立浪監督(下)は就任会見で、「茶髪、長髪、ヒゲ禁止」を選手に通達したことを明かした。驚いた江夏氏(上)がその真意を問いただす 立浪監督(下)は就任会見で、「茶髪、長髪、ヒゲ禁止」を選手に通達したことを明かした。驚いた江夏氏(上)がその真意を問いただす

「勝つ野球をするためには妥協はしません」

監督就任会見で、"ミスタードラゴンズ"・立浪和義(たつなみ・かずよし)はそう語った。昨年、8年ぶりのAクラス入りを果たすも、今年は5位に転落した中日。リーグ屈指の投手力を誇る一方、打てない攻撃陣が最大の課題だ。低迷するチームをどう変えていくのか? 充実の秋季キャンプを終えた新指揮官に江夏 豊(えなつ・ゆたか)氏が問う! 

(この記事は、2021年12月13日発売の『週刊プレイボーイ52号』に掲載されたものです)

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■「むしろ投手陣をもう一回整備しないと」

江夏 現役を終えて、もう何年たった?

立浪 12年ですね。

江夏 その12年間、ネット裏から中日の野球を見る機会が多かったと思うけど、今、大変なチームだよな。あなたはどう見ていた?

立浪 低迷が続くなかでチームとして「勝ちたい」となるのは当然だと思います。でも、そのために若い選手を使い切れなかったり、負けている試合でも勝ちパターンのピッチャーを使ったり。それが裏目に出ていたのが最近のドラゴンズという印象があります。もちろん、戦力的なこともあると思いますけども。

江夏 戦力といえば、今年のセ・リーグは2年連続最下位のヤクルトが優勝するという、とんでもないことが起きたよね。決して戦力が厚くないのに勝った。

これは裏を返せば、6球団の力が均衡しているからなのか。優勝候補だった巨人は勝率5割を切ったし、前評判が良かったDeNAは最下位に終わった。だから本当に今、どこが勝つかわからない時代になっていると思うよ。

立浪 ですから今年、ドラゴンズもそこまで離されるような戦力ではなかったと思うんです。現に、投手陣はリーグで一番防御率が良かった(3.22)ので。

ただ、ビジターでの成績が悪いんですね。広いバンテリンドームとそれ以外の球場とでピッチングが変わってしまうのは、まだまだ本当の力がないからなのかなと。今年1年、ドラゴンズは「打てない」といわれてきましたが、むしろ投手陣をもう一回整備しないと上に行けないと思っています。

江夏 打つほうは"水物"だから、どんなにいい打線でも、いいピッチャーにかかったら打てないから難しいよね。

その点、投手力を含めた守りは計算できて、中日には昨年、沢村賞を受賞した大野(雄大)、今年、最優秀防御率を獲(と)った柳(裕也)という左右の主力投手がいる。このふたりを中心に、中堅もしくは若い人がどれだけ食い込んでくるか。

立浪 ふたりのほかにも先発の頭数はいるんです。まず、われわれが一番期待しているのは小笠原(慎之介)で、今年初めて規定投球回数に達しました。あとは福谷(浩司)です。

江夏 福谷は、真っすぐの速さは魅力あるね。

立浪 はい。それからロドリゲス、松葉(貴大)ですね。ここに梅津(晃大)、勝野(昌慶)といった若くて力のあるピッチャーがひとりでもふたりでも伸びてきてくれたら、と願っています。

江夏 その中から本当の"孝行息子"が出てくれたらいいね。じゃあ、打線はどうだろう。自分は今年の日本シリーズを見ていて、ヤクルト、オリックスとも助っ人の力が大きかったと感じたんだけど。

立浪 まさにドラゴンズは助っ人のビシエドが中心打者ですが、どうしてもピッチャー寄りに体が突っ込んでしまって。今のままだとホームランは量産できそうになく、今年も17本でした。

江夏 4番としては、ちょっと物足りない数字だね。

立浪 ええ。相手からしたら「インサイドをしっかり攻めていれば、詰まったヒットはあっても長打はない」というイメージになっていると思うんですね。そこで秋季キャンプのときにビシエド本人と話をして、そのあたりを変えようと。簡単なことではないと思いますけど。

江夏 本人に変わる気持ちがなければ変わらないもんな。

立浪 そこはビシエド自身、今年の成績が悪かったことは自覚していて、「一回、考え直して取り組みたい」と言っていました。性格的には意外とマジメな選手なんです。

江夏 それならいいんだけど。打つほうの助っ人はビシエドのほかに、キャッチャーもやっていた(アリエル・)マルティネスがいるよね。

立浪 マルティネスにはバッティングに専念してもらおうと考えています。

江夏 確かに、彼は右中間にいい打球を打つしね。あとは攻撃面で機動力はどう? 若い人がたくさんいるチームは練習次第で機動力がどんどん身につくから。

立浪 機動力はもちろん使いたいですけど、結局、スタメン8人の中に何人、走れる選手がいるかなんです。その中で今、ドラゴンズでレギュラーが決まっていないポジションはセカンド、ライト、レフトになります。

江夏 セカンドの阿部(寿樹)もレギュラーじゃないのか。

立浪 阿部は今年、調子が悪く、後半はケガで出られなくて。内野の若手では、東邦高から入って来季3年目の石川(昂弥)に期待しています。長打力を秘めていますので。

江夏 長打力がビシエドひとりじゃしんどいから、そういう若い人に出てきてもらいたいね。あとは大阪桐蔭高から入った根尾(昂)はどうなの?

