高校通算50本塁打を誇る花巻東の佐々木(新2年)。今大会も注目だが、昨年12月の両肩の手術、いきなりの強豪との対決など試練の連続になりそうだ 高校通算50本塁打を誇る花巻東の佐々木(新2年)。今大会も注目だが、昨年12月の両肩の手術、いきなりの強豪との対決など試練の連続になりそうだ

3月18日(金)に開幕する第94回選抜高校野球大会(センバツ)。最大の見どころは、次の2点に集約される。

"ストップ・ザ・近畿勢" "試練の麟太郎(りんたろう)"

優勝争いは、昨秋の明治神宮大会を制した大阪桐蔭(大阪)、昨夏の甲子園ベスト4メンバーが残る京都国際(京都)の近畿勢が中心になるだろう。

ほかにも投打に実力者をそろえる天理(奈良)、ドラフト候補の好投手を擁(よう)する市和歌山(和歌山)。しぶとい"大物食い"の和歌山東(和歌山)、金光大阪(大阪)。今春限りで退任する藤田明彦監督の花道を飾りたい東洋大姫路(兵庫)と多士済々。

「野球どころならではの充実した戦力」か、「ハイレベルな戦いにもまれた実戦感覚」のいずれかが、近畿のチームには備わっている。

近畿勢以外では明治神宮大会ベスト4に食い込んだ広陵(広島)、花巻東(岩手)、九州国際大付(福岡)の3校が対抗馬に挙がる。どんなに実力のある高校でも、優勝旗を手にするには近畿勢の壁を越えなければならないだろう。

もうひとつの大きな見どころは、大会の目玉選手である佐々木麟太郎(花巻東)だ。新2年生ながら高校通算50本塁打をマークする"怪童"で、身長184cm、体重114kgの巨体を誇る。

父は花巻東監督の佐々木洋、中学時代の恩師は大谷翔平の父である大谷徹とドラマ性も抜群。昨秋の明治神宮大会では耳目を引きながら、2本塁打を放ってスター性を見せつけた。

ただし、今春のセンバツに限っては過大な期待は禁物かもしれない。というのも、佐々木は手のしびれが生じる胸郭出口症候群のため、昨年12月に両肩を手術したばかり。バットを振り始めたのは2月下旬からと、調整が遅れている。

冬場に本格的なトレーニングを積めておらず、高校生ならではの「ひと冬越えての成長」も期待できない状況だ。

149キロ右腕・米田(新3年)がエースの市和歌山は、初戦で佐々木擁する花巻東と対決。DeNA1年目の先輩・小園から学んだ投球術で乗り越えたい 149キロ右腕・米田(新3年)がエースの市和歌山は、初戦で佐々木擁する花巻東と対決。DeNA1年目の先輩・小園から学んだ投球術で乗り越えたい

3月4日の組み合わせ抽選会の結果、佐々木はさらなる逆境に見舞われた。初戦(大会5日目)の相手が、高校球界屈指の球威を誇る米田天翼を擁する市和歌山に決まったのだ。ただでさえ春先は実戦不足で投手有利といわれるなか、速球派右腕を相手にしなければならない。

仮に市和歌山を倒したとしても、トーナメント表の同じブロックには好投手を擁する大島(鹿児島)、大阪桐蔭などが控える。佐々木にとって「試練の春」になるのは間違いない。もし、この試練をことごとく打ち破れたら、野球ファンは歴史の目撃者になるだろう。

佐々木以外の大会の注目選手も紹介していこう。甲子園でのアピール次第でドラフト1位候補に浮上する可能性を秘めているのが、京都国際の森下瑠大である。

昨夏は2年生エースとして甲子園ベスト4進出に導いたサウスポー。重力に逆らうような伸びのあるストレートに加え、スライダー、カーブ、チェンジアップと変化球の精度も高い。昨秋時点で140キロ台前半だった球速にもうひと伸びあれば、バックネット裏のプロスカウト陣は身を乗り出すはずだ。

森下と二枚看板を担う右腕の平野順大も、不振だった昨秋から状態を高めており楽しみ。小柄ながら流麗な投球フォームで、投手としてのセンスを感じる。京都国際は大会2日目に長崎日大(長崎)と対戦する。

左投手の目玉が森下なら、右投手の目玉は前述の米田になる。2年秋時点での速球の強さは1学年上の小園健太(DeNA)を超える。昨秋は変化球の質に課題を残したが、小園という格好の手本から学んだ成果を今春に発揮したい。花巻東の強打線を抑え込めたら、大きなアピールになるだろう。

すでに話題になっているのは、奄美大島から甲子園にやって来る大島のエース左腕・大野稼頭央だ。最速146キロの快速球ももちろん魅力ながら、カーブ、チェンジアップの緩い変化球で打者をあざ笑うかのような投球が光る。

