ヴィッセル神戸を、福西崇史が深堀り! ヴィッセル神戸を、福西崇史が深堀り!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第18回目のテーマは、ヴィッセル神戸。シーズン開幕からいまだに未勝利で最下位と苦戦が続いている神戸。その原因はいったいなんなのか? 福西崇史が解説する。

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ACLのグループリーグが4月15日から始まりました。J1リーグで最下位に喘ぐ神戸にとっては、このタイミングでJ1リーグ戦から一時的に離脱できるのは、チーム立て直しの追い風になるのではないかと見ています。

今季の神戸は、開幕前には予想だにしなかった不振に陥っています。開幕7戦で4分3敗となったことで三浦淳寛監督が3月20日に解任。4月8日に日本での指導経験の豊富なミゲル・アンヘル・ロティーナ監督を新たに迎えました。

ただ、監督が代わったからといって、そう簡単に結果が出るものではなく、ロティーナ体制の初戦となった4月10日のセレッソ大阪戦も0-1で敗れました。就任からわずか2日で結果が出るのなら、最初から苦しい状況には陥ってはいないので、この結果は妥当と言えるのかなと思います。

今季の神戸はACLを戦うこともあって、MFやDFの補強はしました。でも、攻撃陣にはFW藤本憲明のレンタル移籍からの復帰はありましたが、新戦力がいないんですよね。昨夏に大迫勇也、ボージャン・クルキッチ、武藤嘉紀を獲得していたので、補強の必要はないと判断したのでしょうが、この状況になってしまうと、"槍タイプ"の選手がいたらなと感じてしまいますね。

神戸の攻撃陣はアンドレ・イニエスタを中心にしてボールはキープできるのですが、個で局面を打開できる選手が前線にいないんですね。浦和から獲得したMF汰木康也はいますが、盾を突くスペシャリストというわけではないですからね。そのため相手DFラインの前でパスをまわせるけれど、その先へなかなか侵入できない。これだとゴールを奪うとなったら苦しい。

同じようなボールを保持するスタイルの川崎フロンターレのようにコンビネーションで崩し切れれば、それでも問題ないのですが、神戸の場合は今のところ相手守備陣を崩し切れるわけでもない。それだけに、槍タイプの選手が欲しかったと思ってしまうわけです。

ただACLは、Jリーグと違って相手に徹底的に研究されるわけではないでしょうから、自分たちで攻撃の主導権を握りながら、J1序盤戦で露呈した課題の修正に取り組めるのかなと思います。

序盤戦の神戸は攻撃している時の守備へのリスク管理や攻守のバランス感覚に偏りがあったことで失点を増やしました。でも、ロティーナ監督は守備の構築には定評があって、守備の規律は厳しくて細かい。もともと力のある選手が揃ったチームですから、選手たちがロティーナ監督のやり方を受け入れられれば、そこはうまく改善されていくでしょうね。

ロティーナ監督のもとで結果を出すためのサッカーに比重を置ければ、守備が安定するので、ACLグループステージはもちろん、その後のJ1リーグで浮上できると思っています。その意味でポジション争いは興味深いですよね。特に守備的MFに誰が使われるのか。

C大阪戦では山口蛍と扇原貴宏がスタメンでしたが、それまでは大崎玲央が山口のパートナーに使われていましたし、ロシアリーグのロストフから元日本代表の橋本拳人も加わりましたからね。セルジ・サンペールは右ひざ前十字靭帯損傷で今季絶望ということですが、ロティーナ監督の要求をこなせる能力のある選手はいます。競争が高まることで守備への意識がこれまでよりも高まっていくでしょうね。

ここが固まってくれば、前線の組み合わせをどうするかも自ずと決まるような気がしますし、チームとしていい方向に進むのかなと期待しています。

いずれにしろ、神戸というチームのポテンシャルは高いですからね。開幕から歯車がひとつ噛み合わなくて苦戦しましたが、守備を再構築して安定すれば、狂っていた攻撃の歯車もカチッとハマると思いますよ。

ただ、勘違いしてはいけないのは、神戸にとってのACLグループステージはチーム立て直しのためだけの時間ではない。ACLだって勝負の場です。

勝負をして勝ちを重ねながら再構築していく。簡単なことではないですが、2週間ほどの期間で6試合を戦う集中開催なので、選手や監督スタッフの全員が徹底的にチームと向き合える。J1リーグ戦を戦いながら立て直すよりは、割り切りができやすいのかなと思いますね。

ロティーナ監督もスペインから初めて日本に来たのが2017年。そこから東京ヴェルディ、2019年から2シーズンをC大阪、昨年は清水エスパルスを率いてきので、Jリーグのことをある程度は理解されているでしょうから、神戸の選手の特長をつかむのに時間はあまりかからないと思うんですよね。それだけに神戸がJ1リーグに戻ってきたときに、どんなチームに変貌しているのかが楽しみですね。

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