立浪 根尾はショートと外野を守っていたんですけど、秋季キャンプが終わったときに「ライト一本で勝負しろ」と伝えました。打てれば当然、使える選手なんですけど。

江夏 打てるでしょ、彼は。

立浪 だいぶ良くなっています。ただ、タイミングを取るのがまだうまくいかなくて。

江夏 まだまだか。でも、あのバットスイングの速さは目を見張るものがあるよね。足もあるし。

立浪 足に、肩もありますので。その根尾のライバルとして、岡林(勇希)という来季3年目の外野手がいて、足が速くてミートがうまいんです。

江夏 岡林、左打ちの?

立浪 はい。ライトを守っていまして、この岡林と根尾との競争になりますね。

江夏 競争から抜け出した若い人がボーンと乗ってくれれば、黙っていてもどんどん伸びていく。でも、それ以外はやっぱりうまいことおだててやらんといかん。そういう時代だから、指導者のほうが大変だよな。

立浪 そうですね。ただ、秋季キャンプを見た限り、幸いにしてドラゴンズには素直な選手が多いなと。最初はちょっと構えている選手もいたので、自分も極力、声をかけるようにしています。

■「監督になった途端、エライこと言いだすな」

江夏 それはとてもいいことだと思う。それに、名古屋に限らず広島もそうだけど、昼間の2軍戦でちょっといい結果を出すと、すぐ夜の街に伝わってるということがローカル球団にはあるじゃない。18、19歳で周りからチヤホヤされたら有頂天になって、おかしくなると思うんだよ。

立浪 確かに、そういうところはあると思います。

江夏 だから、コミュニケーションを取るなかでそのへんもきっちり球団なり首脳陣が管理してやる。それが本当の愛情と自分は思うんだよね。で、これは管理といえるのかどうか、あなたが就任会見で発した「茶髪・長髪・ヒゲ禁止」って何?

立浪 ハッハッハ。長いプロ野球の歴史の中で、チャラチャラした格好で長く活躍した選手を見たことがないので、まず身だしなみからしっかりしようと。もちろん、ヒゲを剃(そ)ったから、髪を黒くしたから強くなるとは思ってないですけれど、外から見ていてあんまり......。

江夏 いい印象はないよね。

立浪 ファンの方の視線に立って、スポーツマンはスポーツマンらしく、というところからスタートしたいなと。

江夏 ただ、そういう指導を若い人に理解してもらえるかどうか。あなたの母校、PL学園じゃないんだから(笑)。

立浪 はい、もちろん(笑)。

江夏 PLだったら、「あれやれ、これやれ」で、それであなたたちは育ってきたけど、今の時代は高校野球も全然違うしな。まして、プロとなれば大人扱いだからね。

立浪 今のところ、みんなキチッとした姿でグラウンドに来てくれています。

江夏 そうか。ただそのあたり、どこで妥協するか、どこまで選手の気持ちを監督が理解できるか、という問題もあると思うんだよ。あなたも現役時代はそうだったと思うけど、やるからには気分よくやりたい、チームの戦力になりたい、という気持ちはみんな持ってるわけだから。

立浪 おっしゃるとおりです。

江夏 じゃあ、今後はもう一切認めない、というわけではないんやな?

立浪 はい。あくまでも初めに一度、身だしなみをしっかりしてからスタート、ということですので。

江夏 OK。監督になった途端、エライこと言いだすな、と思ってたんだ(笑)。

立浪 ハッハッハ。

江夏 さあ、秋季キャンプが終わって、問題は来年の沖縄キャンプだよ。そこであなたが目指しているものは?

立浪 まず、秋季キャンプではレギュラー陣もしっかり練習させました。普段ゲームに出ている人が頑張らないとチームは強くならないですし。

その上で、若手も含めて個々のレベルアップを目指して、野手であればゴロのノックを毎日1時間受けさせて。バッティングも1時間ずっとぶっ通しでやらせました。それなりに体力もついてきて、振れるようにもなっていると思うので、来年の春はいきなり競争になっていきます。

江夏 一日、野球漬けになる期間だけに首脳陣がうまいこと引っ張っていけるか、そこだよな。

立浪 今の選手ってわれわれの時代とは違ってマジメで、もうすでにみんな自主的に練習をやっているんですよ。

江夏 今の若い人は1年間、野球をやってるもんな。

立浪 ですから、ある程度休みも必要だし、遊ぶことも必要だよと伝えました。その上で、自分で決めて計画性を持って練習しなさい、と。

江夏 そのへんをうまくリードしてあげればね。あなたはまだ52歳で、年齢も選手たちとそう離れていないんだから、監督という部分と、いい相談相手の兄貴分という部分をうまく使い分けてもらいたい。

立浪 わかりました。

江夏 で、チームを明るく引っ張っていってもらいたい。そうして選手たちが勝利の味を覚えたら、茶髪も長髪もヒゲも自然消滅するよ。

立浪 そういうものですか。

江夏 そうよ。そして、来年も中日が大変なのは目に見えてる。あなた自身、のたうち回るぐらい悩むと思うけど、自分で選んだ道なんだからな。

立浪 はい、頑張ります。

江夏 来年のキャンプ、沖縄に行ったら必ず顔を出させてもらって、ブルペンを楽しみに見させてもらいます。

立浪 ありがとうございます!

江夏 じゃあ、頑張って!

●江夏 豊(えなつ・ゆたか) 
1948年生まれ、兵庫県尼崎市出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ。

●立浪和義(たつなみ・かずよし) 
1969年生まれ、大阪府出身。87年、PL学園高の主将として甲子園春夏連覇を果たし、ドラフト1位で中日入団。1年目からショートの定位置をつかみリーグ優勝に貢献。その後も攻守にわたりチームを引っ張り中日を象徴する選手に。2009年現役引退。通算成績2586試合、2480安打、171本塁打、1037打点、135盗塁、打率.285。