3月5日のオープン戦では23球が160キロ以上(最速163キロ)、フォークも最速149キロ。ソフトバンク打線を完全に制圧した。「ここまで順調にきている」と本人も手応えを感じている 3月5日のオープン戦では23球が160キロ以上(最速163キロ)、フォークも最速149キロ。ソフトバンク打線を完全に制圧した。「ここまで順調にきている」と本人も手応えを感じている

ロッテ・佐々木朗希が4月10日のオリックス戦でNPB史上16人目、28年ぶりの完全試合を達成した。13者連続奪三振の日本記録も更新するなど、球史に残る投球を見せた。

そこで、3月24日に「週プレNEWS」で配信された佐々木朗希のインタビューを再掲載する。

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高校3年の春、U-18合宿で飛び出した163キロの衝撃から3年。一歩ずつ階段を上るように準備を重ねてきた20歳の"怪物"佐々木朗希(ろうき/千葉ロッテマリーンズ)が、ついにプロの世界で主役に躍り出ようとしている。「異次元」と騒がれたオープン戦の快投はまだ序の口。3年目の手応えと自信をたっぷり語ったスペシャルインタビュー!

■見えている世界は昨年までと全然違う

開幕を目前に控えた2022年のプロ野球。千葉ロッテファンのみならず、すべての野球ファンが佐々木朗希の右腕に胸を躍らせている。

高校時代に非公式ながら最速163キロを出し、19年にドラフト1位で千葉ロッテに入団。入団から1年半は「下地づくり」に専念すると、昨季後半には登板間隔を十分に空けながらの起用で才能の片鱗(へんりん)を見せつけた。

そして、今季はオープン戦から160キロ台を連発。3月18日の対巨人戦で初失点を喫したものの、それまでの実戦3試合・10イニングで17奪三振、無失点の内容に、井口資仁(ただひと)監督も「1年間投げ続けることができたら、黙っていても結果はついてくる」と太鼓判を押した。

さながらマンガか、特撮か。米メジャーリーグも早くも注目する"令和の怪物"が、いよいよ覚醒の時を迎えた。

――プロ入り3年目、20歳のシーズンです。子供の頃に想像していた「20歳」と比べて、今の自分はどうですか?

佐々木 子供の頃の予定では、20歳の自分は普通に大学生として勉強したり遊んだりしているはずだったんですけど(笑)。まさかプロ野球選手になっているとは予想外です。

――しかも、ただのプロ野球選手じゃないです。今や日本だけでなく世界の野球ファンからも期待されています。昨年までと、見えている世界は違いますか?

佐々木 それはもう全然違います。もちろん僕自身のパフォーマンスも違いますし、年数を重ねていろいろ経験もしてきたので。まだそこまでの余裕はないですが、高校1年生から3年生になったみたいな感じですかね。

――1年目はじっくり身体をつくり、2年目の昨季は実戦で投げ、CS(クライマックスシリーズ)での先発も経験しました。

佐々木 ああいう試合でもそれなりに勝負ができたという経験ができたのはよかったですし、今季はオープン戦の時点で、去年の終わり頃より確実にいい形で投げられていると思います。

――昨年はプロ初実戦となった3月12日のオープン戦で153キロ。シーズンとCSでの最速は159キロでした。ところが今年は2月19日の練習試合でいきなり163キロ。3月5日のソフトバンク戦では160キロ台を連発しました。

佐々木 正直、ソフトバンク戦の日はあまり調子がよくなかったんですけど、それでもあのくらい投げられたのはよかったです。

――「160キロ」って、佐々木投手の中ではどのくらいの感覚ですか?

佐々木 投げている感覚だけでいうと意外と、まあ......「こんなもんなのかなあ」という感じではありました。

――対戦したソフトバンクの選手たちは「末恐ろしい」「元同僚のスアレス(現パドレス、最速163キロのリリーバー)より余裕で速い」「何を打ったか覚えてない」とびっくりしていたそうですが。

佐々木 無理に力を入れて投げているわけでもないので、パフォーマンスが上がった分、数字も出ているんだと思います。去年はいい感覚で投げられなかったですし、調子が悪いときは悪いままで、「低いレベルで調子の波が激しい」という感じでした。今年は悪くても悪いなりになんとかできるようになって、去年より高いレベルで波を小さくできています。

――「これだ!」と思うような感覚のよかったボールは?

