不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第13回目のテーマは、福西崇史が注目したJリーグの選手。2月のJリーグ開幕節からこれまでの間に、特に目に留まった選手がふたりいると福西崇史は語る。
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ACL出場クラブは前倒しで開催された試合があるので6試合を終えていますが、Jリーグは開幕してから第4節が終了しました。ハイライト映像などは全チームを毎節チェックしているものの、まだすべてのチームの試合をフルに見られていませんが、これまで見たなかで目についた選手がふたりいます。
ひとりは清水エスパルスのFW鈴木唯人選手。清水では元日本代表の岡崎慎司選手や北川航也がつけた背番号23番を昨シーズンから背負っています。
彼は2020年に市立船橋高から加わると、ルーキーイヤーからリーグ戦30試合に出場しました。ただ、この年のリーグ戦でのゴールはなかったのですが、昨年は33試合2得点。苦しいチーム状況にあってキラリと光るものを見せていました。
今シーズンはその才能が花開こうとしていますよね。開幕カードのコンサドーレ札幌戦で今季初ゴールを決めると、続く第2節のジュビロ磐田戦でもチームを今季初勝利に導く先制ゴールを奪っています。
第4節のセレッソ大阪戦でもゴールこそならなかったものの、ペナルティーエリア内にボールを持ち込むと、DFとの間に生まれたわずかなシュートコースを見逃さずに左足で強烈なシュートを放ちました。あのゴールに対する貪欲さがいいですよね。
鈴木唯人のどこに魅力があるかといえば、C大阪戦で見せたようなアグレッシブにゴールを狙う姿勢でしょう。それはストライカーとして勝負する以上は不可欠な要素ではあるのですが、その気持ちをしっかりと発揮できています。
ただし、これは若い選手にありがちなのですが、ゴールという結果を残したい気持ちが先走って、まわりの味方を使えばチャンスがさらに広がるケースでも、闇雲にシュートに持ち込もうとして潰されるパターン。ここのバランス感覚は非常に難しいものがあるのですが、やっぱりサッカーというスポーツはチームが勝利するのが最大の目的なので、ゴールを奪う確率の高い方を選ぶことが大事。
鈴木唯人の場合は視野を広く持って、味方を使うときは使う。そこがほかの若手FWとは違うなと感じるところです。彼がそれをできているのは、FWとしてだけではなく、MFとしてもプレーできるくらい技術的にしっかりしているからでしょうね。
DFから見て、鈴木唯人が厄介なのがトラップのうまさ。前線への飛び出しや推進力のあるドリブル、シュート力ももちろん怖い武器ですが、あのボールコントロールがあるからこそ、シュートチャンスを作り出せているところはありますね。
技術が高いだけに、次にやりたいプレーに応じて、思う通りのところにボールを置ける。今季初ゴールとなったシーンがまさにこれでした。鋭い飛び出しから味方の縦パスを巧みにコントロールしてファーストタッチで狙い通りのところに運んでDFを振り切り、冷静にシュートを決めましたね。
鈴木は2001年生まれの20歳。今年1月にあった国内組による日本代表合宿にも招集されています。2年後のパリ五輪世代のホープなので、順調に成長していってもらいたいところですが、いまの勢いで一気に大きな飛躍を遂げて日本代表のFW争いを突き上げてほしい気もします。
もうひとりは浦和レッズの柴戸海選手。2018年に明治大から浦和に加わって今季で5年目になる、今年11月で27歳になるセントラルMFですが、いままでのイメージからは変貌を遂げつつあるなと感じています。
昨季もリカルド・ロドリゲス監督のもとで30試合に出場していますが、今年はさらにプレーの幅が広くなりそうな予感が漂っています。もともと守備力と運動量の高さには定評がありましたが、どちらかと言えば自分の仕事の範疇を、自分で決めていたような印象を受けていました。
昨季から浦和を率いたリカルド監督の影響もあってか、今季は、球際の強さやボール奪取能力に加えて、ヴィッセル神戸戦で見せたようなボールを奪ってから前へという意識が強まっています。
ゲームメイクのところではリカルド監督の意図をしっかり汲める岩尾憲選手が中心となっていますが、柴戸選手もそこを高めようという意識が見えていて、ボランチとして貪欲に成長しようとしている。もしかすると今季から「22番」を背負った責任感が、そうさせているのかもしれませんね。昨季限りで引退した阿部(勇樹)ちゃんの背番号ですから。
柴戸選手はスタメンから外れる試合もあるのですが、守備力のある選手がゲームメークも覚えたら、これは心強い限りです。26歳から成長できるということを証明してもらいたいですよね。
浦和は4月15日からACLグループステージに臨みます。6試合を中2日で行う強行日程なので、柴戸のような守備力の高い選手は出番が増えるはずなので、そこでゲームを組み立てるパスワークでも成長を見せてくれることを期待したいですね。
■福西崇史(ふくにし・たかし)
1976年9月1日生まれ 愛媛県新居浜市出身 身長181cm
1995年にジュビロ磐田に入団。不動のボランチとして黄金期を支える。その後、2006年~2007年はFC東京、2007年~2008年は東京ヴェルディで活躍。日本代表として2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップにも出場。現役引退後は、サッカー解説者として数々のメディアに出演している