不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第8回目のテーマは田中碧と守田英正。先日のサウジアラビア戦で見せた彼らのスタミナに福西崇史は驚いたという。
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先日行われたW杯アジア最終予選の中国戦、サウジアラビア戦をともに2対0で勝利した日本代表。次戦3月24日(木)にアウェイで戦うオーストラリア戦に勝利すれば、7大会連続でのW杯出場が決まります。よくぞここまで盛り返してくれました。
今回は吉田麻也(サウサンプトン)、冨安健洋(アーセナル)の両CBを故障で招集できなかったことで、戦前は守備を不安視されました。でも、サウジアラビア代表も背番号7番のサルマン・アルファラジという中心選手を欠いたことに助けられた部分はありましたが、実際に試合をしたらまったく問題がなかったですよね。
谷口彰悟(川崎)と板倉滉(シャルケ)がCBをつとめたDFラインは、ぶっつけ本番でもしっかり守り切りました。両選手とも落ち着いてプレーしたことが要因ですが、それを支えるように彼らの守備の負担を減らした田中碧(デュッセルドルフ)と守田英正(サンタクララ)の活躍も見逃せません。もちろん遠藤航(シュトゥットガルト)もですが。
サウジアラビア代表がしっかり攻撃に出てきたので、日本代表の両SBも高い位置が取れました。でも、逆にボールを奪われるとSBが上がったことで生じたスペースをサウジアラビア代表に使われることも。その時にカバーしたのがインサイドハーフの田中であり守田でした。
ボクは田中と守田が、あれだけ走れるスタミナを持っていたことに驚きました。川崎時代はチームがボールを保持してることが多く、あそこまで守備している姿はなかなか見なかったので。
そのイメージが強いことで「試合終盤にへバるわ」と心配して見ていたのですが、最後まで交代せずに攻守で走りまわって貢献しました。
サイドバックの攻め上がったスペースを突かれた場合、中盤の選手で穴埋めできなければ、CBがサイドに出て対応する必要があります。でも、左サイドは田中碧、右サイドは守田がしっかり戻ってきて対応したので、両CBの谷口と板倉はゴール前での仕事に専念できた。これが無失点で試合を終えられた要因のひとつでしたね。
それだけ両選手が走れた理由は、コンディション+コンビネーションが高まっていたから。海外組はシーズン中にあることに加え、帰国してから中国戦という本番を1試合挟んでコンディションが上がっていたし、4-3-3のフォーメーションの中盤をアンカーの遠藤航と組むのも5試合目。同じメンバーでやり続けたことで、スムーズさが増していましたね。
それだけに心配になるのが、遠藤、守田、田中が故障した場合です。今回の吉田と冨安のように3月のオーストラリア戦前に彼らが怪我をしてしまうと招集ができません。中盤3選手のうち誰かひとりなら代えは利きますが、ふたりが離脱となると心配です。
特に遠藤と守田が離脱という事態になれば、中盤をどう構成してもぶっつけ本番になりますからね。中盤の選手が変わるとDFラインとの関係性も変化します。ボールホルダーへのプレスの掛け方やそのタイミングが変わることで、全体の守備のバランスがズレる可能性もあります。ぶっつけ本番で臨んで、試合のなかで修正していくのは容易ではないだけに、そうならないことを願うばかりです。
中盤のところで言えば、サウジアラビア戦の働きは見事でしたが、W杯に出場する強豪国との対戦を想定した場合は、戦況に合わせて自分たちで判断してフォーメーションを変える柔軟性を発揮してもらいたいなと思いますね。
サウジアラビア戦は前半30分あたりまで相手にペースを握られて、日本代表は押し込まれました。ボールホルダーにプレスがかからず、中盤もDFラインも下がってしまいましたよね。その時に前線から無理にボールを追い回しても、攻撃的な選手は無駄に体力をすり減らします。中盤の選手たちも「上下」に加えて、「左右」もケアしなければならないので大変です。
そういうときは、監督との話し合いにはなりますが、選手主導で戦い方を割り切って変えてもいいかもしれません。アンカーの遠藤の横に守田が下がってダブルボランチとする4-2-3-1に変えたりね。
4-2-3-1なら右ボランチは右サイド、左ボランチは左サイドと、横の役割が明確になります。ピッチの仕事を少し整理するだけで、守備の負担が減ったり、相手からペースを奪い返せたりするのがサッカーなわけですからね。
日本代表は連勝していることで4-3-3のフォーメーションで不変ですが、それ以前に使っていた4-2-3-1がまったくダメなわけではありません。むしろ、どちらで戦ってもそれぞれに力を発揮できますよね。だからこそ、対戦相手の立ち位置や戦況に応じて使い分けてもらいたいですね。メンバーの力量を考えれば、試合中に変えられないわけがありませんから。そういう臨機応変さを発揮してほしいですね。
攻撃に関してはポジティブな要素が増えたと捉えています。相変わらず伊東純也(ヘンク)は素晴らしいですし、サウジアラビア戦では南野拓実(リヴァプール)が最終予選初ゴールを決めました。南野はこのゴールによって、変なプレッシャーを受けることなく、さらに得点意欲を高めていけるでしょうね。
試合展開も攻撃陣を後押しすると思いますね。次戦のオーストラリア代表は、彼らがW杯に行くためには勝ち点3が必要なため、サウジアラビア代表と同じように攻撃を仕掛けてくるはずです。それはすなわち、日本代表の攻撃陣が使うスペースが生まれることでもあります。相手からボールを奪った瞬間に縦パスを入れ、伊東や南野が活躍する場があると見ています。
大迫勇也(神戸)、酒井宏樹(浦和)、長友佑都(FC東京)の国内組のベテランも、Jリーグが開幕することでコンディションはさらに高まっていくので心配はしていません。中国戦、サウジアラビア戦の酒井はコンディションが上がっていませんでしたが、それでもあれだけのプレーをするわけです。
長友も中国戦で批判を集めましたが、ボクにしてみたら長友の特長を生かせない試合展開になっただけのことですよね。逆に評価を高めたサウジアラビア戦は相手が攻めてきたから守備でのカバー力という特長が出せただけのこと。長友らしさは2試合とも見られたと思っています。Jリーグが始まって、コンディションがさらに高まれば、パフォーマンスももっと上がるので、3月は大迫も含めたJリーグ組の活躍に期待しています。
■福西崇史(ふくにし・たかし)
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm
1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している