佐々木 うーん......そのソフトバンク戦の4回、グラシアル選手を三振に取った打席ですか。

――初球が161キロ、2球目が160キロ、そして3球目が147キロのフォークで、すべて見逃しの3球三振。いずれも外角低めの素晴らしいボールで、バッターは見送るしかありませんでした。

佐々木 決め球より、追い込むまでのカウントを取りにいった2球ですね。「8、9割の力でしっかり投げる」のが理想なんですけど、あのボールは投げるまで無駄な力が入らず、リリースの瞬間だけちょっと力が入る感覚で、キャッチャーの構えた所までいいラインで投げられました。

■「出力」の高さゆえ、投げることが怖かった

まだトップアスリートとしての肉体が出来上がっていない高校時代に160キロ超をマークするなど、ケタ違いのパワーを出せる「佐々木朗希というマシン」。故障のリスクなどが考慮された高校3年時の夏の県大会決勝での登板回避や、中10日以上を空けて先発するという昨季の起用方針については、さまざまな意見も飛び交った。

――「佐々木朗希というマシン」を乗りこなすために、この2年間、どんなことを考えて過ごしてきたんでしょうか。

佐々木 僕自身は、身体が人よりも弱いと思ったことはないんです。それよりも「出力が高い」ということなのかなというふうに自分ではとらえています。これをどう扱っていけばいいのか。

世の中にあるいろんな情報を見聞きするうちに、以前は「怖さ」が先に立ってしまっていたと思います。ほかの投手みたいに一生懸命に投げることに対して、自分で制限をかけてしまう。それは身体の耐久性の問題以上に、精神的な部分での怖さだったと思います。

――今はそれをある程度コントロールできるようになったということですか?

佐々木 僕の中でいちばん大きかったのは、頭の整理ができたことです。例えば、出力が高いのだとすれば、「持っているもの以上の力を出せる能力」に長(た)けているということではないだろうか、とか。

プロに入ってからの2年間で、自分なりにいろんな勉強をして、正しい知識を身につけて、どうすればケガをしないか、リカバリーやコンディショニング、トレーニング方法、いろいろ試せたことで、怖さも少しずつ払拭(ふっしょく)できたように思います。去年の後半あたりから試合でもだんだん腕が振れるようになりましたし、今季のオープン戦でもそれは継続できていますね。

――自分自身の頭の中にある「佐々木朗希の可能性」は、いったいどんなものでしょう?

佐々木 正直......今季が終わる頃にはこれくらいまでやれるだろう、と考えていたことが、実はこのオープン戦である程度、イメージどおりにできちゃっているんです。だから、いい意味で僕自身も自分の今後の姿、可能性が見えづらくなっています。

――どこまでいけるかわからないほどの成長速度!

佐々木 もちろん、問題はシーズンに入って疲労があるなかでどれだけできるかなんですけど、そういうときでもトレーニングなどをどれだけ継続できるかも大事だと考えていて。そこで積み重ねたものが今季の後半戦に出るのか、それとも来年に出るのかはまだわからないですが、シーズンが終わった頃には次の世界が見えてくるのかなと思っています。

――今季は井口監督も「フル回転してもらう」と言っていますし、1年間投げ続けることがひとつの目標になると思います。今は楽しみと不安、どちらが大きいですか?

佐々木 今、こうやって野球選手としてやっていられるのも、成長する楽しみがあるからです。大変なことも全然苦にならなくなってきたのは、やっぱりそこが心の支えになっていると思います。

――プロで結果を残す前からある意味で「特別扱い」されてきたという周囲の目があることも含めて、重圧も力になりますか?

