毎年、シーズンが始まると目が離せない! という日本のMLBファンは、今年は耳も離せなくなりそうだ。本書『ベースボール・イズ・ミュージック!』を手に取ったその日から――。
映画『私を野球に連れてって』の誕生秘話。球場でのオルガン演奏の変遷。チームごとの定番ナンバーに、選手ひとりひとりのウォーク・アップ・ソング(登場曲)。そして野球に魅せられた数多くのアーティストのエピソードから、ビートルズとベースボールをつなぐかすかな線まで、音楽とMLBが交差する話題を計521個の脚注と共にぎっしり詰め込んだ一冊。
著者のオカモト"MOBY"タクヤ氏は、ロックバンド「SCOOBIE DO」でドラマーを務めながら文筆業とMLBの実況・解説をこなし、さらには昨年俳優デビューまで果たしている。もはや何刀流なのかわからないが、多彩な活動の軸は幼少期からブレていない。ベースボールと音楽への愛!
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――MOBYさんは1976年生まれで、少年期はまだMLBの情報があまり入ってこない時代だったと思います。どのようにファンになられたのですか?
MOBY 5、6歳の頃、カタログに出ていたピート・ローズの写真を見て、「見たことのないユニフォームだけど、どこのチームかな?」と思ったのがMLBとの出会いでした。あとはプロ野球の、いわゆる助っ人外国人の活躍がものすごくカッコよく見えたんです。彼らの経歴を通してMLBのチームを知ったり。
もう少し大きくなるとベーブ・ルースの伝記や、『週刊ベースボール』のコラムを読んだり、日米野球を見たり。そうやって、与えられる範囲の情報から「大リーグってすごいなあ!」と妄想を膨らませていました。
――初著書は表紙からしてカブスカラーで攻めていますが、シカゴ・カブスのファンになった経緯をお聞かせください。
MOBY 映画『ブルース・ブラザース』を見て、ブラックミュージックに関心を持ったんですが、音楽とシカゴへのオマージュ満載のこの映画に、カブスの本拠地リグレーフィールドも出てくるんですね。強くはないけど地元のシンボル的な存在になっている。こういう愛され方が、まずいいなと思っていました。
その後、大学1年の夏休みにアメリカを旅行して、MLBを4ヵ所で観戦したんですが、どこよりもカブスとリグレーフィールドの雰囲気がハマりました。それ以来ずっとカブスファンで、かつブラックミュージックに根差したバンドを続けています。
――本書に出てくる曲の中には、町をテーマにしたものもあります。MLBではチームへの思いと町への思いが重なる傾向が強いのでしょうか?
MOBY そうですね。カブスが勝ったときに流れる曲のひとつは『スイート・ホーム・シカゴ』ですし。しかもブルース・ブラザースバージョンです。シカゴ・ホワイトソックスでもこの曲は流れてます。やっぱりアメリカは基本的に合衆国、州が集まって成り立ってるわけですから、それぞれの州や町の、地元意識がよく歌われるのでしょう。
――アメリカの近現代史と結びついているのもMLBの魅力のひとつだと、本書を読んでいてあらためて感じました。
MOBY アメリカの歴史の重要な一部だという感覚がグッときますよね。黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンの登場はそれ自体がアメリカ史における大事件でした。また国歌斉唱には名だたるアーティストが呼ばれることが多く、それを追うだけで音楽史がひとつできてしまうし、そこから生じる事件もあります。
1968年のワールドシリーズ第5戦でホセ・フェリシアーノが披露した弾き語りは素晴らしい熱唱でしたが、「アレンジしすぎている」と大バッシングを受けました。当時はベトナム戦争のさなかで、あの程度のフォーキーな歌い方でもまだ早すぎたのでしょう。
しかもホセは移民(プエルトリコ出身)なので、よけいに変な受け取られ方をしたのかもしれません。けれども当時から絶賛する人はいたし、やがては受け入れられていきました。それも歴史ですよね。
――ベースボールを愛するアーティストが数多く登場しますが、なかでも印象的なのがレイ・チャールズのエピソード。6歳の頃に失明してしまった彼は、耳で観戦を続けていたのですね。
MOBY そうなんですよ。長年のロサンゼルス・ドジャースファンで。彼はヴィン・スカリーというアナウンサーのラジオ実況が大好きで、「音楽を聴くように野球を聴いていた」と語っています。
スカリーさん本人に会ったときは、いついつの試合の話を聞かせてくれ、と盛んにねだったそうです。要は彼にとって野球は聴くものだったんです。そのエピソードを書いたら、担当編集の方が「これをタイトルにしたい」と。それでこのタイトルになりました。
――なるほど! 本書の核心になるエピソードだったのですね。
実況といえば、MOBYさんご自身もABEMAのMLB中継で解説・実況をなさってます。今季の見どころはいかがでしょう? ごひいきのカブスには鈴木誠也選手が入りました。
MOBY 現地メディアを見ても、本当に期待されてるようですね。5年契約というのは、カブスの選手の中で一番将来が約束されているような待遇です。向こうの人にとっては、チームの方針に合致した選手を取ったら、それがたまたま日本人だったという感じでしょう。
調子を落としても、持ち前の明るさでうまくやっていくんじゃないでしょうか。すごく楽しみです。
――ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手は?
MOBY 去年に続いて、歴史が変わる瞬間に立ち会う意識で見ています。ホームランが何試合出てないとか、そんなことはいいんです! もちろん打ってほしいけど、彼がずっと試合に出ることが大事ですから。
――最後に、MOBYさんが考える、本書の楽しみ方、使い方をお聞かせください。
MOBY 僕にとっては、この本は自分用のカンニングペーパーです。「あのことについてしゃべりたいけど、具体的な名前や数字が出てこない」というときに調べるのに使えます。
あと、この本に出てくる楽曲を順番に並べた全130曲のSpotifyのプレイリストがありますので、併せてお楽しみいただければ!
●オカモト"MOBY"タクヤ
1976年生まれ、千葉県出身。左投左打。市川高校、早稲田大学第二文学部卒業。"LIVE CHAMP"の異名を持つロックバンド「SCOOBIE DO」のドラマー兼マネージャー。MLBコメンテーターとしても知られ、J SPORTS『MLBミュージック』メインMC、MLB配信サービスSPOTV NOWやABEMAにてMLB中継の解説・実況を担当。MLB専門雑誌『Slugger』にてコラム『ベストヒットMLB』連載中。音楽・MLB・酒場に関する執筆、クイズ作家としても活動。2021年にはテレビ東京系ドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』で俳優デビュー。現在FMおだわらにて放送中『ベースボールは歌う』メインMCを務める。「SABR(アメリカ野球学会)」会員、「野球文化學會」会員
■『ベースボール・イズ・ミュージック! 音楽からはじまるメジャーリーグ入門』
左右社 2530円(税込)
ロックバンド「SCOOBIE DO」のドラマーにして、MLB解説・実況も務めるオカモト"MOBY"タクヤ、待望の初著書。MLBと音楽について豊富な注釈付きで幅広く解説し、新しいベースボールの楽しみ方を徹底ナビゲートしてくれる一冊だ。巻末には、大谷翔平選手ほか日本出身メジャーリーガーの入場曲一覧も収録。なお、Spotifyでは、本書を書き上げながらMOBY氏自らが作った全130曲のプレイリストを公開中!