不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第15回目のテーマは、7大会連続のW杯出場を決めた日本代表。大一番となったオーストラリア代表との一戦を福西崇史が振り返る。
* * *
日本代表が7大会連続でW杯出場を決めてくれました。オーストラリア戦の前半が殴り合いのようなオープンな展開になったときは、ハラハラドキドキしましたけど、決めてくれて本当に安堵しました。
ストレートインでの出場権を争う直接のライバルとの対決は、引き分けでもよかったのに、前半から日本代表は攻め込んでしまった。選手というものはやっぱり常に勝つためにピッチに立っていますし、試合では何が起きるかわからないので、奪えるのなら得点は奪っておきたい。
そうした心理が働いて攻め込むこと自体は悪くはないのですが、オーストラリア代表の守備は想定よりも緩くて、日本代表としては楽に長いパスを前線に通せてしまった。これによってオープンな展開になってしまったと言えるでしょうね。
スペースでパスを受けたアタッカー陣がゴールを決めていれば違った展開になったのですが、ゴール前で跳ね返された。日本代表の前線とDFラインの間が間延びしているため、相手に反撃のチャンスをつくられてしまいました。
相手の反撃を受けてコーナーキックを与えた前半25分には、GK権田(修一)と相手DFトレント・セインズベリーがゴール前で競り合って、こぼれたボールがゴールラインを割りました。幸いなことに審判がファウルを取ってくれたので日本代表は事なきを得ましたが、別の審判だったらオーストラリア代表に得点を認めていてもおかしくないケースでしたよね。
そうした試合展開を後半になってガラッと変えられた。ここが日本代表が成長した証でもあります。目立ったのは、ゲームをしっかりと落ち着かせた守田英正でしたね。
昨年9月から始まったW杯アジア最終予選の前半戦で2敗を喫したことで、スタメンの座についた守田。日本代表が最初から順調に勝ち点を積み上げていたら、守田がポジションを手にできていたかどうかはわかりません。ただ、いまとなっては守田は間違いなく日本代表に欠かせない存在になりましたね。
希望を言えば、後半になってゲームをコントロールする役割は遠藤航にやってもらいたかったなと思います。中盤の底でアンカーをつとめる遠藤がやった方が、ピッチでの立ち位置的にスムーズだからです。遠藤にはこの部分での能力も期待しているので、11月のW杯本大会までにクラブで磨いてもらいたいなと期待しています。
オーストラリア戦で終盤に投入されて2ゴールを決めて立役者になった三笘薫は、海外移籍をして自信を深めていることが伝わってきました。それが顕著だったのが2ゴール目。1点をリードしたロスタイム、一般的にはボールをキープして時計を進めるプレーを選択します。でも、三笘はそれをせずに独力でゴール前に持ち運んでシュートを決めました。
昨年11月のオマーン戦でも、三笘は1-0でリードして迎えた試合終盤に追加点を狙って相手ゴールに向かってドリブルで仕掛けていき、そこでボールを奪われて反撃機会を与えたことがありましたよね。
でも、今回はしっかり決め切った。昨年11月の時点との違いは、三笘がクラブでもスタメンの座をしっかりつかんだこともあるでしょうね。闇雲に仕掛けたわけではなく、後半39分からピッチに立った自分の体力やスピードが、疲弊している相手DF陣にとってはボールキープをするよりも脅威になるという冷静な判断ができた。シュートを決めたこともそうですが、この部分で三笘が成長していることに目を見張りましたね。
今回の活躍で三笘のスタメン起用を望む声は大きくなっていくと思いますが、ボクは三笘をジョーカーとして手元に置いて、試合終盤のここぞという場面で使いたいなと考えますね。
三笘はゴール中央に詰めていってシュートに持ち込む能力も持っていますが、それに関しては南野拓実の方が一枚も二枚も上手。そう考えると先発は南野で、途中から三笘という組み合わせがいいのかなと思うのですが、ただ、ここから先の成長曲線次第では違った考えを持つかもしれません。そうなるような成長をしてくれることを三笘にも、南野にも期待しています。
日本代表はここから先は11月のW杯カタール大会に向けたチームづくりを進めていくことになるわけですが、もっとも力を入れてもらいたいのが国際親善試合のマッチメークです。
森保(一)監督のもとで2018年に船出した日本代表は、世代交代を推し進めながら当初は順調にきていましたが、新型コロナ禍になってから一変しましたよね。海外渡航が難しいなか、2020年には欧州組だけで親善試合を行ったりしましたが、それでも強化という面から捉えれば十分ではありませんでした。
万全な準備ができないまま臨んだW杯最終予選に苦しんだことを踏まえれば、ここからの半年間での強化の質によって、日本代表のW杯での行く末も変わると思っています。
相変わらず情勢的に海外から強豪国を招いて強化試合をするのは難しとは思いますが、その壁をなんとしても乗り越えて、日本代表よりも格上のチームとの試合を数多く組んでもらいたい。それが一番の願いですね。
森保監督がこれまで築いてきたチームは、W杯を想定した戦いなら輝きをもっと放つと思っています。ただ、いまのメンバーがベストかというと、もっと突き詰めていけます。それが可能なくらい選手たちは頭角を現していますからね。そうした新戦力を融合させながら、どんな日本代表へと変化していくのか。ここからの半年間はそれをしっかり見届けたいと思っています。