大会5日目の初戦で強力打線の明秀学園日立(茨城)を翻弄(ほんろう)できれば、旋風を巻き起こすかもしれない。

大会3日目には木更津総合(千葉)と山梨学院(山梨)という、関東屈指の好右腕を擁するチーム同士の対決が見ものだ。

木更津総合の越井颯一郎には打者のバットを押し込むような球威があり、テンポのいい投球で守備のリズムをつくり上げる。山梨学院の榎谷礼央は滑らかな腕の振りで球にキレがあり、高い将来性を秘めている。

今年も超高校級の投手陣を擁するのは大阪桐蔭だ。大阪出身の川原嗣貴、岐阜出身の別所孝亮、群馬出身の川井泰志と各地を代表する好素材の新3年生がいながら、実質的なエース格は滋賀出身の新2年生左腕・前田悠伍だ。

一見すると「完成されすぎてスケール感がない」と見られがちだが、その完成度が10年にひとりいるかどうかというレベル。常時140キロ前後でも強烈な回転のかかった快速球、緩急自在の変化球、正確なコントロール、マウンドでひるみを見せない勝負根性と"勝てる投手"の要素を見事にコンプリートしている。

西谷浩一監督は昨秋時点で「まだ1年生なので、伸び伸び投げてくれればいい」と冬場以降での本格的なトレーニングや技術指導を開始することを示唆していた。今春にどれほど成長した姿を見せてくれるか楽しみだ。花巻東とともに順当に勝ち上がれば、準々決勝で佐々木との2年生の逸材同士による頂上決戦が見られるかもしれない。

ただし、大阪桐蔭にすんなりと道を譲らない強敵が待ち構える。大会6日目の初戦の相手は鳴門(徳島)。エース左腕の冨田遼弥は四国ナンバーワンの呼び声高いゲームメーカーだ。

昨秋の四国大会準決勝では、名門・明徳義塾(高知)を相手に延長11回を投げ切り、13奪三振で勝利に導いた。冨田が大舞台で本領発揮できれば、大番狂わせが起きる可能性もあるだろう。

野手陣に目を移すと、やはり大阪桐蔭の充実ぶりが目を引く。昨夏の甲子園を経験した正捕手の松尾汐恩は、正確なスローイングとシャープなスイングを売りにドラフト候補に挙がる。元遊撃手でフットワークを使えるのが魅力で、遊撃手として評価するスカウトもいるほどだ。

大阪桐蔭には大ブレイクに期待したい大器もいる。海老根優大は181cm、83kgの雄大な体(たいく)から放たれる爆発力のある打球と、バズーカ砲のような強肩を武器にする。京葉ボーイズ(千葉)時代には世代を代表する逸材として名をとどろかせたが、高校野球でも徐々にその才能が花開きつつある。

タレントの宝庫という意味では、九州国際大付も負けていない。捕手の野田海人の二塁送球は圧巻で、昨年時点で超高校級だった。"甲斐キャノン"ならぬ"海人キャノン"をかいくぐって盗塁を成功させるのは至難の業だ。また、強肩を生かしてリリーフのマウンドに上がることもあり、140キロ台中盤の快速球には勢いがある。

俊足好打のリードオフマン・黒田義信、佐々木に匹敵する体格とダイナミックな変則打法の新2年生スラッガー・佐倉侠史朗もプロ注目の好素材だ。

佐々木ばかりが注目を浴びる花巻東だが、強打の捕手・田代 旭もスケール感がある。高校通算41本塁打で、2年夏以降の本塁打量産ペースは佐々木をも上回る。ただし、田代も昨年12月に慢性的に痛みのあった右肩を手術しており、万全な状態でセンバツに臨めるかは不透明だ。

昨秋の明治神宮大会準優勝の広陵も将来楽しみな野手が複数いる。3番・ライトの内海優太は伸びやかなスイングとしなやかな腕の振りによるスローイングが目を引く。

さらに新2年生の主砲・真鍋 慧は名将・中井哲之監督が"ボンズ"の愛称で呼ぶ大器。「広陵史上ナンバーワン」ともいわれるポテンシャルで、同学年の佐々木を超えるインパクトを残せるか。

昨秋にイチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が指導に訪れて話題になった國學院久我山(東京)には、本家を追う「久我山のイチロー」がいる。

1番・センターの齋藤誠賢は俊足好打の外野手で、広大な守備範囲は超高校級。憧れのイチローのキャッチボールパートナーを務め、大きなヒントを得ているだけに春の進化が楽しみだ。同僚の大型遊撃手・下川邊隼人も力強いスイングにますます磨きがかかっている。

遊撃手の好素材はプロ側の需要も高まる傾向にあるが、今春のセンバツには下川 邊のほかに金田優太(浦和学院/埼玉)、戸井零士(天理)と有望な遊撃手が登場する。甲子園でのアピール次第では、ドラフト候補に浮上するだろう。

今年のセンバツは3年ぶりにブラスバンドによる生演奏の応援が復活する。長引くコロナ禍やウクライナ侵攻など不穏なニュースが続くが、今春は甲子園から爽快な話題が続出することを祈りたい。