こんにちは。野球大好き、山本萩子です。

春といえば出会いの季節。人には人生を変える出会いがあるように、野球にも試合を変える一球があります。今回はそんなお話をさせてください。

野球には試合の流れが変わる瞬間があります。見ているときに気づくこともあれば、試合後に振り返った時に、「あの一球が潮目だったね」ということもあります。

先週の試合でもそんなシーンがありました。

4月2日のヤクルト対DeNAの一戦。ヤクルトの先発は今季も活躍が期待される左腕・高橋奎二選手。要所を抑えるピッチングで6回を1失点に抑えますが、打線の援護が続かず重い試合展開。ヤクルト1点リードで迎えた8回にはDeNA牧選手のタイムリーで追いつかれ、そのまま延長へ。

私が注目したのは10回表のシーンです。

この回からマウンドに上がったのはヤクルト・梅野雄吾投手。石山、清水、マクガフなどとリリーフ陣の一角として注目されている若手投手です。先発からリリーフに回った梅野投手はハートが強く、高津監督が特に目をかけています。ファンからの信頼も厚く、こういった大事な場面を任せられるリリーフに成長しました。

しかし、DeNAの先頭打者、桑原選手を四球で歩かせてしまいます。バントで1アウト2塁。さらに次の佐野選手に右安打され1・3塁のピンチを迎えます。ここで打席に立ったのが、先ほど同点タイムリーを打った牧選手。

こういう場面で一番回ってほしくない打者ですが、牧選手に対する梅野投手の投球にしびれました。

投球を振り返ります。

1球目 ど真ん中のストレートを空振り0ー1。
2球目 打者から逃げるスライダーで1ー1。
3球目 並行カウントから打者の打ち気をそぐような落ちるチェンジアップ。見送って2ー1。

そして迎えた4球目。2ー1のバッティングカウントで投じた1球に、私は鳥肌が立ちました。

梅野選手が選択したのは、なんと3球目と同じチェンジアップ。それもど真ん中。打者だったら誰もがよだれが出そうになる甘い球です。しかし、牧選手はこの球に反応ができず、チェンジアップをまったく予想していなかったことがわかります。

この一球で勝負の流れが変わりました。さらにチェンジアップをもう一球投じて、最後はインローへ渾身のストレートで空振り三振! 続く打者も打ち取り、この裏の村上選手のサヨナラヒットへとつなげました。

試合が終わった後も、あの一球を思い出してはビールが進んで仕方ありませんでした。梅野投手とバッテリーを組む古賀捕手も若くて負けん気が強くて、だからこそできる決断だったのでしょう。

普通だったら強打者にあの球を投げるのは怖いと思います。裏をかいたつもりでも、簡単にスタンドに運ばれてしまうような甘い球。それでも、1・3塁のあの場面で勝負をかける勇気が、本当にかっこいいと思いました。

打者と投手の駆け引きには野球の魅力が詰まっています。人生はよく野球に例えられますが、私は仕事でもプライベートでも自分のアピールが苦手で、ストレートで直球勝負をすることができません。ストライクからちょっと外れるボール球を投げて相手の様子を見て、少しでも興味を持ってくれたら、今度は打ちやすい球を投げて......。きっと小手先で誤魔化してしまうタイプ。

だからこそ梅野投手の一球は、勇気を出して勝負することの大切さを教えてくれました。

これまでもこれからも、たくさんの感動をありがとう。今日も野球が私たちを待っています!

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン