「心が震えるような衝撃を受けた試合は?」という質問を、レジェンドから今をときめく現役レスラーまで4名に投げかけたシリーズ企画『私の心が震えたプロレス名勝負3選』をお届け。

ひとり目は昨年、突如渡英し、WWE・NXT UK王者となったあのレスラー。

世界のサトムラとして英国の強豪女子を迎え撃ちつつ、キャリア27年ながら現在進行系で伝説を重ねる"女子プロレス界の横綱"里村明衣子。若手~中堅時代を振り返り、「自分の生き方を重ねて、こうなりたいと思った」という3試合を選んでもらった!

①アントニオ猪木vsビル・ロビンソン 1975年12月11日

私がまだデビュー3年目頃、自分のスタイルを模索していた時に、昔の海外の試合も観るようになったんです。その中で、ある人から勧められてこの試合を観て、とても感銘を受けました。

初めて会う海外の選手と対戦しても、ファンの心を掴む試合をできる猪木さんの力強さに「なんてかっこいい選手なんだ」と。それと同時に、いつかビル・ロビンソンさんにプロレスを習いたい、そしてイギリスの選手と試合をしてファンを熱狂させたいというのが、当時18歳の私が抱いた最初の夢でした。

今、私がイギリスに来ているのは、まさにこの試合がきっかけです。チャンピオンとして、スター候補の若い選手を迎え撃つのは毎回すごいプレッシャーですが、やりがいがあります。ビル・ロビンソンさんは亡くなってしまいましたし、夢を叶えるのにだいぶ時間はかかりましたが、イギリスに来て視野が広がり、自分の変化を感じています。プロレスラーとして今できることを精一杯やっていきたいと思います。

②小橋建太&高山義廣vs三沢光晴&秋山準 2007年12月2日

トップレスラーの小橋さんが腎臓がんを公表した時、ほとんどの人はもう無理だと絶望していたはず。でも1年半後にこの復帰戦を観た時は、今までで一番泣きました。病気やいろんな問題を抱えた日本中の人が、みんな勇気づけられた試合だと思います。

実は私もこの時、眼窩底骨折で1年間欠場していたんです。3回手術をしたんですけど、半年経ってもすべてが二重に見えてしまう。「もう復帰できないんじゃないか」と思っていた時に、この小橋さんの復帰戦を観て、「何が何でも復帰するぞ」という勇気をいただきました。

また、この試合では高山さん、三沢さん、秋山さんとの絆も感じます。一人ではできないし、強いライバルがいてこそ輝けるのがプロレスなんですよね。

③北斗晶vs神取忍 1993年4月2日

初めて観た女子プロレスの試合。「女性でここまでやる人間がいるんだ!」と、男子プロレスより衝撃を受けました。北斗さんのブレない言動、芯の強さに惹かれ「いつかこの人と試合がしたい」と。

初めて対戦したのは、16歳の時。試合後に「この世界は礼儀も大事だけど、リングの上での気遣いは一切いらない。先輩でも気にせずに突っかかっていかないとトップは取れないよ」と言われて、なんて懐の広い方なんだろう、この世界に入って良かったと思いました。女子プロレスの先輩方は、リングを降りると皆さん本当に優しいんです。

北斗さんは、試合ではすごい気迫なのに笑顔で料理する一面も見せたりして、そういう女性の持つ強さにも惹かれます。私自身は生理で倒れそうでも骨折してても「我慢しなきゃ」と、そのことを言えませんでしたけど、それを今の時代に残すのは良くないなと。

男性と同じようにできることだけが強さではないですし、仙女(センダイガールズプロレスリング)の若い選手にも自分を弱いと思わないでと言っています。どんな女性にも必ず魅力があります。未来の選手が競技しやすい世界にしていきたいし、プロレスに限らずどんな職業でも、自分の持つ魅力を最大限に活かせる世界になればいいと思います。

●里村明衣子(さとむら・めいこ)
1979年11月17日生まれ 新潟県出身 女子プロ界初の地方団体『センダイガールズプロレスリング』代表。1995年、女子プロレス史上最年少の15歳でデビュー。2021年1月、WWEとコーチ兼選手契約。同年6月にはイギリスに渡りNXT UK女子王座を獲得し、22年5月現在も防衛中。
公式Twitter【@satomurameiko】
公式ブログ https://sendaigirls.jp/blog-category/satomura-blog/