試合中の駆け引きをフカボリ! 試合中の駆け引きをフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第23回目のテーマは、試合中の駆け引きについて。現役時代にボランチとしてプレーしていて、やりがいに感じていたことのひとつは相手選手との駆け引きだったと語る福西氏。その中でも特に印象深く残っているのが、松田直樹さんとの対戦だったという。

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現役時代にボランチとしてプレーしていて楽しかったし、やりがいに感じていたもののひとつが、相手選手との駆け引きでした。相手の裏を突く攻撃ができたり、相手の狙いを読み切った守備の対応ができると、達成感や充実感がありましたね。

そうしたなかでも、故・松田直樹(2011年没)との攻防はとても緊張感のあるもので深く思い出に残っています。ユース時代から各年代の代表を歩んできた松田は、ボクと学年が同じでしたので、いつも意識していました。ジュビロ磐田時代、彼のいる横浜F.マリノスとの対戦では、目の前でマッチアップしていなくても、松田とは駆け引きがつねに存在していました。

サッカーでの駆け引きはFWならCBと、サイドバックなら対面にいるMFやSBと駆け引きをします。ボランチは基本的には相手のトップ下やFWを見ます。ただ、守備の中心を担っているため、状況次第では相手のあらゆるポジションの選手との駆け引きが生まれます。

たとえば、こちらは4バックで2ボランチ、相手は2トップだとして、相手に押し込まれて自陣の右サイドから崩されているとします。ボール・ホルダーには右MFがプレッシャーをかけ、右SBは縦への突破をケアしながら、2対1の状況をつくれるように対応します。

その時の右ボランチのポジションは、相手ボールホルダーが中央へカットインしてきたときに対応できる位置を取ります。カットインしてきたら、相手に寄せつつ、右CBと連携しながら、味方からのパスを待つ相手FWの動きにも気を張ります。

左ボランチはゴール中央の前で、左CBとともに相手FWや、DFラインの裏に飛び込もうとする相手の2列目の選手をケアします。それと同時に逆サイドに走り込もうとする選手がいないかも、つねに警戒します。なぜなら右サイドへの守りに意識が向いている時に、ペナルティーボックスの左側へパスを通されれば一気に失点のリスクが高まるからです。

こういう感じで相手が使いそうなスペースをケアしながら、守備側は相手のFWや中盤の選手を見るのですが、マークが甘くなっているポジションの選手がいます。それが相手CBです。それを熟知していたのが松田でした。守備側の意識が自分に向いていないのを敏感に察知し、スルスルっとポジションを上げて突如としてゴール前に現れるのです。

不思議なもので、駆け引きをする相手選手とは目が合うんですね。攻撃と守備で立場は違うのですが、狙っていることや考えていることは同じなんだと思います。試合中に何度も松田とは目が合いましたね。

そのためボクは守っている時は目の前で対峙する相手だけではなく、リベロの松田がどこにいて何を狙っているかの気配にも気を使いました。目線を向けることで少しづつ前線に向かっていた彼の足を止めたこともあれば、相手にも聞こえるようにわざと大きな声で味方に指示を出して、攻撃参加を諦めさせたこともありました。また、攻め上がられたときに対応できるようにポジショニングを変えることも。

逆にゴール前にあがってこようとしているのがわかっていて、「ヤベー」と思っているのにボクがボールに行かないといけなくて、松田を自由にさせてしまってやられたこともありました。 
 
こちらの動きひとつ、掛け声ひとつで、松田の狙いを封じた時は充実感がありましたし、苦い思いもたくさん味わうことにもなりました。

もちろん、松田以外との攻防にも駆け引きの醍醐味がありました。攻守の要であるボランチは、試合の中では目の前で起きている状況に対応をしながら、次のプレー、その次のプレーと先を予測し、相手の動きにも目を配らなければいけません。局面を見ながら全体像を捉えることができている時は、守備がうまくいったのを覚えています。

ただし、ピッチレベルで選手が目線を向けたり、声で牽制しているところは、スタジアムで観ている人にはわからない攻防です。中継などで観ている人にも伝わらないと思います。ですが、選手がボールのない方向になぜ顔を向けたのか。味方に相手陣を指差しながら何かを発している。そういうシーンには、ボールのある局面とは異なる攻防があると受け取ってもらっていいと思います。

こうしたシーンはボールのある局面だけを見ていては、見逃してしまいます。選手と同じように、ボールのある局面を見つつも、その周辺で選手たちがどういう動きをしているかをつぶさに観察することが大事になります。

選手のピッチでの動きすべてに意図があり、狙いはあります。

「あの選手はあそこのスペースを次に使おうとして狙っているんじゃないか」
「あそこにスペースを作るために動いてマークを引き連れたんだな」
「味方にパスコースを開けるために動きを止めたんだな」

選手の動きを見て、そこを感じ取れるようになるのは難しいですが、意識ながら試合を見続けていると、やがて理解できるようになります。ボクもサッカー中継の解説をつとめるときは、そういうところに注目してもらえるように取り組んでいます。それをもっとわかりやすく伝えられるように努力もしていきますね。

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