南野拓実について語った宮澤ミシェル 南野拓実について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第238回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、南野拓実について。W杯アジア最終予選のサウジアラビア戦では、貴重な先制ゴールを決めた南野拓実。そんな彼が日本代表で最も生きるポジションはどこなのか? 宮澤ミシェルが考える。

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W杯アジア最終予選を戦う日本代表は、1月27日に行われたの中国戦に2対0、2月1日に行われたサウジアラビア戦も2対0で勝利。試合が始まる前までは吉田麻也(サンプドリア)と冨安健洋(アーセナル)の欠場もあって不安があったけど、最高の結果を手にできたよな。

この2戦で勝ち点の最大値を日本代表は上積みできて、ライバルのオーストラリア代表は取りこぼした。これで次戦の3月シリーズのオーストラリア代表との直接対決に勝てばW杯出場権を確保できる。昨年の序盤戦を思えば、自力突破を決められるところまでよくぞ戻ってきてくれたよ。

内容的にも大きな収穫があったよな。CBの控えが結果を出したこと。吉田と冨安という守備の要を一度に2枚欠いても、守備陣はなんら問題がなかった。これまで控え選手に不安があったけど、それが一気に解決した感じだよな。

攻撃のところでは、伊東純也(ヘンク)がますます存在感を高めたね。彼からしか崩せないという見方もできるけど、伊東というひとつ目の武器ができたという捉え方もある。あとは伊東のところに次ぐ攻撃のパターンをどうやって築いていくのか。それがW杯出場を決めて以降に取り組むべき課題だよな。

その点で言えば、南野拓実(リヴァプール)の使いどころが焦点になるんじゃないかな。南野は森保(一)体制が発足した当初は4-2-3-1のトップ下のような、1.5列目のようなところでプレーしてゴールを連発したでしょ。

それがW杯アジア2次予選からは台頭した鎌田大地がトップ下に入って、南野は左サイドアタッカーにポジションが変わった。最初は鎌田と噛み合わなくて共存は難しいのかなと思ったけど、試合を重ねながら、鎌田が引いてボールを受けることで、中央に南野が使えるスペースが生まれ、そこに南野が入ってきて鎌田からのパスを受けてチャンスをつくったりしてさ。いいコンビネーションを構築していたよな。

でも、W杯アジア最終予選の途中からフォーメーションが4-3-3に変更になって、パサーの鎌田が使われなくなったことで南野の威力は激減しちゃった。南野はサイドからドリブルやスピードなどの個の力でチャンスメイクするのが持ち味の選手ではないから、あそこに置くのはシンドイんだよね。

彼はやっぱりゴール前のところで勝負するフィニッシャーだよな。サウジアラビア戦で先制点を決めたシーンもそうでしょ。

味方のボールの持ち方や運び方を見ながらゴール前中央にポジション取りをして、ラストパスを呼び込んでゴールを決めた。しかもゴール前でシュートの時に冷静さを失わないのが南野らしさなんだよな。

ただ、サウジアラビア戦のゴールは自陣でボールを奪ってから伊東のスピードを生かしたカウンターだったから、南野が中央に入っていくことができた。でも、日本代表が押し込む場合は、左サイドが持ち場の南野は行き場を失うケースが多いんだよな。

南野が中央に入ることで生まれる縦のスペースをドリブルでガンガン仕掛けられる左SBがいたら、南野はゴール前に入る方がいいくらいなんだけど、現状では長友佑都にしろ、中山雄太にしろ、日本代表にはそういうタイプのSBがいない。

4-3-3のインサイドハーフに起用する手もあるけれど、その場合は中盤の構成と形を変える必要があるよ。それより私は、4-4-2にして南野を2トップの一角に据えるのがいいんじゃないかと思っているんだ。そうしたら南野を相手ゴールの近くでプレーさせることができるし、パサーを置くこともできるからね。まあ、森保監督はやらないだろうけど(笑)。

サッカーっていうのは上手い選手から順に起用すれば強いチームになるってわけではないからね。日本代表でもジーコ監督時代にそれをやって痛い目を見ている。森保監督というのは守備からチームを構築していく監督だからね。南野が生きるフォーメーションではなく、守備が安定するフォーメーションのなかで、どう南野を使うかってところを模索するはずだよ。そこでどんな手腕を見せるのか楽しみだよね。

いずれにしろW杯出場権を決めてからの話だからね。まだオーストラリア代表に勝ったわけでもないし、もし次戦を落とすようなことがあれば、W杯出場が大きく揺らぐわけだからさ。ただ、こういう話ができるところまで日本代表が盛り返してくれた。そのことを前向きにとらえたいよね。

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