昨季のJLPGA(日本女子プロゴルフ協会)ツアーで9勝を挙げ、賞金女王となった稲見萌寧。共に「黄金世代」(1998年度生)で、5勝を挙げた小祝さくらと3勝の原 英莉花。「プラチナ世代」(2000年度生)では、4勝の西村優菜、2勝の吉田優利......。
今季も彼女らを主役にツアーは巡っていくと思われたが、3月の開幕からここまで圧倒的な強さを見せているのは、2001年生まれの西郷真央である。
千葉出身で、高校2年から尾崎将司に師事する西郷は、19年に日本女子アマチュア選手権のタイトルを獲(と)り、その年にJLPGAプロテストに合格した。
昨季は賞金ランキング4位。新人としては十分な結果を残したものの、幾度となく優勝争いをしながら2位が7回と、一度も優勝トロフィーを掲げることはできなかった。
今季、初優勝は時間の問題ではあったが、西郷はそれを開幕戦で成し遂げた。するとせきを切ったように快進撃が始まる。2週連続優勝を含め、3、4月で7戦4勝と驚異的な勝率を残した。
メルセデス・ランキング(賞金ランクに代わるポイント制ランキング)では1200ポイントを超え、2位に500ポイント以上の差をつけてトップを独走している(5月17日時点。以下同)。
昨季から今季にかけて「30試合連続アンダーパー」という記録も作り、安定感のあるゴルフを見せるが、強さの理由をプロゴルファーで解説者のタケ小山氏はこう語る。
「西郷はスイングの完成度が高い。今は、足で地面を踏み込み、その反力を利用して飛ばすのがはやりのスタイルですが、彼女の場合はインパクトゾーンを迎えても体の左サイドが浮きません。それを支える体幹、下半身の強さもあります。
また、ほかの選手と比べることなく、自分のスイング、ショットの精度重視の戦い方を貫く意志の強さも感じますね」
優勝に届かなかった昨シーズンとは何が変わったのか。
「西郷はショットメーカー(正確なショットを打つプレーヤー)ですが、アプローチとパターの〝ショートゲーム〟の技術も上がっています。勝負どころでピンチになっても、アプローチ、パターでパーセーブをして切り抜けられるようになりました」
開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」最終日の18番パー5。第2打をバンカーに入れ、ボールの位置的にグリーンに直接乗せられない状況になった。しかし第3打をグリーン横のラフに出し、そこからアプローチで寄せてパーを拾った。結果的に1打差で初優勝をつかみ取っている。
スタッツを見ても、1ラウンド当たりの平均パット数は、昨季ツアー59位(30・1070)から今季38位(29・4615)へと上昇。
また、アプローチ力を測るリカバリー率(パーオンしなかったホールでパー以上のスコアで上がる確率)も24位(63・6496)から1位(73・0769)へと急上昇している。このシーズンオフでショートゲームを強化したことが数字や結果に表れているようだ。
さらに小山氏は「〝師〟の存在も大きい」と話す。
「師匠である〝飛ばし屋〟尾崎将司プロはショートゲームもすばらしい技術を持っており、数多くの優勝を手にしてきました。尾崎さんはスイングに関してはあまり指導をしないようですが、(ゲームに対する)心の持ちよう、体のつくり方など、さまざまなことを学んでいると思います」
その西郷と同学年、プロ同期の山下美夢有も活躍している。大阪出身で150cmと小柄な山下は、昨年4月の初優勝後に足踏み。
今季は3週連続予選落ちも経験したが、JPLGAメジャー初戦の「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」では、初日に64を出しトップに立つと、トップを譲らず完全優勝を果たした。メルセデス・ランキングは3位につけるが、小山氏は山下の強さについてこう語る。
「ドライバーの飛距離は出ませんが、無理なプレーをまったくしません。彼女もショットメーカーで、フェアウェイウッド、ユーティリティがうまい。西郷と同じく、自分の戦い方をよく知っています」
西郷、山下の学年には、全米女子オープンを制し、今季は米LPGAツアーを主戦場としている笹生優花もおり、さらなる飛躍が期待される。
その世代に押され気味だった「黄金世代」も、〝新顔〟が初優勝を飾っている。そのひとりが、芸能人やアスリートを多く輩出する地元・東京の日出高校出身の植竹希望。
切り返しが鋭く、深いタメのあるスイングは「ツアー屈指の美しさ」といわれており、高いパーオン率を誇る。昨季は最終ホールでティーショットを池に入れて優勝を逃すといったこともあったが、今季の「KKT杯バンテリンレディスオープン」では、4人による6ホールに及ぶプレーオフを制して初優勝。精神面の成長も見せ、ランキング7位からの上昇を目指す。
もうひとり、新潟出身の高橋彩華は、16年に日本女子アマチュアのタイトルを獲った選手。アイアンのショット力の評価が高く、現在のランキングは2位。昨季は21試合でトップ10入りしたが、最終日にスコアを伸ばせず逆転されることも多かった。
しかし今季の「フジサンケイレディスクラシック」では、最後まで崩れることなく、悲願の初優勝を手繰り寄せた。
各世代が刺激を与え合っているが、今後、ツアーの軸は「黄金」や「プラチナ」、さらにその下の世代に移っていくのか。
「西郷や山下は、稲見や小祝、西村らが本調子になったときに真価が問われることになるでしょう。今のツアーには昔の不動裕理、申(シン)ジエのような絶対的女王がいない〝戦国時代〟といえます」(小山氏)
西郷より若い選手もトーナメント上位に食い込み始めているが、どの世代の、どの選手が戦国時代を制するのか。ツアーの行方に注目だ。