ヴィッセル神戸に電撃加入し、2019年シーズンに13得点を記録したビジャ(左)。現在スコットランドで活躍する古橋(右)も大きな影響を受けた ヴィッセル神戸に電撃加入し、2019年シーズンに13得点を記録したビジャ(左)。現在スコットランドで活躍する古橋(右)も大きな影響を受けた

「今はポルトガルでバカンスを楽しんでいるよ。引退してからは、アメリカとスペインを行ったり来たりの生活だった。残念ながら日本にはまだ行けてないから、できるだけ早く〝戻り〟たい。絶品のすしや神戸ビーフも恋しいしね(笑)」

スペイン代表の歴代最多得点記録を保持するダビド・ビジャは、つかの間のオフについて笑顔でそう話した。ヴィッセル神戸でスパイクを脱いでから丸2年。現在はアメリカでクラブオーナーを務めながら、自身のサッカースクール「DV7」を世界に展開している。

そんな希代の点取り屋が、日本での生活、自身が考えるストライカー像、古巣・神戸への思いなどを語った。

「アンドレス(・イニエスタ)が日本にいたことはすごく大きかった。彼にはたくさん助けてもらったからね。『日本でなら、これまでと違う体験ができ、ひとりの人間として成長できる』という直感は正しかったよ。まずは心から、ヴィッセル神戸に関わるすべての人たちに感謝を伝えたい」

18年12月、世界的なストライカーであるビジャの神戸加入は、大きな驚きをもって報道された。全盛期と比べるとスピードやキレには陰りが見え、プレー期間は1年だったが、その19年のリーグ戦では13得点を記録した。

引退後、経営者、かつ指導者として関わる「DV7」を日本でも開校。この2年間で、Jユースや青森山田などの強豪校にスクール生を送り込むなど、一定の成果を上げている。DV7は世界に8ヵ所あるが、なぜそのひとつに日本を選んだのか。

日本も含めて世界8ヵ所に展開するビジャのスクール「DV7」。現役時代に培ったストライカーになるための理論を、子供たちに広めている 日本も含めて世界8ヵ所に展開するビジャのスクール「DV7」。現役時代に培ったストライカーになるための理論を、子供たちに広めている

「Jリーグでプレーして感じたのは、日本人選手のベースの能力はラ・リーガでも十分に通用するということ。一方で、うまくいかない選手も出てくるとも感じた。言語、異なる文化・生活への慣れ、プレースピードなどの適応に苦労するだろうと。

私自身、8つのクラブを渡り歩くなかで〝適応〟を非常に意識してきた。必要なのは、ひと言でいうならインテリジェンス。この要素はメソッドとして落とし込めるし、選手の成長につながると考えていて、それを日本でも広めたかったんだ」

現役時代、ビジャはバルセロナやアトレティコ・マドリードといったビッグクラブでも結果を残してきた。クラブによって求められる役割は異なるが、高いインテリジェンスを生かし、各チームに適応した。ただ、「FWはチームへの献身性だけではなく、時にはエゴイスティックな部分も必要だ」と指摘する。

「FWは数字で評価されるからね。ゴールがないと、ステップアップはできない。日本人FWに足りないものがあるとするなら、メンタル的に『常にゴールを狙う』という意識や感覚。もう少しエゴイスティックになってもいい、と思うね」

身長174cmのビジャは、生まれ持った強靱(きょうじん)なフィジカルや、圧倒的なスピードがあったわけではない。それでもプロとして19年間プレーし、クラブや代表で440ものゴールを重ねた。そんなビジャの理論は、日本人FWにとっても参考になる部分が多いだろう。 

そのストライカーとしての嗅覚も、「トレーニングで培われたもの」というのがビジャの考え方である。

「いいストライカーになるための近道はない。練習の意図を自分で考え、いかに厳しいトレーニングを積めるかが一番大事なんだ。練習がメインで、試合はそのテストのようなものさ。

私の場合は、試合で冷静であること、ミスをしないことを想定して反復トレーニングをしてきた。できないことは、できるようになるまでやるしかない。

そして、ゴールを奪うという想像力を常に絶やさなかった。そうして結果が伴っていくことで自信がつき、さらに上のレベルでやれるようになる。いいFWの条件は、地道な作業と忍耐の繰り返しができることだね」

現在、スコットランドのセルティックで活躍する古橋亨梧も、神戸時代にビジャの姿勢を見て才能に磨きをかけたストライカーだ。実際に古橋は〝師匠〟から受けた影響を、過去のインタビューで次のように表現している。

「ゴール前でのアイデア、動き出し、少しの隙さえ見逃さずに結果につなげる嗅覚。彼(ビジャ)のプレーから盗んだことは数え切れないほどたくさんあります」

古橋の母校・興國高校の内野智章監督は、教え子の飛躍の理由をこう分析していた。

「高校時代から、スピードでDFの裏へ抜け出す、というスタイルは変わってません。ただ、その〝質〟が劇的に向上しました。

イニエスタという動き出しを見逃さないパサーとの出会いや、ビジャの経験や感性に触れたことで精度がより高まったんでしょう。ふたりの世界的な名手に育てられた古橋が、どこまでいくか楽しみですよ」

ビジャは古橋について、「素晴らしい選手だ」と述べたが、あえてそれ以上の言及は避けた。しかしビジャの友人であり、「DV7ジャパン」の監督を務めるアレックス・ラレア氏は、ふたりの関係性をこう読み解く。

「ダビドが古橋のことをリスペクトしていることは間違いない。同じポジションで、プレースタイルも近いしね。彼は学ぼうという意識が高く、ダビドも神戸では特に目をかけていた。セルティックでの活躍も、とても喜んでいるよ」

そして、こうも続けた。

「だからこそ、『もっと高いレベルでやれる』とも期待しているはず。ダビドは古橋の人間性にも惹(ひ)かれていたから、『才能だけでなく、人間力でも欧州でやれる選手だ』と活躍を楽しみにしている。ダビドが(スクールを開設する地に選ぶなど)日本への思いを強くしたのは、彼の影響も大きいんじゃないかな」

近い将来、古橋のようにビジャの理論を基に成長したストライカーが、世界に羽ばたくことを期待したい。

●ダビド・ビジャ 
1981年12月3日生まれ、スペイン・アストゥリアス州出身。2001年にプロデビュー後、バルセロナ、A・マドリードなどで活躍。スペイン代表では歴代最多得点記録を持つ。19年にヴィッセル神戸で引退し、現在は米クラブのオーナーや、スクールの経営・指導に力を注ぐ