スポーツ指導の現場で暴力はあってはいけないと語るセルジオ越後氏

残念だけど氷山の一角だろうね。ほかにも同じようなことが起きている部活は全国にたくさんあると思う。

熊本県の秀岳館高校サッカー部で起きた騒動が波紋を呼んだ。男性コーチによる部員への暴行動画がSNSで拡散。その後の調査で、以前から部内では暴力行為があったことが確認された。

また、部員たちによる"自主的"な謝罪動画制作を把握し、指示を出していたことがバレた監督による脅迫的な言動、過去の暴力行為なども取り沙汰されている。

スポーツ指導の現場で暴力はあってはいけない。当たり前だ。

でも、日本ではサッカーに限らず、あらゆる競技の現場でそうした理不尽な指導が"教育の一環"として行なわれてきた。スポーツの世界だけでなく、一般の会社でもそうだよね。

僕がブラジル時代に両親から聞いていたのは、日本では先生は親よりえらいから絶対に逆らってはいけないということ。実際に日本の実業団に入ったときになるほどと思ったよ。「監督と選手」の関係はあくまで「先生と生徒」。完全なタテ社会だ。

サッカー教室で全国を回っていたときも、それを実感する機会は多かった。高校サッカーの名監督といわれる人の中にも、生徒に暴力を振るう人がいる。それでも結果を出しているから、OBや親からは恩師として感謝されている。僕には理解できなかったね。

サッカー教室に来た子供たちを見ていると、ミスをすると怒られるという不安が強いから、FKの場面で誰も蹴りに行かないことがよくあった。「君、蹴りなさい」と指名すると、「失敗してもいい?」と確認してくる。そんな調子だ。普段どういう指導を受けているのか、だいたい想像がつくよね。試合に負けたら、グラウンドを何十周も走らされるとか当たり前だった。

僕はそういうやり方を変えたかった。だから、指導者講習会のときには「子供はわざとミスはしないよ。怒られて、おびえながらサッカーをやっても伸びないよ」と言うようにしていた。

「誰だって授業中に消しゴムを使えない学校には行きたくない。消しゴムをたくさん使ったらホメられる学校に行きたいでしょ。そっちのほうが勉強をしたくなるでしょ」というたとえ話もよくしたんだけど、彼らがどれだけピンときていたのかはわからない。

もちろん、なんでもかんでも子供の自由にやらせればいいわけではないし、子供を育てる過程にあって、厳しさが必要なときもあると思う。100パーセントの正解は僕にもわからない。でも、やっぱり暴力はダメだ。

ちなみにブラジルにはそもそも部活がないから体罰もない。サッカークラブは強くなればなるほど指導も選手間の競争も厳しくなるけど、暴力なんて許されないし、もし監督が選手に手を上げたら、逆に殴り返されるだろう。

昔はパワハラという言葉すらなかったわけだし、日本の状況も少しずつ変わってきているとは思う。でも、まだまだ現場には昔の指導を経験してきた世代が多い。時に暴力を伴うような厳しい指導を乗り越えてきたからこそ、今の自分があると考えている。あの秀岳館の監督もそうなんじゃないかな。また、いまだに学校にそういう指導を求める親もいる。

残念だけどそれを完全になくすのは簡単なことじゃない。10年単位で時間がかかるだろうね。

★『セルジオ越後の一蹴両断!』は毎週木曜日更新!★