いいボランチの定義を、福西崇史が深堀り! いいボランチの定義を、福西崇史が深堀り!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第16回目のテーマは、いいボランチの定義。以前配信した記事では、ボランチの役割についてを中心に、中盤の選手たちの動きの見方を解説してくれた福西崇史氏だが、今回はより踏み込んで、理想のボランチ像について語ってくれた。

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いいボランチの定義とはなにか。基本的にはすべての役割ができる選手だと思います。守備ができるのは当たり前で、そのうえで攻撃のところでもチームに貢献できる。そういう選手が、いいボランチでしょうね。

ボランチにもいろんなタイプの選手がいます。守備面なら自ら走るタイプ、味方を走らせて奪うタイプ、どっしり構えているタイプなどがあります。攻撃面でいえばボールを繋ぐタイプ、ゲームをつくるタイプ、動くタイプ、動かすタイプ、縦へのスイッチを入れるタイプなど。攻撃と守備のタイプの組み合わせは、攻守の割合をどう置いているかも含めれば選手の数だけあるといっていいのではないでしょうか。

ゲームをつくるタイプの代表格といえば、アンドレア・ピルロ(ユヴェントスほか/2017年引退)ですよね。抜きん出た特別なゲームメイクの力があることで、守備などの面では足りない部分もありましたが、そこは他の選手が補いました。

日本選手でもピルロのように攻撃的MFからポジションを下げてボランチになった選手はいます。名波(浩)さん(ジュビロ磐田ほか/2008年引退/現・松本山雅監督)や小野伸二(コンサドーレ札幌)がそうでした。ふたりともピルロより守備はできましたね。

ボールをさばくタイプならセルヒオ・ブスケツ(バルセロナ)です。バルセロナの攻撃は中盤の底、いわゆるアンカーのポジションに位置するブスケツを経由してから始まると言っていいほど。

ポール・ポグバは得点の獲れるボランチですね。所属するマンチェスター・ユナイテッドでは前線に上がりっぱなしで守備をしないこともありますが、フランス代表ではバランスを取って守備もしっかりやりながら、ここぞというときに相手ゴール前に出ていきます。

数多くの名選手がいますが、ボクのなかで最高のボランチといえば、ヤヤ・トゥーレ(マンチェスター・シティほか/2019年引退)ですね。守備は1対1の強さはもちろんのこと、相手の狙いを読んだポジショニング、191cmの身長を生かした空中戦と弱点はなかった。攻撃面でもゲームメークが巧みな選手でした。

現役ならエンゴロ・カンテが一番手ですね。岡崎慎司と一緒にレスターでプレーしていた頃は、ボール奪取のうまさと無尽蔵に動き回れる体力が目立つ選手でしたが、そこからほかの部分も成長しました。

いまではパスはうまいし、ゴール前に出ていって得点も決められるし、味方を活かす動きもできる。シュートを打つ回数は多いわけではないけれど、確実性がありますし、味方を活かすためにラインの裏に走ったりというおとりの動きもやります。

身長は168cmですが、身体能力が高いのでヘディングも負けない。ボランチの選手はヘディングは勝たなくていいけど、負けないのが大事。ボランチの理想像と言ってもいいくらいの選手になっています。

カンテの身長は日本選手と同じか、むしろ低いくらい。日本選手でもカンテのような存在になれる可能性はあると思います。実際、遠藤航(シュツットガルト)はそうなりつつあります。守備の1対1で存在感を発揮して評価を高めましたが、彼が素晴らしいのはそれだけではなく、相手ゴール前にも飛び出していけるようになっています。まだまだ成長しているので、どこまでスケールアップしてくれるのか楽しみです。

ただ、ひとりで何でもできるボランチがチームにいれば最高ですが、そういう選手は世界でもひと握りしかいないものです。そのためボランチはひとりではなく、2人で組むことが多いですよね。フィジカル的に劣る日本はそれが顕著で、どういう組み合わせになるかも重要なポイントです。
 
ボクの場合は、同じタイプの選手と組むのがプレーしやすかったですね。ヤット(遠藤保仁)は守備に対しての考え方が同じなので通じやすかった。ボクが動けない分、動いてくれる選手との組み合わせも、意思の疎通ができれば守備は楽でした。プレッシャーに行ってもらって、自分の待ち構えている方に追い込んでもらって奪えました。

それ以外のタイプの選手と組むときでも、ボクはやりにくさはなかったです。パートナーに応じて、自分が攻守の比重を変えながら適応させていました。もちろん、ゲームを組み立てるタイプの仕事はできませんし、ボールを追い回すタイプでもないので、そこを求められても出来ません。ただ、サッカーはチームスポーツなので、自分がやれなくても攻撃的な中盤にそれを得意にする選手がいれば、ボールを預けてしまえばいいだけのことなんですよね。

逆に言えば、誰と組むかによって自身のタイプを変えられるボランチがいたらおもしろいでしょうね。ボクにはそういう器用さはありませんでしたが、Jリーグにそういう選手が現れれば楽しいだろうなと期待しています。

ボランチの仕事は、ひと昔前までならボールを奪ったら完了みたいなところがありました。しかし、いまはそれに加えて、ボールを奪った後の役割も増え、得点を奪えるボランチは貴重な存在として評価されています。

つねに進化しているサッカーの中で、攻守両面にかかわる中盤の選手の仕事は今後も大きく変化していくはずです。求められる仕事に合わせて自分のタイプを変幻自在に変えられる選手が現れれば、それが世界最高のボランチになるのかもしれませんね。

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