サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第242回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、バルセロナについて。今シーズン低迷していたバルセロナだったが、最近はその輝きを取り戻し始めてきている。そんなバルセロナの復調の理由を宮澤ミシェルが語った。
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忘れかけていた"バルサの香り"を、ダニ・アウベスが運んできたよ。
2008年から2016年までバルセロナに在籍して、ペップ・グアルディオラ監督時代には右SBで三冠達成に貢献するなどしたアウベス(前サンパウロ)が、バルサに復帰したのは去年11月。シャビ・エルナンデス監督が窮地に陥っている古巣を率いることが決まると、盟友を助けるためにD・アウベスも復帰を決めた。
なにがカッコいいって、38歳にしてプレーでチームを助けていることだよ。年齢的に全試合に出場は厳しいけれど、起用された試合ではバツグンの存在感を示している。シャビ監督からの信頼も、D・アウベスのプレーぶりから伝わってくるね。
D・アウベスは中盤のポジションを取ったと思ったら、そこでボールを受けると中へとドリブルで仕掛けていってさ。サイドバックがそう動くことをシャビ監督が許しているんだなってのが見えておもしろいんだよね。
おもしろいって言えば、シャビ監督の表情だよ。シャビ監督はボールが動かしながら選手個々の特性が最大限に発揮できるサッカーをやっているんだけど、選手がミスしたり、リズムを崩したりすると、「なにやってんだよー!」っていう感じの表情を見せてさ。現役時代はあれほど卓越した戦術眼とテクニックを持っていた人がやると、やっぱり絵になるんだよ。
シャビ監督就任当初はなかなか調子が上向かなかったけど、1月末からリーグ戦やヨーロッパリーグで7試合無敗。1月の移籍市場でアダマ・トラオレ(前ウルブス)、フェラン・トーレス(前マンチェスター・シティ)、ピエール・エメリク・オーバメヤン(前アーセナル)を獲得したのが効いて、リーグ戦は4位、ヨーロッパリーグもベスト16に残っている。
最前線は中央がオーバメヤン、右がトラオレ、左がF・トーレスに落ち着きつつあるんだけど、まず右サイドのトラオレがいいんだよ。ペドリやデ・ヨングが入る左MFとF・トーレスが絡みながら相手を左サイドに寄せておいて、右サイドのトラオレのドリブルで勝負する形がハマっている。ヘラクレスみたいなガタイだし、スピードはあるし、1対1での仕掛けはそう簡単に止まらないよな。
最大のインパクトは32歳のオーバメヤンだよな。アーセナル時代はプレミアリーグの得点王になった実力者だけど、ここ2シーズンほどは規律違反などもあって干されていた。それでバルサに移籍したんだけど、バルサ加入後は2月28日のラ・リーガ第26節のビルバオ戦でマークした先制点を含めて6試合で5得点。過去にも環境が変わって息を吹き返した例は山ほどあるけど、オーバメヤンがここまで存在感を示したのは予想外だったね。
オーバメヤン獲得が決まった時は、バルサでの起用方法にどれくらい我慢できるのか心配していたんだ。でも、過去を振り返れば、バルサというクラブは結果を出せば、他のクラブが手綱を握れなかったオーバメヤンみたいな選手が不思議とファミリーになる土壌があるんだよな。そこがバルサが世界中の人たちに愛されている理由でもあるんだろうね。
オーバメヤンにしろ、トラオレにしろ、わがままなプレーをしながらでもゴールという結果を今後も出していってほしいね。いまリーグ戦は4位で、来季のチャンピオンズリーグ出場権のボーダーライン上だからさ。
バルサの難しいところは、メッシがクラブを出ていって、「さあ、世代交代だ!」と順位に関係なく若手を育てられたりしないってこと。若手を育てながら、最低限の成績は求められる。それがチャンピオンズリーグ出場権だよ。もし出場権を逃すようなことがあれば、苦しい財政事情はさらに厳しくなるからね。
シャビ監督はジョアン・ラポルタ会長になって誕生した体制だから、クーマン前監督よりも恵まれているという見方もあるけれど、やっぱり同じように結果を残さなければというプレッシャーはかかっているよな。来季に向けては、ここからの2ヶ月が重要になってくるからね。そこをシャビ監督がどういう采配で乗り越えていくのか。来季のバルサ復活に向けてもしっかり見て行きたいね。