中谷潤人 1998年1月2日生まれ、三重県出身。現WBO世界フライ級王者。171cmのサウスポーで、戦績は22戦22勝17KO。中学からボクシングを始めると、2、3年生でU-15大会を連覇。卒業後は高校に行かず単身渡米して力をつけ、全日本新人王、日本王者、世界王者にまで上り詰めた 中谷潤人 1998年1月2日生まれ、三重県出身。現WBO世界フライ級王者。171cmのサウスポーで、戦績は22戦22勝17KO。中学からボクシングを始めると、2、3年生でU-15大会を連覇。卒業後は高校に行かず単身渡米して力をつけ、全日本新人王、日本王者、世界王者にまで上り詰めた

4月9日(土)、WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太(帝拳ジム)が、ⅠBF同級王者ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)と対決する統一戦は「日本ボクシング史上最大の一戦」と称されてしかるべきだろう。ゴロフキンの知名度と評価の高さから、日本のみならず世界的に注目を集めている。

このメガファイトのセミファイナルで2度目の防衛戦を行なう、WBO世界フライ級王者・中谷潤人(M.Tジム)にとっても、実力をワールドワイドにアピールするチャンスとなる。同級2位の山内涼太(角海老宝石ジム)を挑戦者に迎える中谷に、大一番に向けた意気込みを聞いた。

「こういう大きい舞台でやらせてもらえることに本当に感謝しています。たくさんの人が見てくれるので、いいパフォーマンスを発揮したいです」 

そんな謙虚なコメント、柔和な笑顔を見て侮ることなかれ。中谷は一部の在米メディアから、「日本出身選手として井上尚弥(大橋ジム)に続くスターになれる」と期待されているボクサーなのだ。

現在24歳の中谷は、プロ入り以来22戦全勝(17KO)。全日本新人王、日本ユース王者、日本王者と順調に階段を上り、2020年11月、世界初挑戦でジーメル・マグラモ(フィリピン)を相手に8回KO勝ちを飾って無敗の世界王者になった。

そして昨年9月に渡米し、アリゾナ州で同級1位のアンヘル・アコスタ(プエルトリコ)と対戦して4回TKO勝ち。「アメリカで防衛戦をさせてもらい、どういう状況でも力が発揮できるという自信を持つことができた試合でした」という本人の言葉どおり、ボクシングの本場アメリカでの初戦でも堂々たる闘いぶりを披露。ファンや関係者を驚嘆させた。

そんな今を時めく王者も、格闘技を始めた頃から圧倒的な強さを誇っていたわけではなかった。小学校3年生からフルコンタクトの空手を始めたが、当初は連戦連敗。「空手は体重別じゃなく学年別でやることが多くて、僕は体格が小さかったから大きい選手に勝てなかったんです」と振り返る。

そんななか、故郷の三重県で家族が経営していたお好み焼き屋の常連客から、「ボクシングがいいんじゃないの」と勧められたことが転機になった。中谷は、大きな話題を呼んだ亀田興毅と内藤大助の試合を見てボクシングにも興味を持っていたが、実際に始めてみると、階級制で体格のハンデがないボクシングであっという間に頭角を現すことになる。 

中学入学後に地元のジムに通い始め、中学2年生のときに32.5kg級、3年生のときに40kg級でU-15大会を連覇。自信をつけた俊才は高校に進学せず、10代半ばの若さで単身渡米し、アメリカのジムで練習を開始する。

そこで多くの世界王者を育てたトレーナー、ルディ・エルナンデスに能力を認められ、輝かしい未来への道が一気に開けていった。

「僕の気持ちを理解してくれて、両親、家族もサポートしてくれた。チームがバックアップしてくれたから、今の自分があるんだと心から思っています。みんなが正しい方向に導いてくれたと思っていますし、それを確かなものにしていくためにも、結果を残していかないといけない」

当初、高校に行かないという選択には両親も躊躇(ちゅうちょ)したというが、最終的には認め、支えてくれた。その根底に、中谷の決意と強固な意志があったことは容易に想像できる。こういったプロデビュー前の逸話は、細身の体にたくましさを備えた中谷を象徴するエピソードにも思えてくる。

村田vsゴロフキンというビッグマッチのセミファイナルを任された中谷(左から2人目)。ここで印象的な勝ち方を見せ、世界中に実力を示したいところだ 村田vsゴロフキンというビッグマッチのセミファイナルを任された中谷(左から2人目)。ここで印象的な勝ち方を見せ、世界中に実力を示したいところだ

前述した昨年9月の米国デビュー戦後、米ボクシングメディア『FightHype.com』のリポーター、ショーン・ジッテル記者は、中谷を次のように高く評価した。

「中谷は爆発力のある選手であり、アメリカでの初戦の内容は見事だった。今後、フライ級の統一路線をいけば面白くなるし、骨格的に上の階級で闘えそうなのも魅力。3階級を制することができるだけのポテンシャルがあり、近いうちにスーパーフライ級に上げれば、闘うべき相手に恵まれるだろう」

171cmとフライ級としては長身のサウスポーで、パワーとスキルを併せ持つ中谷のボクシングは、軽量級離れしたスケールの大きさを感じさせる。

また、近い将来に昇級を希望する中谷にとって、全階級でも屈指の強豪であるファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、4階級制覇王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)をはじめ、スーパーフライ級に名選手がそろっているのはプラス材料だ。「アメリカでは軽量級の選手を売り出すのは難しい」というのは定説だが、この階級なら注目度が高い試合をすることも可能かもしれない。

ただ、将来の話をする前に、まずは当面のタイトルマッチをクリアしなければいけない。周囲の期待は大きくなるばかりだが、中谷は目の前の試合を軽く考えているわけではない。

相手の山内は8勝(7KO)1敗の現WBOアジアパシフィック王者であり、中谷は「アマチュアのキャリアがあって、戦績からもわかるようにパンチ力もある選手。しっかりパンチを打ってくる」と警戒する。この不気味な相手を大舞台で圧倒できれば、ライジングスターの評価はさらに高まるはずだ。

「今回、僕の試合を初めて見てくれる人もたくさんいると思うのでインパクトを残したいですね。わかりやすいKOをお見せできるように、自分からアクションを起こしていきたいです」

目を輝かせながらそう語る中谷の視線の先に、さらに明るい未来が見えてきている。「ネクスト井上尚弥」「軽量級のスーパースター候補」とも呼ばれる逸材は、どこまで大きくなっていくのか。4月9日は村田vsゴロフキンだけでなく、中谷の伸びやかな強打と、その将来性も見逃してはならない。