現在スペインの名門レアル・マドリードの下部組織でプレーする中井卓大(なかい・たくひろ)が、来夏までとなっていた現行の契約を2年延長し、2025年夏までの新契約をかわしたことが正式発表された。
レアル・マドリードは、現在レンタル移籍先のマジョルカで活躍する日本代表MF久保建英(くぼ・たけふさ)の所属元クラブだ。その久保より2歳下の中井が契約延長したことで、レアル・マドリードのトップチームで日本の至宝ふたりが共演する可能性が広がったことになる。
近い将来、久保&中井コンビが同じピッチに立つことはあるのか。中井の契約延長のニュースを知った日本のサッカーファンは、今から胸をわくわくさせながらその日を待ち望んでいる。
そもそも現在18歳の中井がレアル・マドリードに入団したのは13年のこと。当時9歳(小学4年生)で下部組織入団テストに参加すると、類いまれなテクニックが認められて見事に合格。多くのエリートチルドレンが挑戦する狭き門を突破し、日本人として初めてレアル・マドリードの下部組織に正式加入した。
特筆すべきは、加入以降の成長ぶりだろう。「ラ・ファブリカ(工場)」の異名を持つレアル・マドリードの下部組織には、8歳から19歳までの年齢別カテゴリー計12チームと、年齢別カテゴリーとトップチームの懸け橋的役割を持つ年齢制限のない「カスティージャ(Bチーム)」が存在する。
選手たちには、毎年夏に上のカテゴリーに昇格できるか否かの厳格な評価が下され、そこで脱落していく選手が少なくない。そんな厳しい競争のなかで、実年齢よりも上のカテゴリーでプレーしてきた中井は、順調にピラミッドの階段を上り続けてきた。
そして今シーズン、「フベニールA(19歳以下)」のMFとしてプレーする中井は、昨年9月28日にUEFAユースリーグ(19歳以下のチャンピオンズリーグと位置づけられるヨーロッパの大会)でヨーロッパデビューを飾ると、その後も2試合に出場して国際舞台を経験。
まだ出場はないものの、フベニールAのひとつ上のカテゴリーに当たるカスティージャの公式戦で3度のベンチ入りを果たしているほか、2月13日に行なわれたフベニールAのリーグ戦第20節のアルコルコン戦では、途中出場ながら試合終了間際に待望の今シーズン初ゴールを記録するなど、現在も右肩上がりの成長を続けている。
そんな中井には、トップチームの監督も注意を払う。20年秋に、当時の指揮官ジネディーヌ・ジダンが故障者続出により中井をトップチームの練習に参加させたことがあったが、昨年10月にも、現在トップチームを率いるカルロ・アンチェロッティ監督が中井を含むフベニールAの3選手をトップチームの練習に招集。
フランス代表FWカリム・ベンゼマやクロアチア代表MFルカ・モドリッチといった世界トップクラスの選手たちと一緒にトレーニングをする中井の姿は、日本のサッカーファンの間で大きな話題となった。
最大の注目は、今回の契約延長で向こう4シーズンのプレーが保証されることになった中井の今後だ。
このまま順調にステップを踏めば、年齢別カテゴリー最上位のフベニールAを卒業し、カスティージャに昇格する見込みだ。しかし、そこから先は、これまでの道のりとはまったく次元の異なる厳しい競争が待っている。
なぜなら、サッカー界では18歳から国際間移籍が解禁されるため、各国からリクルートされたえりすぐりのタレントたちがカスティージャに合流。これまで以上に競争が激化するなかで、トップチームを目指さなければならないからだ。
スペインの3部リーグ(セグンダB)に属するカスティージャは、主に18歳から22歳の選手を中心に編成される、いわばトップチームの予備軍。ここで高い評価を得た者だけが、晴れてトップチームに上り詰めることができるわけだが、実際にその狭き門をくぐった選手は多くない。
例えば、今シーズンのトップチームでプレーする下部組織出身者は、カルバハル、ナチョ、ルーカス・バスケス、マリアーノの4人のみ。
国際間移籍でカスティージャに加入してからトップチーム入りを果たした選手も、ブラジル人のカゼミーロ、ビニシウス、ロドリゴと、ウルグアイ人のバルベルデの4人しかいないというのが実情なのだ。
しかも、国際間移籍によって加入するタレントは、クラブが移籍金を支払って獲得した選手ばかり。特にビニシウスとロドリゴの獲得には、それぞれ約55億円ともいわれる高額な移籍金が発生。
19年6月、18歳になったことで国際間移籍が可能となった久保建英がFC東京からレアル・マドリードに移籍した際にも、2億円以上の移籍金が支払われたとされる。
当然ながら、クラブは投資に対する見返りを求めるため、どうしても下部組織出身選手より、高額な移籍金を払って獲得した選手を重要視する傾向が強くなってしまう。下部組織出身の中井がトップチーム昇格を勝ち獲(と)るためには、そういったハンデも乗り越えなければならない。
ただし、中井にもアドバンテージはある。現在カスティージャを率いるのは、クラブのレジェンドでもある元スペイン代表FWのラウール監督だが、中井がUEFAユースリーグにデビューできたのも、飛び級でカスティージャの試合でベンチ登録されたのも、ラウール監督に認められたからこそ。
下部組織出身者でなければ、トップチームの練習に参加することもなかっただろう。それは、バルセロナの下部組織で少年時代を過ごした久保にもないアドバンテージと言っていい。
果たして、異なる道を歩む日本の至宝たちは、サッカーファンの夢を実現してくれるのだろうか。今後もふたりの動向から目が離せない。