北海道日本ハムファイターズの新監督に就任し、日本中の度肝を抜いたBIG BOSS。"新庄カラー"全開の秋季キャンプで見えてきた野球観、監督力とは? 真中満氏、川上憲伸氏、お股ニキ氏があらゆる角度から深掘りします!
(この記事は、2021年11月29日発売の『週刊プレイボーイ49号』に掲載されたものです)
■ただの思いつきじゃない、根拠ある"新庄流指導法"
すっかり日本中をとりこにしている日本ハム新庄剛志監督の「BIG BOSS劇場」。
プロ野球界の革命児がその言動の裏に隠し持つ"監督の資質"はいかほどなのか。専門家たちから意見を求めた。まず、「新庄さんはああ見えて根拠のないことはしない」と語るのは、野球評論家の川上憲伸氏だ。
「例えば、外野手に『強くて低い送球を』と意識させていますが、あれはすごく重要なこと。外野からホームまで大遠投してしまうと打者走者は二塁まで行けてしまう。もし本塁もセーフなら失点するだけでなく、さらにピンチが広がります。
低い送球であれば内野手がカットする可能性もあり、打者走者はストップせざるをえない。タイミングがよければカットせずに本塁をアウトにすればいい。選択肢が広がるわけです。新庄さんがいた頃の日本ハム外野陣はそういう『叩きつける返球』でしたから」
川上氏は、新庄監督の言動から、ある人物の指導法を思い出したという。
「自分が現役時代の2004年、落合(博満)政権になった中日は『戦力底上げ10%』と掲げて、新戦力は補強しなかった。それでも優勝できました。まさに、『損しているものを減らそう』というイメージの監督業を新庄さんもやっているのかなと」
川上氏によれば、プロの現場では個人の能力評価と試合結果がそのまま結びつかないケースが数多くあるという。
「プロ野球選手は、遠投力がある、走力がある、打撃力がある、遠くまで飛ばせる......といった個々の能力が評価軸になるんですけど、試合の中で結果に結びつくかどうかはまた別。新庄さんは落合さん同様、そのギャップを埋めようとしている気がしますね」
BIG BOSSが訪れた秋季キャンプでは、捕手を本塁ベースから1mほど前に座らせて投手陣にピッチングさせる光景もあった。
「あの練習はメジャーのブルペンではよくある手法で、僕もブレーブス時代にやりました。目的はボールを低めに集めようとすることで、リリースポイントが前になっていくんです。おそらく新庄さんは自身がアメリカで得た知見を踏まえ、投手陣に実践させているんだと思います。
決してただの思いつきじゃない。今はとにかく一分一秒をムダにせず、すごく考えて指導しているように見えます。チームにとって、選手にとって何が足りないのかを自分の目で確かめながら。シャツの襟が高いだとか、目立つ赤ジャージを着ているなどはカムフラージュですよ」
同様に、"新庄流指導法"について評価するのは、本誌ではおなじみの野球評論家、お股ニキ氏だ。
「言っている内容は、至極まっとうですよね。ベースを踏む位置を工夫して効率よく走塁できるように意識を変えるとか。今のプロ野球は投手のレベルが高く、オリックスの山本由伸を筆頭にメジャーレベルの鋭い球を投げるわけです。
と考えると、長打力向上も大事ですが、それと同じくらい走塁をはじめとした小技も大事になってくる。例えば、楽天は走塁の指標が悪く、打撃力はリーグ1位なのにペナント順位は3位と結果につながりませんでした。
ちなみに、走塁の指標がいいのはロッテで、今季の日本ハムは真ん中くらい。新庄監督はそういった部分の底上げを狙っているんでしょう」
■"門下生"真中満が語る、"野村の教え"
野球解説者の真中満氏にも話を聞いた。共に現役時代のポジションはセンター。2015年にはヤクルトをリーグ優勝に導いた名将だが、監督の先輩として、BIG BOSS誕生をどう見ているのか。
「これまでのプロ野球監督像というと、長嶋(茂雄)さんや王(貞治)さんら、往年のスターたちがその威光とともに務めていたイメージでした。選手たちとも一定の距離を取り、『監督たるものうんぬん』という風格もあった。ところが最近は、僕も含めてですけど、ある程度はフランクにやりたいという考えをみんな持っている。
