サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第248回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、川崎フロンターレ(以下、川崎F)について。J1リーグで10試合を終え首位に付けている川崎Fだが、昨季までの圧倒的な強さと比べるとイマイチ調子が上がり切っていない印象。その要因を宮澤ミシェルが解説する。
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川崎Fが、「おいおい、大丈夫か?」って思っちゃう状況なんだよ。
Jリーグから昨季J1の上位3チームと、天皇杯優勝の浦和レッズが出場しているACLが開幕した。
この取材時には、第1節を終えた段階で、横浜F.マリノスと浦和は初戦に勝利。ヴィッセル神戸は新型コロナが再拡大している中国・上海にある上海上港の参加辞退の影響で初戦は、19日(火)となった。
そんな中で、昨季はJ1で圧倒的な強さを誇った王者・川崎Fが、初戦で1-1の引き分け。
相手の蔚山現代には、昨季のACLの決勝トーナメントのベスト16で対戦してPK戦で敗れているし、元ガンバ大阪のキム・ヨングォンや元横浜F.マリノスの天野純がいて、監督はホン・ミョンボ。だから決して楽な相手ではないんだよ。
その相手に引き分けなら、まずまずのスタートではあるんだけど、内容的には心配になっちゃうものだったね。
前半21分にDFラインからのロングボールを元浦和のレオナルドに先制点を決められた。追いかける展開になっても、なかなか相手ゴールに迫れなかったんだけど、最後の最後、終了間際の94分にCKから巡ってきたチャンスを車屋紳太郎が決めて、かろうじて同点に持ち込んだ。
負けなかったけど、試合全体の印象は押されていたし、ACLだけではなく、その後のJリーグのことも踏まえると、守備のところがやっぱり気がかりなんだよな。
今季は開幕前から守備は不安はあったんだよ。レギュラーCBのジェジエウが故障で長期離脱だからね。
ただ、代役には車屋がいるし、山村和也もいるから、もう少し安定した守りをすると予想していたんだけど、ここにきて綻びが目につくようになってるね。
4月2日のJ1でセレッソ大阪に4失点して負けたのが象徴的だよね。相手にしっかり研究されたとはいえ、去年まではそれをモノともしなかったのが川崎Fでもあったわけだから。
守備の脆弱さは、CBのところがわかりやすいから、そこに目が向きがちだけど、中盤の構成にまだビシッと決まる形がないのも影響していると思うよ。
橘田健人、脇坂泰斗、チャナティップ、ジョアン・シミッチなどの選手たちを、フォーメーションも変えながら使っているんだけど、どうにもパスにテンポが出ないんだよな。
今年のチームだけを見ていれば、やっぱりリズミカルだよ。サイドで時間をつくって、パス交換とスペースに抜け出す動きから攻撃を組み立てられると、だいたいのチームは翻弄されちゃう。
だけど、去年までと比べると、あの流れるような感じではないんだよ。だから、相手との力が互角だったり、攻撃に強力なタレントを持っていたりすると、反撃を喰らっちゃう。
しかも、攻撃時のパステンポがコンマ数秒のレベルで昨季と違うことでの積み重ねが、選手同士の距離感を数十センチくらい間延びさせてる。それが失点につながっている気がするんだよな。
今年から新たに加わったメンバーもいるから、去年と同様にってわけにはいかないのは当然のこと。そこを成熟させるには試合を重ねるしかないから、川崎FにとってACLはいいタイミングだったと言えるんじゃないか?
それだけに2週間で6試合やるACLのグループリーグで、チームとしての連携・連動を深めてもらいたいね。それができていけば、ACLグループリーグ突破だけじゃなく、その後のJ1でも川崎Fは「やっぱり強い」ってなるはずだよ。
でもさ、そこが中途半端なままJ1に戻ってきちゃうと、今後も大量失点で負けることはあるんじゃないかな。川崎Fサポは当然ACLの試合をチェックすると思うけど、他チームのサポーターもACLで川崎Fが変化するかどうかは観ておいたほうがいいと思うな。
「勝てるかも」ってなれば、5月以降の川崎Fとの対戦に向けて気合いの入り方だって変わるからね。