サガン鳥栖について語った宮澤ミシェル サガン鳥栖について語った宮澤ミシェル
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第249回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、サガン鳥栖について。オフシーズンに主力の移籍などがあった中で、現在J1リーグで9節を終え、9位につけている鳥栖。その戦いぶりを宮澤ミシェルは「予想外だった」と語る。

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鳥栖の今シーズンの戦いぶりにはビックリさせられっぱなしだよ。

昨シーズンは最終的に7位だったけど、第29節まではACL出場圏内の3位につける健闘を見せてくれた。でもさ、その主力メンバーのほとんどはオフシーズンの間に他チームに移籍しちゃって、今季の登録選手37人のうち22人は新加入。しかも、監督も新たに招聘となれば、もう別のチームと言っていいくらいだから、今年は厳しいシーズンになるだろうって予想していたんだよ。それが現時点では、大ハズレ! でも、予想よりもいい方向にハズレる分にはサッカーが楽しくなからうれしいんだよね。

鳥栖は今季も基本的に3バックなんだけど、第4節からDFラインの中央を担っていたファン・ソッコを故障で欠く事態になっても、その穴を田代雅也がしっかり埋めた。両CBのジエゴと原田亘もしっかり存在感を示したからこそ、第9節終了時点での失点数がリーグ最少なんだよね。

加えて、ボランチの頑張りは見逃せないよな。中盤の構成は対戦相手によって2ボランチだったり、インサイドハーフの後方にアンカーを置くこともあるんだけど、いい選手が揃っているんだよ。

インサイドハーフやボランチで使われるのが、小泉慶と福田晃斗。その後ろで藤田直之がアンカーに入ることもあるし、試合終盤やJリーグカップ戦では福井太智や森谷賢太郎が使われている。

小泉はアルビレックス新潟から柏レイソル、2019年途中から昨季途中までは鹿島アントラーズで、その後は鳥栖でプレーしている。私は新潟での仕事もしていて小泉のことは新潟時代から見ているけど、いい選手だよ。新潟に戻ってきてくれたら、新潟のJ1復帰も近づくんだけどなぁ(笑)。福田も新潟でプレーしたことがある選手で、鳥栖には出戻りになるんだけど、いいタイミングで戻ったよな。

忘れちゃいけないのが藤田の存在だよ。セレッソ時代はロティーナ監督(現神戸監督)のもとで主力として躍動した藤田も今季から復帰だけど、34歳と年を重ねた分だけ、さらに味のあるプレーを見せているよね。毎試合スタメンで使われるわけではないけど、若い選手が多いチームだけに藤田が控えているってのは、やっぱり大きいよ。

攻撃的なところでもメンバーリストを見れば、いい選手は揃っているよ。1トップには昨季まで徳島ヴォルティスだった垣田裕暉がいて、2シャドーには堀米勇輝、菊池泰智、本田風智あたりが起用されるんだけど、そのなかで本田風智の今後は注目してもらいたいな。

鳥栖アカデミー出身で、5月で21歳になるパリ五輪世代の選手なんだけど、今シーズンでプロ3年目。これまでの印象はゴリゴリ行く感じの少し重たい選手なのかなって思っていたんだけど、スペースを見つけて動くっていうシャドーらしいポジショニングはもちろんできるし、繋ぎもしっかりできてゲームを動かせるんだよ。シュートも貪欲に狙っていけるし、今後が楽しみだよ。

ただ、鳥栖の場合、今後が楽しみな存在になると、来季は別チームにいることが多いんだよな。地方クラブは選手を育てて売ってのサイクルをつくることも大事だから、仕方ない部分はあるんだけどさ。これまでの育てた選手たちが全員残っていたら、いまごろ川崎フロンターレを凌駕していたんじゃないかって思っちゃうよな。実際はそういう選手が残っていたら次の選手は育っていないから、妄想にすぎないんだけども(笑)。

選手を育てて売る一方で、伸び悩んでる選手も集まってくるよな。横浜F.マリノスなどで10番をつけた小野裕二とか、バルセロナが獲得に動いたこともある西川潤とか、ちょっと前ならメディアに名前が踊った選手たちも今シーズンはいるんだよ。彼らにすれば伸び悩んでいる現状を打破したい思いがあって、試合出場のチャンスが多いから鳥栖を選んだ部分はあるんじゃないかな。

昨季8月から鳥栖に期限付き移籍でプレーしている岩崎悠斗だって同じだよな。もともと高校時代は世代ナンバーワンのストライカーで、東京五輪世代の攻撃的なポジションでは最初に名前のあがる選手でさ、2019年に加入したコンサドーレ札幌ではシャドーストライカーで期待されていた。でも、いまひとつペトロヴィッチ監督のサッカーでは輝けなかったんだよ。

それが鳥栖にきたら左ウイングバックにコンバートされて生き生きしてんだよな。ドリブルがうまいのは知っていたけど、運動量がビックリするくらい豊富で、よく走るし、スプリントもするんだよ。こっちのポジションが天職だったんじゃないかって思うくらい。守備のところは成長の余白がいっぱいだけど、それが見つかったのも鳥栖にきたからこそ。東京五輪は出られなかったけれど、ここから巻き返して、日本代表まで駆け上がってもらいたいよな。

小野や西川はまだ岩崎ほどチームの戦力にはなれていないけど、ポテンシャルは高い選手だからね。彼らが本来のトップフォームを取り戻して、鳥栖の力になる日が来るはずだよ。

そうやって選手が入れ替わり立ち替わり出てくるようになれば、このままシーズン終盤まで中位くらいをキープできるんじゃないか。2012年からずっとJ1にいるチームだからね。選手は大幅に入れ替わって、川井健太監督は選手、指導者として初のJ1の舞台だけれど、J1でのシーズンの戦い方をクラブやサポーターが知っているのは心強いよな。ただ、順位が決するのはまだまだ先のこと。ここからどうなっていくか、しっかりマークしていきましょうよ!

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