そこへ、新庄監督の登場です。プロ野球監督像の地殻変動が起きても不思議じゃない。普通の人はなかなか、あそこまで突き抜けることはできません。正直、うらやましいし、勇気があるなぁというのが実感です。"新庄剛志"という新しい監督像を目指して行動しているところに好感が持てます」
真中氏とBIG BOSSは、かつて故・野村克也氏の指導を受けた点も共通している。野村氏は生前、「外野手出身監督に名監督なし」と口にしていたが......。
「確かに、野村さんは『外野手に名監督なし』という考えでした。ご自身で『固定観念は悪』とおっしゃっていた割には、その考えをずっと変えなかったという(笑)。
もちろん、僕としてはなんとか見返してやりたいという思いでやってきましたし、今の新庄監督にもその気持ちはあるんじゃないですか。センターの選手だって、捕手のサインを見ながら守備位置を変え、外野陣に指示を出して、と考えながら野球をやっているわけですから」
そう語る真中氏は、野村さんから学んだことには「野球論」と「それ以外」がある、と話を続けてくれた。
「僕は『プロ野球選手たるもの、人間たるもの......』といった哲学的な人間観の部分で、野村さんから影響を受けました。確かに野球の技術的な面もたくさん指導していただきましたが、それよりも『野球選手を辞めた後にどうするのか。野球が終わって何もなくなる人間になるな』といった話をよく覚えています。
天才肌の新庄監督は技術的なことはあまり聞いてなかったかもしれないですけど(笑)、きっと人間観の部分や、マスコミやファンとの接し方といった部分で"野村の教え"を学んだんじゃないでしょうか」
新人監督として1年目を迎えるにあたり、心がけるべきことは?
「やっぱり選手が一番気にしていることは、『新しい監督が何を考えているか』の部分。その方向性については、ミーティングや普段の会話などで詳しく伝えていくべきです。
とはいえ、新庄監督の場合は言葉だけでなく、パフォーマンスの中で自分の野球観を周囲に伝えているような気もします。あとは幸か不幸か、日本ハムはこのところ低迷しているチームなので、新人監督は思い切っていろんなことができる。過去は気にせず、新しい新庄スタイルを貫いてほしいですね」
走塁の意識改革や、記者会見での「ヒットを打たなくても点は取れる」発言などから、一部では「スモールベースボールを目指すのではないか」という声も聞こえてきている。
「スモールベースボールを目指すかどうかは、選手の現状によるところが大きい。足が使えて細々(こまごま)としたプレーが得意な選手が集まれば、自然とスモールベースボールになりますし、足が遅めのホームランバッターがそろっていればどうしても大味な野球になる。
現状の日本ハムを見る限り、長打を連発できるような核となる打者はまだ出てきていない。その意味で、新庄監督の一連の発言は、『今のメンバーならスモールベースボールを目指すのが最適解』ということかなと僕は解釈しています。来年、再来年とチーム状況が変わっていけば、目指す野球にもまた変化はあるはずです」
BIG BOSSはツイッターで、「たまにはファンが選ぶスタメン試合を検討しています」という驚きのつぶやきもしていた。
「そのアイデアは非常に面白いですけど、やっぱり監督って勝たないといけないポジション。勝てば官軍で許される部分がある。一方で、負けだしたときにどうするか。いろいろなアイデアを持っていたとしても、シーズン終盤で借金20とかになったとき、そのまま突き抜けられるかどうか。
心配しているというよりも、楽しみにしています。新庄監督なら、きっとやってくれるんじゃないかと。年配OBには、『監督が出しゃばりすぎるな』とおっしゃる方々もいると思うんですけど、もし出しゃばったらどうなるのかを一度やってみてもらいたい」
そんなBIG BOSS効果の影響力について、真中氏はこんな見方も示してくれた。
