土井レミイ杏利 1989年9月28日生まれ 日本ハンドボールリーグ『ジークスター東京』所属 土井レミイ杏利 1989年9月28日生まれ 日本ハンドボールリーグ『ジークスター東京』所属

ハンドボール日本代表の主将として昨年の東京オリンピックに出場した土井レミイ杏利。ひょっとしたらフォロワー450万人以上を抱えるTikTokクリエイター"レミたん"の名前のほうが有名かもしれない。そんな彼が初めての書籍「レミたんのポジティブ思考"逃げられない"なら"楽しめ"ばいい!」(日本文芸社)を発売。

この本はフランス人の父と日本人の母の間に生まれ、ハンドボールで日本のトップ選手にまで上り詰めた彼の半生を振り返りながら、物事をポジティブに考えることの良さを世間に伝える一冊となっている。今回、そんな彼がブレイクするきっかけとなったTikTokの話や、今をどうポジティブに生きるかについて聞いた。

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――そもそもなぜTikTokを始めたんですか?

レミイ 友達の間で流行っていて、レミイがやったら絶対に面白いからって言われて。最初は彼らを笑わせるために始めたんです。でもやると決めたら僕はものすごいクオリティを求めるので、すでにバズっている人の分析をめちゃめちゃやって。自分が納得できるものじゃないと嫌なので何度も作り直して、1秒のシーンに30分ぐらいかかったこともありますね。

――あんな楽しそうな映像なのにすごい労力なんですね。

レミイ でもそれをやるのが楽しくて全然苦じゃないです。見てくれる方のコメントもモチベーションにつながってますし。

――友達相手にやっていたものが、広まったんですか?

レミイ ひとつの動画がバズって、フォロワーが一気に3、4000人増えたんです。TikTokって無名な人でもバズることができる。すごい可能性を感じましたね。

――TikTokで本業のハンドボールに関する投稿は少ないです。

レミイ 普通に載せてもあまり見てもらえないんです。それよりもまずは自分のことを好きになってもらって、その人が実はハンドボールをやっていて、しかもなかなかのレベルとなったら、見たいって思うじゃないですか。

――確かにそうですね。その戦略がうまくハマったのが昨年の東京オリンピックでしょうか?

レミイ 普段は日の目を見ないハンドボールが一番注目される時で、自分が日本代表に入れるかはわからなかったけど、うまく利用して認知度を高めようと計画しました。おかげさまで、TikTokで僕のことを知ってくれた人たちが、オリンピックに興味なかったけど、ハンドボールだけ見ましたとか、開会式でレミイさんを探しましたとか。

――有名になったぶん、試合のプレッシャーはなかったですか?

レミイ そうですね。結果を残せなかったらめちゃくちゃ言われてもしょうがない状況でした。目標には届かなかったけど、ヨーロッパ勢に1勝できたことはかなり大きいですし、個人的にもベストを尽くして悔いのない大会にできたと思います。

――本のタイトルに「ポジティブ思考」とありましたが。コロナ禍でなかなかポジティブに考えられない昨今です。

レミイ 状況っていうのは自分ひとりでは変えられないけど、そこでどう行動するかでその先の結果が左右されてしまう。その状況でいちばんポジティブなものを選択して行動するっていうのが大事なのかなって思うんです。僕はこの期間、あまり外に出られないっていうのと、リーグの休みを利用して、あらためてTikTokに力を入れて撮影したんです。そしたら、この1ヶ月半でフォロワーが160万人増えました。

――すごいですね!

レミイ 暗いニュースばかり流れて、家から出られない。それでもみんな楽しい思いをしたいじゃないですか。自分がそれを提供できたらなと。これは時間をがっつりかけてもやる価値あるなと。

――もしTikTokがなかったらどうなっていたと思います?

レミイ ハンドボールのキャプテンはやってたかもしれないけど、何か成し遂げることもなく普通に終わっていたでしょうね。ハンドボール界も、宮崎大輔さんがひとりで頑張ってるような状況が続いていたかもしれないです。でもTikTokをやったことで、試合に見に来てくれる人が増えて、あとは一番驚いたのは、僕の影響でハンドボール部に入りましたって子供がいたり、嬉しいですね。

――選手としてまだまだ現役ですが、日本代表を引退してしまったのはどうしてですか?

レミイ これは以前から決めてました。代表を辞めることで、ハンドボール引退後のセカンドライフへの準備期間にしたいなと。ちゃんと準備をして引退後の生活を迎えたい。ハンドボール選手のセカンドライフって、指導者か、地元に帰って普通の仕事につくか、もしくは実業団チームなので会社に残るのがほとんどなんです。でも僕はもっと違うことができるんじゃないかと。まだ明確に決めているわけじゃないけど、おそらくハンドボール界にはとどまらないです。TikTokでやったことと同じなんですが、外の世界で自分の認知度を高めて、ハンドボールのファンを増やしたい。

――せっかく日本代表の主将まで務めたのに、違う世界へ進むって大変じゃないですか?

レミイ 今回の本にも書いたんですけど、僕は挑戦することが大好きなんです。何もわからない世界に飛び込むことは怖いかもしれないけど、逆に言えば学びしかない。挑戦するほど成長できるので、楽しくてしょうがない。それと失敗することに恐れがないんです。失敗しないと学べない。分析して、こうしたらいいのかなって、トライアンドエラーを繰り返して、成長していくのが大好きなんです。なので、違う世界へ進むのは楽しみですね。