9月下旬に開幕予定のW杯出場を決めた日本女子バスケ代表。新HCのパリ五輪に向けたチームづくりに注目が集まる 9月下旬に開幕予定のW杯出場を決めた日本女子バスケ代表。新HCのパリ五輪に向けたチームづくりに注目が集まる

東京五輪で銀メダルという輝かしい成績を収めて以来、注目を集める日本女子バスケットボール代表(世界ランキング8位)。今年の9月下旬からオーストラリアで開催される女子W杯への出場権をかけて、2月10日から13日に大阪市のおおきにアリーナ舞洲(まいしま)で行なわれた予選を戦った。

参加予定だったベラルーシ(同11位)は、チーム内で新型コロナウイルス感染者が出るなどの影響で来日を断念。日本はカナダ(同4位)に勝利し、ボスニア・ヘルツェゴビナ(同27位)には敗れたものの、晴れて4大会連続となるW杯出場の切符を得た。

出場12ヵ国中で平均身長が2番目に低かった日本代表が、五輪で快進撃を見せてから約半年がたつ。多くの国にとって"倒すべき相手"となったが、五輪後に就任した恩塚 亨HC(おんづか・とおるヘッドコーチ)の指揮の下、2024年パリ五輪での金メダル獲得という高みに向け、さらなる進化を目指している。 

恩塚氏は東京五輪までアシスタントコーチを務めていた。同大会で指揮を執ったトム・ホーバス氏(現・日本男子代表HC)のバスケットボールを継承する部分もありながら、「鬼軍曹」として知られた前任者とは異なり、選手たちに「なりたい自分」という自己目標を持たせてプレーさせている。

そうすることで「なぜ自分はできないのだろう」といった後ろ向きな思考にならず、自分自身の成長にポジティブな気持ちで向き合えるからだ。

「ワクワクが最強である」

代表指揮官初陣となった昨年10月のアジア杯で5連覇を達成した後、恩塚HCはそんな言葉を述べた。厳しい世界最高峰の競争においてはナイーブなものにも聞こえるが、端的であるからこそ、選手たちや見る者をどこか引き込む魔法のフレーズにも思えてくる。

実際、W杯予選に向けた合宿の様子を収めた写真や動画を見ても、選手たちの表情や言葉はまぶしいまでに明るかった。五輪でのメダル獲得から得た自信という土台もあって、チームの雰囲気は非常にいいように思える。

むろん、「楽しい」だけで世界を獲(と)れるなどと考えているわけではない。

東京五輪で日本はスピードや3Pシュートの精度の高さ、ディフェンスの激しさを軸にした「スモールボール」で世界と伍(ご)したが、恩塚HC指揮下のチームは「世界一のアジリティ」を標榜(ひょうぼう)している。

選手とボールが動き続け、各自が的確な判断力を発揮しつつ、確率の高いシュートで得点を狙う。いわばホーバス氏のチームの「発展形」で上を目指しているといえよう。

ただ、それを機能させるためには、多くの練習量と選手間の密なコミュニケーションが要求される。今回は合宿の期間が短かったこともあり、チームの完成度は東京五輪時と比べてまだまだ低い。後半の逆襲で勝利したカナダ戦では一時20点差をつけられ、ボスニア・ヘルツェゴビナ戦では反対にリードを守りきれずに惜敗した。

ただ、W杯までにはまだ時間があり、恩塚HCの標榜するスタイルの精度は徐々に上がっていくであろうから、現段階で悲観する必要はない。よりコンビネーションが合い始めてどこからでも得点ができるようになったとき、どれだけ美しく、強いバスケットボールを披露してくれるかが楽しみだ。

楽しみといえば、大目標であるパリ五輪での金メダル獲得に向けて、どういったメンツが絡んでくるかも気になるところ。高いアジリティを発揮するには常に激しく動き続けることが求められ、ひいては選手交代が多くなるため、選手層の厚さも重要となってくる。

今回のW杯予選では、アジア杯5連覇を成し遂げた若手中心のメンバーと、東京五輪後に代表活動から離れていた、髙田真希らベテラン選手たちの融合が主題のひとつだった。

そのなかで注目だったのが、渡嘉敷来夢の合流だった。この10年余り、"日本女子バスケットボール界の至宝"として活躍してきた彼女は、20年の年末に負った右膝靱帯断裂の影響で東京五輪出場を逃した。

ホーバスHC時代からスモールボール化を進めてきたとはいえ、193cmと長身で豊かな才能を持ち、アメリカプロリーグのWNBA(シアトル・ストーム)でのプレー経験もある30歳のベテランが加わることは、金メダルという次のステップへ上がっていくために大きな力となる。

国内のWリーグでは、中断前の1月23日までの時点で、リーグ2位の平均得点(19.3点)、同1位のリバウンド(10.4)を挙げている渡嘉敷。今回のW杯予選では、カナダ戦で12点、8リバウンドをマーク。しかしボスニア・ヘルツェゴビナ戦では、相手のスター選手に対する守備の負担が大きかったことも影響して無得点、3リバウンドに終わっている。

その2試合だけで、彼女がチームのスタイルにどれほどフィットしているかを断ずるのは難しい。それでも、日本がここから世界の頂点を目指すには、「彼女の存在が不可欠だ」と現時点で断言してもいいかもしれない。それほどの存在であることは、合宿中の恩塚HCやほかの選手たちの言動からもうかがえる。

東京五輪での銀メダル獲得を外から見ざるをえなかった渡嘉敷も、「そこの舞台に立ちたいし、負けたくない、世界でもっと活躍できる選手になりたい、という思いが強くなった」と高いモチベーションを示している。

飛び抜けた才能は、時に彼女を"特別な存在"にしてきたが、今ではリーダーシップを持った大人の選手となり、一方で屈託のない笑顔でバスケットボールを楽しんでいる。いい意味で、日本代表の重要なピースとなっているように思える。

五輪から進化したスタイルと、新旧のタレントを融合させた"新生アカツキファイブ"は、世界の頂点を見据えて前進を続ける。