サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第247回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、今季のJリーグの退場者の多さについて。第7節までに退場者が17人と、その多さが目立つJ1リーグ。宮澤ミシェルは、レフェリングが厳しくなっている影響が出ていると語る。
*****
鹿島アントラーズにとっては、"ペットボトル蹴っ飛ばし"が、痛い一敗につながったとも言えんじゃないかな。
今季の連勝中の鹿島を支えていたのが、セントラルMFのピトゥカ。でも、4月2日の清水エスパルス戦で63分に途中交代でピッチを去ると、ベンチ前に置いてあったペットボトルを観客席に向けて蹴っ飛ばしてさ。それでレッドカード。退場理由にはいくつかあるんだけど、これが『乱暴な行為』にあたるとしてJリーグからは4試合出場停止処分になったんだよね。
本人は頭に血がのぼっていただけで、そんな気はなかったかもしれないけれど、蹴ったペットボトルと中身が観客にかかったというから仕方ないよな。中身がたっぷり入ったペットボトルが直接観客に当たっていたら、もっと大変なことになっていたよな。プロサッカー選手のキック力はすごいからね。
それでも鹿島はピトゥカを欠きながら次節のアビスパ福岡戦には勝利した。だけど、リーグ5連勝で首位に立って迎えた4月10日の横浜F.マリノス戦は、序盤の得点気をモノにできず、試合終盤に守備が崩壊して0-3で敗戦。力の拮抗した横浜FM相手だと試合終盤で息絶えた感じになっちゃったよな。前半にあったチャンスをモノにできていたら違った展開になったという見方もできるけど、それを言い出したらキリがないのがサッカーだからね。
ピトゥカの退場はちょっと特殊な状況だったけど、それにしても今季は退場が目立つよな。4月10日のJ1リーグ第8節での退場者はいなかったけど、第7節までに17人が退場になっているんだよ。
1試合でイエローカード2枚を提示されて退場したケースもあるんだけど、10人は一発レッドだからね。その大部分の理由になっているのが、『得点機会阻止』だったんだよね。
この5シーズンで4度優勝している川崎フロンターレがハイラインを取っていることもあって、Jリーグはハイラインを取るクラブが増えているんだけど、これは諸刃の剣なんだよな。ハイラインだから、相手に入れ替わられると、相手には広大なスペースを与えるし、GKと1対1の状況になっちゃう。だから、DFは体をつかって相手を止める。
昨シーズンまでならこうして止めてもイエローカードで済んでいたケースが多かったんだけど、今年はそこのレフェリングが厳しくなっていてさ。DFが昨季と同じように止めたら、レッドカードを受けているんだよね。特に開幕直後のレッドカードはこうしたケースでもらうのが目立ったよな。
DFや守備的MFなど、"守備"が仕事の選手たちにしてみたら、シンドイことだよ。実際、今季の退場者のほとんどが、DFや守備的MFの選手だからね。
でも、裏返してみれば、日本サッカーのDFがさらにレベルアップするチャンスでもあるんだよな。いかにしてFWに入れ替わられない守備をするか、すり抜けられた後の対処方法、そういったものを高めていけると思うんだ。これまで通りなら、そういう部分でのレベルアップは望めないことだからね。
以前にも触れたけど、今後オフサイドのルールが変更になることが決まっている。FWに有利なルールになるなかで、今まで以上に相手FWがDFと入れ替わって攻め込んでくるケースが増えるのは容易に想像できちゃう。そうなったときにDFがカード覚悟でピンチのたびにファウルで止めていたら、選手が次々と退場になっちゃうことも起こり得るからね(笑)。
野球は大量得点差がつけばコールドゲームで試合終了だけど、サッカーもピッチ上のプレイヤーが7人未満になったら没収試合という規定があるんだよ。そんな試合は10年に一度あれば笑いのタネになるけれど、頻繁に起きたらツマラナイだけだからさ。
いまはまだレフェリングの線引きが変わったことで戸惑うこともあるだろうけど、ルールや判定基準が変わったら、そこにアジャストするのもプロサッカー選手のつとめだからね。それができずにいたら、職を失うだけのことでもあるんだよな。
先週末に行われた第8節では、判定基準の変化に各クラブの選手たちはしっかり対応できていたと思うよ。日本代表戦でのインターバル期間にしっかり適応するようにしたってのもあるだろうから、今後もしっかり継続していってもらいたいね。それが日本サッカーのDF力の向上につながっていくのは間違いないからさ。DFがピンチをどうやって止めるのか。そこにも注目して見てもらえれば、Jリーグをもっと楽しめるんじゃないかな。