佐々木 同じ年齢でも選手としての成長速度やピークが来るタイミングはそれぞれ違うので、僕の場合はほかの選手よりも時間がかかったということですよね。そこで無理をしてもしょうがない。

それより最終的に、長い間チームに貢献できる投手になることがやっぱり大事です。そういうふうに頭の中を整理して、ちょっとずつでも積み重ねていったら、気づいたときには結果が少しずつ出るようになるのかなと思っています。

背番号は「将来は170キロを出してほしい」という願いが込められた17番 背番号は「将来は170キロを出してほしい」という願いが込められた17番

■「理想」は全打者がキャッチャーフライ?

このインタビューを行なったのは3月11日。11年前の東日本大震災で被災した立場として、この時期になると佐々木朗希の発言は大きく報じられる。また今年の1月には、生まれ故郷の陸前高田市と、震災後に移り住んだ大船渡市、両方の成人式に出席したことも話題になった。

――周りからの期待といえば、この時期には震災に関する発言も毎年されています。今年は「小さい子供たちの道しるべになれば」という言葉もありました。

佐々木 僕自身が被災者なので、やはり頑張っている姿が何かの力になるのであれば、届けたいなあと思っています。行動で示すのも大事ですし、言葉でも自分の気持ちを表すことはできると思いますし。僕自身、子供の頃から関わってくれたいろんな人たちの、いい部分を感じながら自分の理想像を作ってきたようなところもあるので。

――自分ではメンタルは強いほうだと思いますか? 昨年のCSファーストステージ、楽天戦で先発したときは、2回に自身の悪送球で失点しても、すぐに切り替えてすごい投球をしていました。

佐々木 どうなんだろう......。CSのときは全然切り替えられなくて、実は引きずっていたんですけど(笑)、あんまり周りからはそう見えないみたいです。意外と心配性なので、いつも不安を抱えて投げている部分もあるんですけど。

――全然そうは見えなかったです。完璧に立ち直っていたのかと。

佐々木 まあでも、振り返ってみれば、よく頑張ったなと思うこともありますし......意外とタフな部分もあるのかもしれないですね。学生時代からけっこういろいろ言われて大変だったんですけど(笑)、それでも気持ちが切れたことは一度もないので。地道にやるべきことを続けるとか、自分の中の芯というものは揺るがないのかなとは思います。

――今まで「この人にはかなわない!」と感じた人はいますか?

佐々木 いっぱいいますよ(笑)。野球選手でも、それ以外でも、自分ができないことをできる人はやっぱりすごいなあと尊敬しますし、代われるものなら代わってみたいと思うこともあります。

――みんな佐々木朗希になりたいと思っているのに(笑)! ところで、佐々木さんの理想の投球はどんなものですか? 全打者空振りで3球三振、81球の完全試合とか?

佐々木 うーん......1試合27球で終わればいいですね。

――全員、初球打ち。

佐々木 はい。全員......なんだろう、キャッチャーフライとか(笑)。ランナーなしで三振にこだわってもしょうがないですからね。もちろん前に飛ばさせることにはリスクもありますし、投手としてのタイプ的にも打たせてとることを最初から狙うわけじゃないですけど、結果的に27球でポンポン終わるなら。

――バットにかすらせもしないとか、振らせもしないとか、そういう答えが来ると思っていたので意外です。

佐々木 27球で終われば、中4日でも余裕で回れるじゃないですか。

――チームにとってそれがいちばんいい、ということですね。シーズンが終わったときに佐々木朗希がどんな投手になっているのか、楽しみにしています!

佐々木 ありがとうございます。ここまでは順調に来ているので、僕も今までよりはちょっと楽しみです。

●佐々木朗希(ささき・ろうき)
2001年生まれ、岩手県陸前高田市出身。小学3年時、東日本大震災の津波で父と祖父母を亡くし、大船渡市へ移住。大船渡高校1年夏に最速147キロ、2年秋に157キロ、3年春のU-18高校代表候補合宿で163キロ(非公式)を計測。3年夏の県大会では「故障予防」という監督の判断で決勝戦の登板を回避し賛否が巻き起こった。19年ドラフトで4球団競合の末、千葉ロッテに入団。2年目の昨季、1軍デビューを果たし、シーズン終盤にはエース級の投球を見せた(11先発で3勝2敗、防御率2.27)。身長190㎝、体重85㎏。右投げ右打ち