「楽天の石井一久監督なんか、本当は新庄監督みたいにやりたいと思っているはず。石井監督も本来は"あっち側"の人だから。でも、そこまでは突き抜けられず、現状では往年の監督業みたいになってしまっている。もし新庄監督が成功したら、石井監督も乗っかり気味でハジけてくれるのでは、と期待しています」
BIG BOSSの力は球団だけでなく、球界全体を変えるパワーを秘めているのだ。
■メジャー時代の友、ボンズ招聘も期待
では具体的に、ビッグボスが率いる日本ハムの戦力について考えたい。2軍戦もウォッチするお股ニキ氏に解説してもらおう。
「日本ハムは投手陣が育ってきて、チームを変化させるには面白い時期が来ています。指標を見ると、先発陣は今季12勝の上沢直之、10勝の伊藤大海(ひろみ)だけでなく、バーヘイゲンら外国人投手もいい。
セットアッパーの堀瑞輝(みずき)も著しい成長を見せ、最優秀中継ぎのタイトルを獲得しました。さらに、来年は上原健太が期待できると思っていたら、新庄監督の下で二刀流に挑戦すると表明。チーム全体の配球も含めて、生まれ変わるいいタイミングだと思います」
半面、不安が募るのは野手陣の守備だという。
「日本ハムは野手が弱い。特に内野守備が厳しいですね。オリンピックで坂本勇はや人とや菊池涼介、源田壮亮(そうすけ)らに後ろを守ってもらった伊藤大海は、守備の次元があまりに違うことに驚いたのか、感動しているような顔をしていましたから。内野手に限らず、外野手も捕手もミスが多い印象です」
加えて、打撃面の指標も芳しくない。
「走塁の細かい意識も大切ですが、本来はやっぱり長打力も上げていきたいところ。ホームランなら1球で1点になりますから。現在のプロ野球では、チーム打率が多少低くてもリーグ1位に届くので、全体的にメジャーリーグっぽくなってきているのは間違いない。
だからこそ、新しい長距離砲の獲得を狙いたいですし、清宮幸太郎もなんとかしないといけないはず。逸材は逸材ですから。その意味で、清宮への『痩せろ指令』は正しい。いい選手は総じて体形がいいですから。今季本塁打王になったオリックスの杉本裕太郎のように覚醒できれば、話は変わってきます」
さらに、メジャー在籍時にも異常なコミュニケーション能力を発揮していたBIG BOSSならではのサプライズ人事にも期待したいという。
「ジャイアンツ時代の同僚で友人、バリー・ボンズに臨時コーチの打診をしたいと言っていましたよね。万が一、ボンズが来たからといって、日本ハムの打撃力が変わるかは未知数ですが、そうは言ってもボンズの打撃理論は本物。ぜひ見てみたいです」
最後に、お股ニキ氏が来季、「BIG BOSSにぜひ注目してほしい」と考える選手を挙げてもらった。
「ひとりは野手から投手に転向した姫野優也。150キロ以上のいい球を投げますし、まだ投手として日が浅いのでクイックなどの課題はありますけど、期待が持てます。
ほかに投手でひそかに『これは本物かも』と思っているのは生田目(なばため)翼。彼はそもそもボールが異様に速い。150キロを超えるストレートに、140キロ程度のフォークとスラットなどを持ち、今のトレンドに即しています。
また、二刀流宣言で注目の上原健太はもともとアスリート型の選手。投球内容の指標もよくなっていたし、過去にホームランを打った映像を見るかぎり、バッティングも確かにすごい。
大谷翔平(エンゼルス)のようなパワーのある打ち方です。野手経験のある姫野、二刀流の上原をうまく使えば、新庄監督が秋季キャンプでも実践していたポジション・シャッフルも実現するかもしれません」
そして、BIG BOSSが「ドラフト1位の子が開幕戦で先発になる可能性も」と語っていた、そのドラ1男、達(たつ)孝太(天理高)をどう見るか?
「手前味噌ですが、私の著書『ピッチングデザイン』を読んでいるということで期待感はあります。投手に関しては楽しみな要素が多いです」
どこまでも夢が膨らむBIG BOSS政権。来季のスタートが今から楽しみだ!
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