冨安健洋について、福西崇史が深堀り! 冨安健洋について、福西崇史が深堀り!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする新連載『フカボリ・シンドローム』がスタート。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第4回目のテーマは、冨安健洋。プレミアリーグの名門クラブ・アーセナルでは右SBのレギュラーとして活躍する冨安は、なぜ日本代表ではCBなのか? 福西崇史が解説する。

* * *

世界最高峰と称されるプレミアリーグのクラブに所属する日本選手が増えていますね。

今季はスイスのグラスホッパーでプレーを続けるそうですが、年明けに川辺駿がウルヴスへの移籍が決まりました。三笘薫もベルギーリーグでプレーしていますが、プレミアリーグのブライトンからのレンタル移籍です。

ただ、実際にプレミアリーグの舞台に立つには、レンタル先のクラブでの活躍はもちろんですが、ビザ取得を考えると日本代表にも定着しなければ難しくなってしまいます。

これまでプレミアリーグでプレーした日本選手は、リヴァプールの南野拓実、アーセナルの冨安健洋を含めて10選手います。その中で強豪クラブでレギュラーを張っているとなると冨安だけになってしまいます。

冨安は2021/2022シーズンが始まってすぐにセリエAのボローニャからアーセナルに移籍しました。合流してすぐに右サイドバックで起用されると、安定した守備力で評価を高めて定位置を確保。攻撃面でもシュートシーンにつながるパスをゴール前に配球しています。

1月1日(現地時間)に行われたプレミアリーグ首位を走るマンチェスター・シティ戦では、アーセナルは退場者を出したこともあって後半アディショナルタイムに決勝ゴールを奪われて力尽きます。しかし、敗戦のなかにあっても冨安は高く評価されました。

この試合でシティの左サイドでプレーしたイングランド代表FWのラヒーム・スターリングを完全に封じ込めました。持ち味のスピードで縦への突破を図ろうとするスターリングを、冨安がスピードで上回ってボールを奪取したシーンはハイライトのひとつでしたよね。

海外サッカーを見ない人にとっては、日本代表では不動のセンターバックの冨安が、右サイドバックでプレーする姿をイメージできないかもしれませんね。でも、冨安は昨季まで所属したボローニャでも、加入1シーズン目の2019/2020は右サイドで起用されました。

富安は右SBとして世界から十指に入る選手という高い評価を得ています。それなら日本代表でも冨安を右SBで起用してはどうかという意見が出ても不思議ではありません。

クラブと代表で異なるポジションをやるよりは、普段からプレーし慣れたポジションの方がコンスタントに力を発揮しやすくなるのは間違いありません。

また、日本代表で言えば、右SBには長くフランスリーグの第一線でプレーした酒井宏樹(浦和)がいますが、昨年はコンディショニングに苦しんで本来の姿を見せられませんでした。冨安なら酒井の代わりが十分過ぎるほどつとまるでしょうね。

冨安にはあのスターリングを止めるだけのスピードがあって、ヘディングも強い。フィード能力は高く、クロスの精度だって光るものがある。もし冨安がふたりいれば、ボクが監督だったとしても冨安を右SBに使いますよ(笑)。

でも、日本代表ではひとりしかいない冨安を右SBに置くのはもったいないことです。なぜならサッカーでほとんどの得点と失点が決まるのはゴール前の攻防だからです。

大袈裟に言ってしまえば、守備という観点だけでいえば、どれだけサイドを突破されようが、ゴール前で弾き返せれば失点はしません。攻撃も同じで、どれだけサイドを突破していいクロスを供給しようと、中央で競り勝てなければゴールネットを揺らすことには繋がらないんですね。

勝負に直結するポジション=CBだからこそ、日本選手でもっとも能力の高い冨安をそこに起用しない手はあり得ないことなんです。

では、なぜアーセナルでは右SBかといえば、理由のひとつにはCBを任せるにはコミュニケーションにまだ時間が必要という判断もあるのだと思います。

冨安は移籍前から語学の準備していると聞きます。でも、コミュニケーションはなにも言葉だけのことではないですよね。

阿吽の呼吸と言われたりしますが、CB同士や、CBとGKが互いに言葉を交わさなくても何を考えているかを理解し合う。そういう意思の疎通を、失点に直結するポジションだけに重視する。これは海外でも日本でも共通することです。

ただ、これから先も冨安がアーセナルで右SBに使われ続けるとは限りません。冨安の能力を考えれば、DF陣に何か起きた場合にCBで起用されたとしても当然の判断だと思います。

実際、前所属のボローニャではチームやリーグに慣れるまでの1年目は右SBでしたが、2年目は基本的にCBで起用されました。シーズン当初はチームの失点がかさんだことでCBの冨安に批判が集まりましたが、シニシャ・ミハイロヴィッチ監督の厚い信頼のもとで成長を遂げましたよね。

もうひとつ、海外クラブで冨安を右SBに置ける理由があります。それは高くて強いDFがほかにもいること。冨安ほどのスピードやフィード能力がなかったとしても、ほかの能力で冨安とは違ったCBとしての存在感を発揮する選手がいるわけです。

翻って日本代表はというと、CBには海外組なら東京五輪代表の板倉滉(シャルケ/ドイツ2部)や、W杯ロシア代表の植田直通(ニーム/フランス2部)がいて、シュツットガルトで売り出し中の伊藤洋輝などがいます。

でも、冨安を右SBにしてまでCBに使いたい選手かと言われれば、高さや強さでも不安感は否めません。板倉の成長は楽しみではあるものの、代表経験という部分では信頼感にまだ疑問符が残りますね。

年明けのリーグ戦で右太ももを故障した吉田麻也の回復が、1月27日から再開されるW杯アジア最終予選に間に合わず、代役を立てる必要がでてくると、守備の安定感を大幅に欠いてしまう可能性があります。それほど日本代表のCBの選手層が薄いと言えるのが現状です。

今後もし冨安も吉田も板倉も欠くような事態が起きたら......アジアは何とかなるかも知れませんが、世界との戦いでは厳しいといわざるを得ないでしょうね。そうならないことを祈りましょう(苦笑)。

いずれにしろ、冨安はまだ23歳。今後どこまで成長を遂げるのか楽しみでしかありません。世界のトップofトップのクラブでCBとして活躍する日は遠くないと期待しています。

■福西崇史(ふくにし・たかし)
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm
1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している

★『福西崇史 フカボリ・シンドローム』は毎週水曜日更新!★