャだった」と反省していたように、相手の挑発に乗ったり、相手サポーターのやじにイライラすることも多く、警告枚数はJ1最多(104)、退場数も同日本人最多(12)と不名誉な記録も残した。日本代表でもラフプレーで一発退場し、批判されたこともあった。

でも、プロはそれくらい負けず嫌いでいいと思うし、そうじゃなければ、そもそも大久保はここまで活躍できなかったんじゃないかな。

今の若手は一見、行儀がよくおとなしい感じの選手が多いけど、Jリーグの過去の偉大な選手を見ると、気持ちをむき出しにして戦う選手が多かった。

例えばジーコは判定に不満でボールに唾を吐いて退場になったし、ストイコビッチもしょっちゅう審判に文句を言っては警告をもらっていた。ドゥンガはいつも味方を怒鳴っていた。

大久保の場合は、あの小さな体で相手の大きなDFにいつも削られるわけで、技術以前に気持ちで負けたらやっていけない。意識的に自分の気持ちを奮い立たせていた部分もあったと思う。味方が得たPKも全部自分で蹴る。ストライカーはそのくらいエゴイストにならなきゃ務まらない。それだけ厳しいポジションということだ。

今季は開幕から5試合で5得点と元気なところを見せ、C大阪からも契約延長のオファーがあったという。僕から見てもまだまだできると思う。でも、本人的にはシーズンを通して活躍できなかったことにしんどさとか難しさとか、いろいろ思うところがあったんじゃないかな。

今後は指導者の道に進むそうだ。ライセンス制度の影響なのか、今は理屈っぽく選手を型にはめようとする監督が多いけど、大久保はそういうタイプではないだろうし、選手の個性を伸ばす指導者になってくれるといい。楽しみだね。

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