レジェンド・江夏豊氏(後ろ)との対談に最初は緊張気味だった奥川恭伸投手だが、時に爽やかな笑顔を見せながら自身の野球観をハキハキと語った

2年連続最下位から下克上のリーグ制覇。そして20年ぶりの日本一。痛快すぎたヤクルト復活劇の主役のひとりが、高卒2年目右腕・奥川恭伸だ。

チームトップタイの9勝を挙げ、日本シリーズでは第1戦の先発という重責を担った。デビュー時の戸惑いと昨季後半戦での覚醒、さらに目指すべきエース像まで、伝説の名投手・江夏豊に語り尽くす! 

■「何もできない自分にイライラしました」

江夏 日本一、おめでとう。

奥川 ありがとうございます。

江夏 一年間投げてみてどうだった? 疲れたか?

奥川 はい。体力的にというより、精神的な疲れのほうが大きかったです。

江夏 やっぱり、この世界は勝たないといけないからな。まず、あなたは星稜高校時代、4回も甲子園に出てるんだよね。当然、注目されたわけだけど、高校3年のときにはもうプロに入りたいと?

奥川 思っていました。

江夏 大学、社会人は考えなかった?

奥川 考えてなかったです。もうプロ一本で、と決めていました。

江夏 そうか。プロに入るんだったら当然、強い巨人に入りたい、あるいは人気のある阪神に入りたい、という気持ちはあったやろ?

奥川 球団に関しては全然こだわりはなかったんです。とにかく1位で指名されて入りたい、と思っていました。

江夏 それでドラフトではヤクルト、巨人、阪神に1位指名された。ヤクルトに決まったときはどうだった?

奥川 うーん......。

江夏 フッフッフ(笑)。

奥川 当時はあまり知らなかったんです。自分は石川県出身で、石川ではあまりヤクルト戦が放送されていなかったので、どういうチームなのかもわからなくて。正直、12球団の違いもよく知らなかったんですよ。

江夏 でも今の時代、石川にいたって情報はいろいろ入ってくるでしょう。

奥川 それでもよくわかってなくて(笑)、とにかく1位で指名していただいてうれしい、という気持ちでした。

江夏 ヤクルトが強いとか弱いとかも知らなかったの?

奥川 はい。

江夏 ウソやろ(笑)。

奥川 強い、弱いは関係なく、入ってしまえばどこもそんなに変わりないのかな、と思ってました。

江夏 入ってみてわかっただろ? 大いに変わりあると。

奥川 まあ、いろいろありますけど(笑)。でも今となっては、ヤクルトで良かったと本当に思っています。

江夏 同期入団のピッチャーがほかに3人。オレも経験あるけど、ドラフト1位で入ると、同期に負けられないという気持ちは当然あったやろ?

奥川 ありましたね。

江夏 ほかの選手を見て、「この程度か。ならば......」という気持ちもあった?

奥川 いやいや、まったくなかったです......。

江夏 ウソつけ?(笑)。

奥川 いえいえ(苦笑)。

江夏 じゃあ、例えば吉田大喜は? 大学出で、昨年はリリーフをやっていた。タイプは全然違うと思うけど。

奥川 僕は高校のレベルでしか野球をしたことがなくて、対戦する相手も、一緒に練習する相手も高校生だったので、大学出というだけでスゴいなと。キャッチボールをしても、「うわっ、球スゴいな」と感じていましたし。

江夏 確かに、高校出と大学出では体力が違うからな。

奥川 大学出の1年目でこの球なら、やっぱりプロはスゴいんだなと思いました。

江夏 高校時代と比べて何が一番違った?

奥川 スピード感です。ピッチャーが投げるボールもそうですし、バッターが打つ打球も、走塁も。最初はすごく圧倒されました。

江夏 戸惑った?

奥川 はい。

江夏 特に打つほうに関しては飛距離も違うわけだけど、プロのバッターはスゴいなと一番感じたのは?

奥川 技術力が高いな、ということですね。

江夏 そして実際、プロのバッターに初めて投げてみたとき、どうだった?

奥川 ゲームで最初に投げたときは、それまでできていたことがまったくできなかったんです。プロのレベルに圧倒されたというより、何もできない自分にイライラしました。

江夏 何もできないって、ボールがしっかり指に引っかからなかったとか?

奥川 はい、引っかからなかったです。

江夏 それは体力的な問題? それとも投げ方の問題?

奥川 投げ方の問題が大きかったと思います。

江夏 でも、あなたは1年目から「コントロールが良く、右バッターに投げる外のスライダーは一級品」といわれて評判が高かった。確かにマウンド上の姿を見ていても、いいバランスで投げている。そのフォームは自分自身で考え出したの?

奥川 高校時代のコーチからご指導を受けました。外部の方なんですけど、社会人野球まで経験されていて、技術的なことはその方にたくさん教わりました。

江夏 いい指導者と巡り合えたわけだね。ただ、プロで最初のゲームは投げ方が良くなかった、と。プレッシャーがかかった?

奥川 そうですね。それで2年目は結果を出していかないと......と思っていたんですけど、オープン戦でもあまり良くなかったんです。

江夏 それでも1軍に残って、2021年の初登板は?

奥川 神宮球場での阪神戦(2021年3月28日)でした。5回3失点で負け投手になりましたけど、オープン戦に比べれば内容は良かったのかな、と。

江夏 自分なりに満足ができる投球だった?

奥川 満足とまではいかないですけど、そのときに自分ができることとしては、まずまずできたのかな、と。

江夏 まずまず、か。じゃあ、その時点ではあなた自身、1軍のピッチャーとしてはまだ力不足だと感じていた?

