柴崎岳と長友佑都について、福西崇史が深堀り! 柴崎岳と長友佑都について、福西崇史が深堀り!

不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする新連載『フカボリ・シンドローム』がスタート。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第2回目のテーマは、柴崎岳と長友佑都。W杯アジア最終予選で、批判を浴びることも多かったベテランふたりの真価を福西崇史が深掘りする!

* * *

W杯アジア最終予選で不調に喘いだ日本代表で、MF柴崎岳とSB長友佑都へのバッシングが目立ちました。いいプレーをすれば称賛され、悪いプレーをすれば批判される。これは当たり前のことですが、なんでもかんでも批判の対象になっているような気がします。そこで今回は日本代表のベテラン2選手について"フカボリ"していきましょう。

まず柴崎への批判が大きい理由は、アウェーでのサウジアラビア戦での決勝点に繋がったバックパスのミスでしょうね。細かいことを指摘すれば、味方から渡されたボールが難しかったことが、柴崎のミスを誘発したと言えます。でも、そういう時だからこそ柴崎の技術でカバーしてもらいたかったなという思いはあります。

柴崎の不要論がでるなか次のオーストラリア戦からはスタメンを外れ、その試合で使われた4-3-3のフォーメーションがハマった。それでも森保監督は途中出場で柴崎を起用。11月のオマーン戦では出場停止の守田英正に代わって先発でピッチに送り出しました。

森保監督がこれほど柴崎に信頼を寄せるのは、柴崎がほかの選手を上回るものを備えているからです。それがサッカーIQの高さ。ピッチ全体を見渡せる眼を持っていて、状況に合わせた戦い方のギアチェンジができる選手だからでしょう。

プレー面での柴崎の持ち味は、近くの味方にクサビを当て、はたいたボールをふたたび受けてを繰り返しながらリズムをつくれること。そこから相手守備陣形の隙を突いた縦パスをズバッと入れたり、機を見て前線へ飛び出したりもします。

ただ、W杯アジア最終予選の前半戦は、チームとして柴崎の長所を生かせませんでした。なぜかといえば、日本代表はボールを奪うとタテへタテへと攻撃を急ぐ傾向が強かったからです。

1トップに入るFW大迫勇也を除けば、中盤の遠藤航、田中碧、守田英正、鎌田大地、前線の伊東純也、南野拓実、古橋亨梧などの選手たちは、W杯アジア最終予選を戦うのは初めて。きっとW杯アジア最終予選の序盤戦でつまずいたことで、早く点を獲りたい、先制したいという意識が働いたんだと思います。

そのためボールを奪うとタテへ速い攻撃を仕掛けがちになりました。これでは柴崎が中盤でリズムをつくろうにも、味方同士の距離は間延びしているので、柴崎の良さは出せませんよね。

柴崎がボールロストするシーンが増えたのもこのためでした。味方同士の距離感が離れたことで、柴崎がボールを持っても孤立しやすくなり、敵はそこを狙ってきました。これが選手同士の距離が近ければ、柴崎は持ち味のショートパスの交換で敵のプレッシャーをかいくぐれたんだと思います。

それでも森保監督は柴崎を起用しています。森保監督のサッカーのベースは数的優位をつくっての堅守速攻です。それだけを聞くと、守備が長所ではない柴崎をメンバー外にしてもいいような感じもしますよね。

でもこれは、森保監督は堅守速攻だけをしろと言ってるわけではないんですね。相手と状況に応じて柔軟に対応することも求めています。当たり前ですが、ピッチサイドに立つ森保監督が「ここは速攻だ!」「いまは遅攻だ!」と毎回指示を飛ばすわけにはいきませんからね(笑)。

柔軟に対応していくためにはピッチ全体を見る眼があって、攻撃のギアを変えられる柴崎が不可欠なのです。ただ、現状では柴崎はピッチの中で『浮いている』ように感じるシーンが少なくありません。まわりの味方とは特長が柴崎ひとりだけ異質だったり、プレービジョンを共有できていなかったからでしょう。

でも、日本代表は11月シリーズで2連勝したことで自力突破できるところまで戻ってきました。これで選手たちは落ち着いてプレーできるようになります。W杯アジア最終予選の後半戦では柴崎の持ち味がチームの『アクセント』として存在を際立たせると期待しています。

長友佑都はフィジカル面の衰えを指摘されることが多かったですよね。でも、言ってしまえば35歳ですから、全盛期より落ちていて当たり前。むしろ、35歳の長友佑都をスピードやフィジカル強度で圧倒できない長友以外の日本人サイドバックの不甲斐なさを指摘してもらいたいくらいです(笑)。
 
若手を使って育てた方がいいという意見があります。実力が長友と同じくらいなら若手を使うべきです。でも、そうではないのなら日本代表は育成の場ではないので、勝負をするためにトップ選手を集めるのが当然です。

日本代表には中山雄太という東京五輪代表のSBもいて、守備の安定感は高いですが、攻撃は長友にまだ及ばない。ボクが日本代表監督だった場合でもやっぱり長友がファーストチョイスです。

フィジカルやスピードが全盛期よりも落ちている長友を起用するのは、経験に基づくサッカー脳の高さがあるから。これは森保監督も同じだと思いますね。

11月のオマーン戦は長友がスタメン起用される意義が見られた試合でした。W杯アジア最終予選の初戦のホームで負けた相手に対し、日本代表は慎重に入りすぎて腰が引けてしまい、序盤は相手にペースを握られました。それを打破したのが長友でした。

前半23分のシーンがそれです。長友は左サイドの高い位置でボールを受けると、タテに突破してクロス。ボックス右でフリーだった伊東が右足で合わせたものの、得点にはなりませんでした。

それでもこの長友のプレーが、それまでは腰が引けてチャンスらしいチャンスをつくれなかった日本代表に、「しっかり攻撃に出よう!」と背中を押したと思いますね。

こうした意図を感じさせるプレーができるのが、長友を起用する最大のメリットです。チームに推進力やダイナミズムを生み出すために、『敢えて』のプレーを選択する。こうした判断ができるのは長友に経験値があるからで、ゲーム運びで拙さのある日本代表にはまだまだ長友の力が必要なのです。

長友のコンディションに関していえば、来年はもう少し高まると予想しています。今年は7月にマルセイユ(フランス)を退団し、9月からFC東京でプレーしました。ただ、2010年から10シーズン海外クラブで戦った体調面は、なかなか日本仕様に変化できずに苦労したと思います。そこが高まってくれば、「やっぱり長友はスゲーな」と評価されるプレーを随所で見せてくれるはずです。

■福西崇史(ふくにし・たかし)
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm
1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している

★『福西崇史 フカボリ・シンドローム』は毎週水曜日更新!★