不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第10回目のテーマは、ついに開幕したJリーグ。今シーズンは「下位クラブと目されているチームも、あなどれないポテンシャルを持っている」と、福西崇史は語る。
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2022シーズンが始まりました。開幕節を見た限りではJ1の展望は、シーズン前の見立て通りになりそうな気がしています。それは例年よりも優勝争いに加わるチームが増えそうだということ。
川崎フロンターレは昨シーズン2位の横浜F.マリノスに勝ち点13差、一昨年は2位のガンバ大阪に勝ち点18差をつけました。もちろん、今シーズンも3連覇を狙う川崎が優勝争いの主軸になると思っています。
開幕戦ではFC東京に多くの時間帯で主導権を握られながらも、結果的には1対0で勝利。自分たちが主導権を握れない試合でも勝ち点3を手にできる。ここが川崎の強さ。鬼木(達)監督の選手起用法や選手層の厚さを考えると、ここから先も大きく負け数が増えることはないでしょうね。
それでも川崎以外に目を向ければ、着実に伸ばしている印象です。昨季2位の横浜F.マリノスは開幕戦でセレッソ大阪と対戦して2対2の引き分け。この試合はテレビで解説を担当しましたが、C大阪に先制されながらも、仲川耀人とアンデルソン・ロペスのゴールで一時は逆転したあたりは、さすがマリノスという攻撃力を見せてくれました。昨季得点王の前田大然が抜けた穴は埋まるかもなと感じましたね。
一方で課題も見えましたよね。終了直前に同点ゴールを奪われましたが、守備には不安な面も残りました。ここをどれだけ早く修正できるかが、3年ぶりの王者返り咲きのポイントになるのかなと思います。
この2チームを追うのが、昨季3位のヴィッセル神戸、昨季6位で天皇杯に優勝した浦和レッズだと見ています。両チームとも開幕戦は敗れましたが、まだまだポテンシャルはあるため、今シーズンは優勝争いに加わってくるのではないでしょうか。
ただ、川崎を含めたこの4チームは、日程面の厳しさもありますからね。ACLとの兼ね合いでシーズン序盤戦は強豪チームとの対戦が多く組まれています。開幕当初は自分たちの戦い方でも相手の出方に対しても、探り探りの部分が出るのは仕方ない面はありますが、そう悠長に構えてもいられないんですよね。この序盤戦でしっかり勝ち点を積み重ねて行ければ優勝争いの主導権が握れますが、負けが込んでしまうと低迷したままシーズン終盤を迎える危険性も孕んでいます。
開幕戦を見た印象としては、これ以外のクラブの中にも優勝を狙えるチームはあるなと感じました。開幕カードで昨季4位の鹿島アントラーズは、ガンバ大阪に3対1で勝利。昨季5位の名古屋グランパスは神戸を2対0で下しました。新監督を迎えたチームがこれから先のシーズンで、昨季からどう変貌していくのかは興味深いですよね。
特に鹿島はレネ・ヴァイラー新監督が新型コロナウイルスの水際対策のためにまだ来日できていないなか、最高のスタートを切りましたよね。ルヴァンカップを含めた5試合は岩政大樹コーチのもとで臨むということなので、その先の監督合流後の変化に注目しています。もともと能力の高い選手が揃うクラブですので、新監督のもとで戦い方の移行が上手く進めば王者復権も十分にあるでしょうね。
昨季13位のガンバ大阪も片野坂知宏新監督のもとで復活を期すシーズンになります。しかし、開幕戦では退場者を出してプランは崩れてしまいました。出鼻をくじかれた形にはなってしまいましたが、時間はかかっても片野坂監督が昨年のチームを立て直していってくれると期待しています。
FC東京も新監督のアルベル・プッチ・オルネダのもとで昨季からスタイルを真逆に変えたサッカーを展開し、開幕戦で王者・川崎を最後まで苦しめたのは評価できますよね。ゴールこそ決まらなかったですが、今後の戦いぶりは期待させるものでした。
もうひとつ、優勝争いをするチームが増えると考えている理由は、下位クラブと目されているチームも侮れない力があるからです。開幕戦ではJ2から昇格した京都サンガが、浦和レッズから勝ち点3を奪いましたが、ほかのチームも同じように上位を狙うチームの足元を救う可能性は十分に備えています。
予想で上位と下位をわけるものは何かというと、シーズンを通して安定して戦える戦力を備えているかどうかです。逆を言えば、1試合にだけピーキングをして臨めば、上位と下位にさほど大きな力の差が出ないのがJリーグでもあるわけです。
そうしたなかで、注目しているのが昨シーズン7位と躍進したサガン鳥栖です。昨年の戦力がそのまま残っていれば今季は間違いなく優勝争いに加わったでしょうが、それは叶いませんでした。主力選手たちのほとんどが移籍しましたが、選手が次々と台頭するクラブなので、川井健太新監督のもとで今季はどんな戦いをするのか、どんな新戦力が頭角を現すのかは興味深いですよね。
その鳥栖は開幕戦でサンフレッチェ広島と対戦して0対0の引き分け。60%以上のボール支配率で主導権を握り、80%以上のパス成功率で相手を押し込んだけれど、シュートは9本だけ。得点のところや、そのひとつ前のシュートに持っていく崩しで力が発揮できるようになると、昨季のようなおもしろい存在に化けるかもしれませんね。
Jリーグは3月19日の第5節を終えると、日本代表のW杯アジア最終予選のために、一時中断になります。そこまでにどのチームがスタートダッシュを決めるのか。そして、序盤戦で見つかった課題を中断期間中にどう修正し、Jリーグが再開される4月2日に臨むのか。今シーズンの行方を左右する1ヶ月になると思いますので、各チームの戦いぶりに注目してくださいね。
■福西崇史(ふくにし・たかし)
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm
1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している