奥川 感じていました。

江夏 それは体力的なもの?

奥川 体力的なものは今でも感じていますし、何が足りないというよりも、できていたことができなくなっていて。

江夏 どういうこと?

奥川 フォームなんですけど、マウンドの変化が原因で以前のように投げられなくなっていたんです。プロのマウンドはすごく硬くて、どうしても慣れるのに時間がかかって、フォームにズレが起きてしまって。相手がどうこうというより、自分自身の問題でした。

江夏 マウンドの高さとか硬さを気にするほうか?

奥川 すごく気にします。

江夏 オレは全然、気にせんかったけどな。どんなマウンドでも投げさせられたし。今でこそ、どの球場もしっかり整備されているけど、昔は地方球場に行くと、ちゃんとしたマウンドがないこともあったんだから。

奥川 僕はすごく気になってしまうほうで......。

江夏 気にしたら、とことん気になるからな。

奥川 そうですね。今となっては、気にしすぎたのかなと思っています。

江夏 必要以上に気にしないことだよ。いろんな変化に順応していかないと。自分で「これしかできないんだ」と思い込むと、よけいにしんどくなるから。

奥川 確かに、「こうやって投げたいんだ」とか、自分のことで精いっぱいで、本当の意味でバッターと対戦できていなかったんだと思います。そんな状態だと結果もついてこなくて、最初はすごく苦しみました。

■「球界のエース」になるためには

江夏 それはちょっと遠回りだったな。それでも、開幕から中10日でローテーション入りしたわけだ。

奥川 なんで自分なんだろう?と、すごく思いました。結果も出ていなかったですし、球数の問題とかで、正直、開幕には間に合っていなかったので。

江夏 そうすると、どのあたりから順応できて、プロのスピードにも慣れてきた?

奥川 前半戦の最後のほうから少しずつ慣れてきた感じがありました。後半戦の最初の試合の先発を任せてもらって、そのあたりからやっとプロの世界になじめてきたかな、と。

江夏 そして後半は5つ勝って、最終的に昨年は9つ勝ったわけだよ。9つという数字は、自分でどんなもんだ?

奥川 シーズン当初に、昨年は「7勝」という目標を立てていたんです。

江夏 どういう計算から?

奥川 2020年はほとんど投げてなくて、2021年が実質1年目。そういうことを自分で考えてみたら、7つぐらいかなと。

江夏 7つだったら、2桁狙うやろ、普通(笑)。

奥川 はい(笑)。ただ、中10日と決まっていたので、そうすると7勝ぐらいかなと。結果的にそれより上にいけたのはよかったと思います。

江夏 負けは? なんぼぐらい負けると思ってた?

奥川 負けについては考えてなかったですね。

江夏 え? この世界は負けも計算しないと。

奥川 今ではそう思っています。最初は勝つことばかり考えてたんですけど、一年間戦ってみて、負けないことも大事だなと。負け数が少ないピッチャーを目指します。

江夏 昨年9つ勝って、「ヤクルトに奥川あり」をこの世界に示した。そして、なんと日本シリーズの第1戦に先発したわけだよ。これは大いに胸を張っていいことだと思うよ。

奥川 ありがとうございます。

江夏 今後、どういうピッチャーになっていきたい?

奥川 スワローズのエースになりたいですし、ゆくゆくは「球界のエース」と呼ばれるようなピッチャーになりたいと思っています。

江夏 大いにけっこう。でも、簡単なことやないよ。

奥川 はい。そのためにすべきことはたくさんあるので。

江夏 あなたはそういう存在になれる力を持っているからね。そのためにどうすべきか、自分で考えてもらいたい。キャンプで投げる球数にしても、トレーニングにしても、コーチの言いなりじゃなくてね。

奥川 はい。キャンプでは、ある程度球数を投げる日も必要だと思っています。

江夏 とにかく体に気をつけて、今年のキャンプは一から体力づくりに取り組んで。自分から言わせてもらえば、ボールは肩、腕で投げるんじゃない。下半身で投げるんだということをよく理解してね。

奥川 わかりました!

江夏 じゃあ最後に、あなたにとって「エース」とは?

奥川 シーズンを通して、投げるべきゲームで投げることが大前提で、勝ち星の数はもちろん、チームにとって勝ってほしいところでしっかり勝つのがエースだと思います。

それから、投げるだけじゃなくて、立ち居振る舞いに風格を感じさせるピッチャーですね。日本シリーズでオリックスの山本(由伸[よしのぶ])投手と投げ合ってみて、ああいう人が「球界を代表するエース」と呼ばれるピッチャーなんだな、と間近で見て強く感じたので、そういうところを目指していきたいです。

江夏 山本君には自分も「おおっ」とうならされたし、敵ながらあっぱれなピッチャーだったよね。あなたには彼に追いつき、追い越してもらいたい。お願いします。

奥川 ありがとうございます! 少しでも追いつけるように頑張ります。

江夏 よっしゃ! こちらこそ今日はありがとう。

●奥川恭伸(おくがわ・やすのぶ)
2001年生まれ、石川県出身。星稜高校2年から4季連続で甲子園に出場し、3年夏には準優勝投手に。3球団からドラフト1位指名を受け、ヤクルトに入団。2020年シーズン最終戦で1軍デビュー。昨季は開幕から先発ローテーション入りし、18登板でチームトップタイの9勝(4敗)、防御率3.26の活躍でリーグ優勝、日本一に貢献

●江夏 豊(えなつ・ゆたか)
1948年生まれ、兵庫県尼崎市出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